2021年度のノーベル物理学賞は、宇宙論でも素粒子でも物性やデバイスの開発でもなく、気候変動つまりは気象学の3人に与えられました。地学は物理学賞にならないというのが定説だったのと、地球温暖化という国際問題に絡むということ、さらに手法として純粋なシミュレーション、そしてなにより日本の愛媛県出身で東大で学位をとった真鍋淑郎先生が受賞したことが大きく取り上げられておりますな。
すでにたくさんの解説が出ていますが、東明風に楽しんでみることにいたしますねー。ええ受賞者も「楽しく問題に取り組む研究をすべきなんだよ!」と言っておりますしね。
今年のノーベル物理学賞は「複雑系の科学」複雑でよーわからんが
2021年のノーベル物理学賞は、複雑な出来事を物理学で理解するという内容で、3人の人への授与が決まりました。まず真鍋淑郎さんとクラウス・ハッセルマンさんに「地球の気候モデルを作り、地球温暖化の予測をしたこと」で与えられます。このうち真鍋さんは愛媛で生まれ、東大を出て、アメリカの気象局の研究所に呼ばれて就職。そのままアメリカで仕事を続け、アメリカ国籍をとった人です。クラウスさんはドイツの人ですね。
もう一人のジョルジュ・パリシさんはイタリアの人「原子から惑星スケールへの物理の相互作用と変動の発見」が理由とされています。複雑な現象やモノの研究手法のひとつ編み出したからだそうです。その舞台となったのはスピングラスというモデルなんだそうです。これは回るコップという意味ではなく、磁性を持たない物質の中に、磁性を持つものを少量ばらまくとどうなるか? 磁性があるもの通しは向きをそろえようとするけれど、そうでないもののせいでどっちつかずの磁性つぶがでてくるって話だそうです。
ようわからんな。ともかく、これはランダムになりたくないけどランダムになっちゃうというものです。解析が困難と思われたところ、パリシさんは、隠れたパターンがあることに気づき、それを手がかりに解析すれば答えがでる。ランダムだけどそれを説明できるということを言ったんだそうです。
これを手がかりに一見ランダムでどうなるかわからないものの解析ができるようになり、複雑なものを計算できるようにできるようにしたのがえらーいのだそうです。気候も複雑なものなので、パリシさんのおかげで、解く手がかりができたっちゅうわけかな。
うーん、東明がちゃんと理解していないので、まだよくわからんですな。
さて、そういうカオスな、ランダムなことができるようになること、複雑な気候を予測する方法を編み出したこと。そんなのが受賞なのだそうです。
気象シミュレーションのパイオニアは日本で学んだサムライ研究者
天気予報はいまはシミュレーションです。気圧配置などの気象データを入れると、スーパーコンピュータ(スパコン)が将来の気象情報をシミュレーションし、それに基づいて予報が出される感じです。気象庁は1960年代から気象用のコンピュータを運用しており、1987年から予報業務への活用をしているそうです。現在はクレイ社のXC50というスパコンを導入し、2018年では世界のトップ25というかなり高性能なものが使われています。
んが、気象などという複雑な現象は、かつてコンピュータに乗っけるような話ではなかったのです。そこをチャレンジしたのが今回受賞のみなさんで、まずは非常に大きな範囲からモデルをつくり、大規模な気候レベルの計算をさせ、その結果、二酸化炭素の温室効果によって、地球温暖化が進むということを予言するにいたったんですね。
そのパイオニアが東大で書いた論文が評価されてアメリカに引っ張られた真鍋さんです。気象学会の「天気」という雑誌にむかーしの真鍋さんのインタビュー記事があるのですが、真鍋さんの他にも多くの日本人気象学者が渡米し、パイオニアとして大活躍していたことが活写されています。真鍋さんと一緒にアメリカ気象局で活躍したのが、同じ東大の正野重方教授の弟子の都田菊朗さん、栗原宜夫さんです。栗原さんは栗原グリッドという計算用の地球の分割法で名前を残しています。カリフォルニア大学の荒川昭夫さんも真鍋さんに対抗する研究をしています。
また、同じころ竜巻の研究の世界的権威で、Fスケールに名前を残す、シカゴ大学の藤田哲也さんも活躍していました。サムライ研究者がアメリカで活躍してたんですなー。
