2022年5月。天の川銀河中心の、いて座A*(エー・スター)のブラックホール(の影)が見えた! というニュースが飛び込んでまいりました。

このブラックホールの直視成功は、2019年4月のM87銀河の中心のブラックホールに続いて2例目でございます。同じイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)チームの偉業です。まあ、しかし、順番が逆だったら、シン・ウルトラマンの映画(主題歌がウルトラマンのふるさとをもじったM八七)も公開開始で面白かったのにとかいいつつ、ちょいとこのネタでいじってみようかと思いますのよ。

ということで、我々が住んでいる、天の川銀河(銀河系)の中心にある巨大なブラックホールが姿を現したわけでございます。パチパチ。えー写真はこちらですな。ポン・デ・ライオン(ミスタードーナツの)ですな。

  • 撮影された天の川銀河中心の巨大ブラックホール画像

    撮影された天の川銀河中心の巨大ブラックホール画像 (C)EHT Collaboration

明るいのはブラックホールの周囲に殺到している物質が、モーレツな衝突などで発光している部分。真ん中の穴がブラックホールの強烈な重力の影響で光がひん曲げられ、影のようになっている部分です。これがブラックホールシャドウです。そのシャドウの2.5分の1ほどの中心部分がブラックホールになります。黒いの全部ブラックホールじゃないのね。

撮影は世界8か所の電波望遠鏡が、同時に観測したデータをスーパーコンピュータで精密に付き合わせる「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)コラボレーション(C)」によるもので、2017年のデータが、苦節5年。超絶! な工夫をしてノイズの山の中から掬(すく)いだしたものなのだそうです。救い出すなのか? まあ、いずれにせよ世界の英知でよってたかってもそれだけ大変だったのでございますな、

ブラックホールは、1915年のアインシュタインの一般相対性理論から導き出される、とてつもない質量が狭い場所に集中した結果、時空がひん曲がって、光すら出てこれなくなる宇宙の穴でございます。

超絶難解な一般相対性理論を理解したドイツのシュワルツシルトが、なんとアインシュタインの発表の翌年に計算して発表し、アインシュタインが慌てて「にーさんにーさん、そんなアホなこと、言うもんやありまへんで」と言ったとか言わないとか、ともかく誰もがにわかには信じられない現象なのでございます。で、まあ、ブラックホールについての雑学はこの連載の第154回にございますのでご笑覧くださいませ。

さて、そんなブラックホールが実際にあるらしいということが1960年代から明らかになってきました。異常に小さいのに重い天体があると考えないと説明できないような現象が色々みつかったのでございますな。ブラックホールに落ち込もうとする物質が暴れまわって、光や熱やX線や電波を発するので、それを調べるわけです。特に、エネルギーが弱くても天体の活動をキャッチできる電波を受ける観測が活躍します。

ただ、電波での天文学は当初「うーん、こっちの方が電波が強いなー、こっちが弱いなー」というレベルでしか天体の様子を調べられませんでした。「天の川が見えているので電波が強いなー。太陽がのぼったから電波が強いなー、だから太陽から電波きてるんだろー、知らんけど。」みたいな感じだったのですな。いっぽう、光で観測する天文学は、なんの道具も使わない肉眼ですら星々が見分けられ、惑星や月の運動を解明でき、惑星は太陽を焦点にした楕円軌道を描いて巡っているなんてことを400年前に見出しているのでございます。

それでも、電波天文学者は工夫を重ね、ピンボケもいいところだった電波写真を改良していきます。

そのうち、電波が光よりはるかにゆっくり振動していることを使って、離れたところにある電波受信器で受けた信号をあとから突き合わせることで、劇的にピントを鮮明にする手法を見つけます。それが、VLBIというもので、複数のアンテナでキャッチした電波を重ね合わせて差を検討する「干渉計(Interferometer)」の話す基線(Baseline)をとんでもなく長く(Very Long)したものです。観測記録はデータにしておいて、あとでコンピュータで突き合わせます。

