NEO=地球近傍天体は、地球に接近する軌道を持つ天体のことでございます。現在発見されているのはすべて太陽系の天体で、小惑星が2万個、彗星が100個ばかり、ほかにロケットの部品や探査機がNEOとして捉えられることもあります。この中には、地球に非常に接近するもの(PHO=危険性のある天体)があり、実際に衝突することもあります。と書くと単にキケンという感じでございますが、興味深いこともいろいろございます。今回はNEOのお話です。
えー、このところしばしば「火球」が話題になりますな。火球というのはおおむね金星より明るい流れ星のことです。
流れ星は太陽系の天体が地球大気に衝突し、その衝突エネルギーで蒸発し、プラズマとなって発光する現象です。さらに、その進路近辺の酸素にもエネルギーを与えて緑色の光を帯びます。同じような高度で発光するオーロラも緑色ですが、エネルギーの与えられ方がこっちは電子の流れという違いがあるのでございます。
ところで、このが、流れ星は、ほとんどが直径数mm以下のチリ粒でございます。その起源は、太陽をまわる彗星が太陽光で溶け、ふくまれているチリ粒が飛びちったものと考えられています。実際、流れ星の経路を逆にたどると、彗星の軌道と一致することが多く、流星群といわれる流れ星がまとまってみられるものは、特定の彗星から出たチリ粒の集団だということわかっております。
ただ、火球ともなるともうちょい大きい、数cmとか数mというものが突っ込んでくることもあります。これくらいだと、彗星から飛び散ったものの他に、太陽をめぐる岩石=小惑星が突っ込んできたものとなります。そして、中には大気で蒸発しきれずに、地上に落ちる隕石となるものもございます。
そうした隕石や場合によっては彗星そのものが地球にぶつかると、地上に被害を及ぼすこともあるわけですな。最近では2013年にロシアのチェリャビンスク州に落ちた隕石により大きな被害がでました。直径が20m程度の天体が地球に衝突し、バラバラになりながら地上に落下したのでございます。一部の破片は湖の氷を割って数mの大穴が空けましたがその穴よりも凄まじかったのが大気に突っ込み落下する過程で生じた衝撃波です。これによって、周囲の建物のガラスが割れたり、ドアが吹き飛んだり、人が転倒したりしたため1000人以上の怪我人が出ました。ちなみに1人、隕石の分裂破片の1つの直撃を受けて骨折をした人がいたそうでございます。隕石に当たるなどということは、滅多にないことですが、気の毒にそれがおこったのでございますな。ちなみにこの衝突のエネルギーは全体でTNT火薬600キロトンに相当するそうです。これは広島型原爆(TNT4キロトン)の数十倍の威力ですが。そのエネルギーの放射が高い高度で起こったので地上ではエネルギーが分散し、壊滅的な被害には至りませんでした。窓ガラスが割れて寒い時期だったので怪我をしなくても人々は大変だったそうです。
さて、こんな衝突を引き起こすキケンな天体はNEO=地球近傍天体と分類され、NASAほかが発見、追跡につとめています。専用の探査衛星NEOWISEもあり多数のNEOを発見しています。副産物として30個ばかりの彗星を発見して、いずれもNEOWISE彗星と名付けられています。また地上からはハワイのPANSTARRSという観測システム(まあ天文台)が、ほぼ全自動でNEOを見つけまくっていて、これまた彗星をついでにみつけてPANSTARRS彗星がいくつもあります。他にも世界各地で同様の活動をしている機関があり、日本でも岡山県の井原市に専用の観測施設美星スペースガードセンターがあるのでございます。
ということで、現在までに20000個のNEOが発見されております。NASAの定義では地球の軌道に対し太陽からの距離が±3割に入るのがNEOとされていて、ほとんどが小惑星でございますが、彗星も100個ばかりカウントされています。あ、ちなみに彗星の衝突といえばヒットアニメの「君の名は」ですが、実際に1908年にロシアのシベリアのど真ん中のツングースカ地方の大爆発は、エンケ彗星の破片が衝突したという説があります。この時は巨大な火球が出現し、森林が東京都の面積くらいの範囲に大規模になぎ倒されるという被害がでています。衝突の影響は遠くロンドンまで及んだとされていますが、同じくらい近い日本では何か記録があるのかしらね。
さて、そんなこんなでキケンなNEOですが、ともかく1km以上のものはまずくまなく発見し、さらに小さなものも発見されています。それでも10mサイズとなると発見は難しいのですが、それすらキャッチするように観測が続けられています。危険性も評価されており、トリノスケールでは無問題の0から、確実に地球全体に影響が及ぶという10までございます。いままでで最大は4で、特定の地方に被害がでそうだが、衝突の確率は1%程度というもので、衝突しませんでした。よかたなー。
で、結果、NEOの接近予報というのがございまして、日々楽しめるわけでございます。日本語だと、NPOのスペースガード協会が随時予報を掲載しています。
まあ、毎週のように接近するNEOがあり、ほとんどは大きさ10m程度のものですが、たまには大物もあります。これを書いている(2021年3月)の直近では、3月21日に月の5倍の距離を、小惑星231937が接近、通過します。大きさは1km内外(540-1700m)と推定されています。これはかなりデカイですな。月の直径が3000kmですから、5倍の距離で、同じサイズでも明るさは25分の1。さらに面積が1000万分の1ですから明るさは月の2.5億分の1ですな。これは等級の差にして21になります。月の明るさは最も明るくてマイナス12等級ですからこの天体は9等級。あれ、これは双眼鏡でも見えんことはない明るさですな。まあ、これは最大に見積もっているので実際はもっと暗いかもですが、腕に覚えがある天文ファンなら狙えますな。接近はNASAのサイトで見ると真夜中の方向からですな。ワンチャンありそう。実際にNEOの撮影をしている方もいらっしゃいます。
さらに、もっとたくさんのデータをみたい場合はNASAのNEOなサイトが役に立ちます。表にあるLDは月の距離、auは太陽の距離で、その何倍まで接近するかをしめします。あとDiameterは明るさから推定した天体の直径ですな。はっきりいって、21世紀に本当にやばい天体はまあないといっていいんですが(未発見のはありますが)。どこかのだれかが騒いだときに、ああ、そんな感じかと自前で最新データで確かめられるのがよいところでございます。
なお、NEOのなかには、小惑星探査機はやぶさや、はやぶさ2が探査した小惑星イトカワやリュウグウ、アメリカの小惑星探査機オシリス・レックスが探査している小惑星ベンヌなどもあります。
これらは探査できたということで、将来的にはかけらどころか小惑星の資源採掘とか、それごと移動させるということも可能かもしれません。そうなると、小惑星を一部つかった宇宙基地というSFみたいな(それこそガンダムのルナツーとかア・バオア・クーとかソロモンとか、アクシズとか)ことも可能になってまいります。NEOはいまは驚異なのかもしれませんが、人類が宇宙開発をしていく足掛かりになるのやもしれませんな。