真鍋さんは日本のスパコン「地球シミュレータ」にも関わっていた
真鍋さんはそういうことでアメリカでずっと研究実績をあげてきた方ですが、1997年から2001年に日本に来て活躍していた時期もあるのですね。特に深海探査艇しんかいや、掘削船ちきゅうで同じみの海洋研究開発機構JAMSTECのスパコン「地球シミュレータ」にも関わっていたようです。まさに真鍋さんが切り開いたジャンル専用のコンピュータなわけです。ただ、稼働する前にアメリカに帰っちゃったそうです。アメリカでの研究スタイルが染みついて日本ではうまくやれないからみたいな。ただ、今でもJAMSTECのフェローをして関わりは切れてはいないようですな。
珍しいってか、ほとんどはじめての気象学ど真ん中の受賞
ノーベル物理学賞は、1901年にレントゲンがX線の発見で受賞して以来、基本的に基礎物理学に与えられてきました。こういうのをチェックするには wikipediaが便利なのですが(私は理科年表の後ろの方を使いますけど)、20世紀初等では、新しい現象の発見や、様々なことを調べる画期的な実験技術の開発が受賞理由にズラリと並びます。1909年の無線技術とか、1912年の灯台のガスの自動調整器なんてのもありますが、X線や放射線、電視、量子、原子核といった言葉がズラズラ並べます。天文学も受賞とは無縁で宇宙の膨張を示すハッブルの法則を見つけ、ハッブル宇宙望遠鏡の名前の元になっているエドウィン・ハッブルも受賞していません。
1947年には、アップルトンが気象分野で受賞しているのがちょっと変わり種です。ただこれとて電離層(アップルトン層)の発見で、電波が地平線の向こうに届くということから電波通信を応用して電波反射層が上空大気にあることを調べたというものです。まあ気象といえば気象なのですが、みんなが知っているお天気の科学とはちと違うわけでございます。
1967年には、ベーテが恒星のエネルギー源である核融合の仕組みで受賞しています。そして、1974年にヒューイッシュがパルサーという特殊な天体を発見したところで、基礎じゃない宇宙の発見に受賞がされるようになり、昨年「銀河系の中心のブラックホール」、一昨年は「太陽系外惑星の発見」が受賞しています。
でも、まあ、お天気や気候のサイエンスは受賞していなかったのですよ。
ノーベル化学賞では、1995年に南極に見られる「オゾンホールの研究」が受賞しています。でも、まあ気象の真ん中、ではないですな。
今回は、地球温暖化という気象ジャンルで受賞したのが画期的な出来事なのでございます。
しかしなんというか
ノーベル賞といえば「成果がはっきり証明されて受賞」というのがパターンでございました。ヒッグス粒子のヒッグスさんは、予言があたって実際に見つかっての受賞ですしね。重力波もアインシュタインが100年前に予想していましたが、発見されての受賞でした。今回は「はっきりしない複雑なこと」が受賞です。なんというか、でございます。地球温暖化も複雑なことの予想でございます。それも極めて初期の、日本のサムライがアメリカで活躍せざるをえなかった1970年ころの予想です。それが、実際に北極の氷が減ったり、水面があがったりというのが「はっきりした」ということなのでしょうか。
とまれ、受賞の発表の場で発表した選考委員会に「ノーベル賞選考委員は、つまり地球温暖化は正しくないという国への注意喚起か?」と記者が質問されたのに対し「物理学賞ですよ」と返したのが印象的でございます。サイエンスはクールなのでございますな。
研究者のつぶやきなど
いつも若干鬱々としている研究者のつぶやきが、妙に活性化しているのも今回面白いですな。固有名詞はだしませんが「つまりシミュレーション計算が受賞したということで画期的」とか。「FORTRANがキーワード」とか。「地球科学はノーベル賞とれないから、無理なんすよーという親戚へのいいわけが通用しなくなった」とか。「今度は火山でノーベル賞だ」とか。パリシさんが複雑系への対抗方法を編み出して抜け道を作ったように、まったく新しい方向への希望が見えるようなそんなものが多いような気がします。
ヒッグス粒子や重力波の時のような「うん順当」というのが一個も見えないのがすげーなと思うわけです。