問題は、このコンピュータの突き合わせで「たまたま設置されている、電波受信器」まあ、電波天文台を組み合わせるので、綺麗にいかないのですな。それでも基線が長い=離れれば離れるほど鮮明になるので、無理をしたのがイベント・ホライズン・テレスコープだったのでございます。8か所の電波天文台が動員されました。

なお、電波天文台もなんでもよいわけではなく、ミリ波やサブミリ波という電波の中でもだいぶ光に近い、波長が短い、扱いにくいものを使います。ただ、このサブミリ波は、ブラックホールの周辺で雑音が強くなる長い波長のものよりも、くっきりとブラックホールの影が見られるということで選ばれています。

愛知教育大学の高橋先生のホームページをボヤーっと見ているとそんな話を研究者が2005年とかそのころにささやいていることがわかります。

そうやっているうちに、もうブラックホールとそのすぐ近接した暴れまわっている領域をくっきりわけてみられる。ブラックホールの影響で穴のように抜ける画像が得られる(穴のサイズはブラックホールそのものの2.5倍ほど)、ブラックホールの影(シャドウ)が見られるということになったのですな。

そんなこんなで、ちっちゃくて重量級の銀河中心のブラックホールを見るというので観測しやすそうな2つの天体をターゲットに、一斉に観測が行われました。2017年のことです。国も研究機関も違うバラバラの望遠鏡をタイミングよく使うというのは、結構面倒なんですよ。南極にある望遠鏡なんかも動かしますしね。そして、なにしろ、それぞれバラでも同じ望遠鏡で違う研究もできるわけですからねー。

で、ターゲットは「ちょっと離れている(5500万光年)けど、超重量級(太陽の65億倍)のブラックホール(ブラックホールの大きさとされる事象の地平面が400億kmで、地球-太陽間の300倍)」のM87のブラックホール。

もう1つは、確実に近くにある(2万7000光年)で、重量級(太陽の400万倍)のブラックホールのある天の川銀河(銀河系)の中心とされました。重さが1500倍も違いますな。

で、先に結果がでたのがM87です。上から見下ろす形で前に邪魔なものが少ないというのがよかったのと、デカいので動きがゆっくりでブレにくいという良さが幸いしたんですな。一方、天の川銀河の方が、見かけは大きいのですが、星々が連なる林の向こうに見えるのでなかなか難しく、小さいぶん動きが激しくてブレちゃうので、そのブレを補正するアルゴリズムを編み出すのに手間取ったということだったのです。クズになりそうなデータをうまいこと救う(掬う?)が大変だったというわけなんですねー。

  • 銀河M87中心の巨大ブラックホールシャドウ

    イベント・ホライズン・テレスコープで撮影された、銀河M87中心の巨大ブラックホールシャドウ (C)EHT Collaboration

ということで、じゃあ次は? 次は? という話ですが、えっとしばらくはないですな。さらにもう一桁難しいチャレンジとしては、ケンタウルス座AとかM31アンドロメダ銀河なんかも候補になります。もっと近い銀河としてはM33とか大マゼラン銀河などがありますが、M33にはブラックホールらしいものはなさそうです。銀河なら必ずあるわけじゃあないのでございます。

ところで、今回ブラックホールが観測された場所は、いて座A*(いてざ・エー・スター)英語ではSgrA*(サジー・エー・スター)です。いて座Aというのは、いて座のA型の人は素敵とかじゃなくて、A、B、C、D、Eとあって、いて座のあたりで電波が強いエリアの名前です。

そのAが天の川銀河の中心方向なのですが、その中にさらに渦を巻いているような場所、いて座A西あるいはミニスパイラル(MINISPIRAL:小さな渦巻き、天の川銀河全体が渦巻きSPIRALなので、中心のちっちゃい場所なのでMINIというのをつける)があって、さらにそこにピンポイントで強烈に電波が強い場所があって、それがいて座A*なんですな。

渦はいて座A*の中にあるブラックホールに物質が流れ込んでいる様子だと考えられておりますが、ちょっと前までは、これが「天の川銀河のブラックホールのあたり!(ドヤ!)」とかいう写真だったのですが、時代が変わりましたでございますよ。この辺の発表 の写真とかが参考になるかと。

しかしまあ、すごい勢いで進化していきますですよ。楽しいったらありゃしない。