初夏の空高く、オレンジ色に輝く1等星「アルクトゥールス」。全天で4番目に明るいこの星は、超絶変な星です。大都会の真ん中でも楽々確認できるこの星について、語ってしまいますよ!
あれ、アルクトゥールスって言うんですか? 知らんかった。
星の名前には、よく知られているものがいくつかあります。たとえば冬の1等星「シリウス」などは、歌のタイトルにもなれば、政党の名前にもなり、ハリー・ポッターではハリーのお父さんの親友にしてハリーを守るナイスガイな準主役クラスの人物の名前でございます。また、同じ冬の星ベテルギウスは、歌のタイトルにもなりつつ「もうすぐ爆発しそうなヤバイ星」としてよく話題にのぼるわけですな。
他にも、スピカとかレグルス、ベガ、アルタイル、アンタレス、最近ではアルデバラン、北極星=ポラリスなどが有名どころでございますな。北極星は2等星で、大都会の空で見つけるには、やや心許ないのですが、いつも北にある目印として有名でございます。
ところが、春から初夏にかけて、北斗七星の近くに見えるアルクトゥールスは、え? それなに? な感じでございますな。
ちな、星空シミュレーターで6月中旬の夜9時、東京の星空は星図ソフトステラナビゲータ(アストロアーツ社)で作るとこんな感じです。矢印で示しているのがアルクトゥールスです。一番目立っていますな。それもそのはず、星の明るさを示す等級がマイナスな4つしかない星のひとつなのです。そのなかで1番明るいのがシリウス、3番と2番は東京では見られないケンタウルス座アルファ星と、水平線ギリギリで輝きが発揮できないカノープスです。ということで、東京で見える2番目に明るい星なのですよ。
なのに、知られていない。えー、もうそれだけで知っていただきたい星なのでございます。
まあ、ただ、正直言って、名前が悪いですな。長くて覚えにくい、アルクトゥールス(Arcturus)は、ギリシャ語がラテン語っぽくなったもので「守護者」という意味です。日本では熊の番人と紹介されることが多いですな。となりに北斗七星がありますが、これがおおぐま座なので、それを守る(それから守る)という意味のようでございます。
また、旧約聖書のヨブ記の9章にも登場していまして、日本語では北斗七星と訳されていますが、英語だとArcturusの文字が見えます。まあ、相当古い名前だということがわかりますな。だけど、知られていないのです。
最初に発見された「移動する恒星」
さて、とても明るく、古くから知られたアルクトゥールスは、もちろん古代の記録にもその位置などが正確に記録されています。18世紀の天文学者で「ハレー彗星」で有名で、ニュートンの親友でもあったエドモント・ハレーは、2000年前の記録と突きあわせ、アルクトゥールスの位置が、1度もずれていることに気がつきました。ステラナビゲータでシミュレーションしてみると、一番目立つ星がアルクトゥールスですが、んー、確かにずれていますな。
ちなみに2万5000年後だと完全に星座が変形しています。
恒星というのはもともと「動かない星」という意味で、だから星座の形が変わらないで済んでいたはずなのですが、実際には長い期間だと星座が変形してしまうことがわかったわけです。これは常識を覆す大発見でした。
その後、精密に測定すると、あらゆる恒星が移動していることがわかるわけですが、アルクトゥールスはとりたてて移動量が大きいです。距離が36光年と比較的近いこともありますが、より近いシリウスやプロキオンよりも移動量が大きい。アルクトゥールスより高速なのは、地球に最も近い恒星として知られる距離4.3光年のケンタウルス座アルファです。
アルクトゥールスは通常の3倍、いや10倍もの高速で宇宙を移動している「高速度星」であるがわかりました。アルクトゥールスは「高速度星」で最も明るくハッキリ見える恒星なのでございます。その移動速度は秒速140kmに達します。
変な方向に動くアルクトゥールス
ところで、恒星は全体としては天の川銀河を周回するような動き方をしています。ところがアルクトゥールスは、斜めに突っ切るような動き方をしていることがわかっています。原因としては、元々他の銀河の一部で、天の川銀河につっこんでいって合体した名残だという説もありますが、定かではありません。ともかう、速度だけでなく他の恒星とは違うエトランゼであることはわかる話でございます。
異常に古い星
アルクトゥールスは、恒星としての一生の最後を迎え、燃料切れをおこしかかって、異常に反応があがり、そのため、赤く、大きく膨れ上がった赤色巨星です。赤い星は暗いのですが、巨星は大きさで発光面の広さを稼ぎ、全体として太陽の100倍もの明るさで輝いています。なお、質量は太陽の1.1倍程度であり、太陽の将来の姿ともいえます。質量からわかる年齢は70億歳であり、太陽より古いことがわかっている恒星です。明るい恒星は基本的にものすごく明るいため短命なことがわかっており、太陽より若いものばかりなのですが、アルクトゥールスは珍しい例外なのでございます。
さらに、アルクトゥールスは太陽に比べて重元素がすくなく、これは材料が古いことを示しています。というのは宇宙の時代が進むにつれ重元素の量は増えていくことがわかっているからなのですね。
重元素の量は太陽の3割程度で、これは種族II(太陽などはI)とされています。種族IIの恒星の中で一番よく観察できるのがアルクトゥールスなのでございます。
ということで、アルクトゥールスはかなーり変わった星です。都会の空でも頭を見上げて赤い星があれば、それがアルクトゥールスですので、ぜひチェックしてみてください。