昼でも雨でも、灯りで空が明るい大都市でも、満天の星を再現するプラネタリウム。1923年にドイツ博物館の展示物として開発されたこのマシンは、天文の学習用だけでなく、元祖全天シミュレーターとして実験に使われてきました。今回はそんなご紹介をさせていただきます。
プラネタリウムは全天映画(1970年オムニマックス)よりも、電子式デジタルコンピュータ(1942年ABC:アタナソフ・ベリー・コンピュータ)よりも、テレビ(1925〜26年テレビ送受信に成功)よりも古い1923年!に、光学メーカーのカール・ツアイス社の技術者によって発明されたそうでございます。
ドイツがミュンヘンに建設を進めていたドイツ博物館準備組織の要請によるものでした。時あたかも1918年にドイツは第一次大戦に敗れ、ひっくりかえるほどの賠償を請求され、国民は貧窮のどん底に突き落とされている時でした。世界史で勉強しました? しかし、よう、そんなんやったねー。
プラネタリウムはドームスクリーンに、天体の運動法則に従って精密に回転する全天幻灯機を組みわせたもので、それは、元祖の全天シミュレーター(星空限定ですが)と言っても良い仕上がりとなったわけです。のちの全天映画も「プラネタリウムのスクリーンを利用」するという発想で作られたそうでございますよ。
さて、ということでプラネタリウムは様々な場所、日時の星空をいつでも再現できます。これは、星空の星座配置の学習とか、惑星の運動の理解に役立つわけで、まあ、小学校とか中学校の理科の勉強に役立つわけですね。日本、いや世界中のプラネタリウムでは、今日も子供達が美しい星空に惹かれながら、まんまと勉強をしているわけでございます。先生がたは教室でやれない星空の観察を補うために子供達を連れてくるわけですな。
ただ、そうした勉強は、何も子供に限らないのでございますな。1937年と1938年、日本にも大阪と東京にそれぞれプラネタリウムが設置されます。ドイツの製品を莫大な代金(小学校3校が建つほどだったという話もあります)を支払って設置したわけですが、その能力は軍部も注目しました。というのは「世界中の星空」つまり、戦地での星空を再現できるからでございます。
まず、方角をパッと知る手段として、北極星や南十字星がわかることが大切です。北極星の探し方は小学校でもやるわけですが、軍人も再度勉強をしたのですな。そして、日本では沖縄まで行かないと見えない南十字星も、サイパンやミクロネシアなど南方ではよく見えるわけです。
え? 南十字星でどうやって方角を知るのかって? えーっと、図を見てくださいませ。南十字星の十字の縦棒の長さの4.5倍先は、天の南極点があり、つまり、そっちが南なんですよ。
さらに、海の上や見知らぬ土地・ジャングルや砂漠の真ん中で、自分の位置を知るには、天体観測を行うほかなかったのです。天の北極点や南極点の仰角は、そのままその場所の緯度ですし(北緯36度の東京では、天の北極点=北極星は高度36度に見える。北極(緯度90度)なら北極星は頭の真上(高度90度)に見える。また、いつオリオン座が南に見えるかということがわかり、日時がわかれば、その場所の経度がわかるのでございます。
今でこそ、GPSを使えば一発で緯度経度がわかるわけですが、人工衛星が上がったのは1957年、GPSは1990年代に実用化ですからねー。1940年ごろにはお星様が頼りだったのですな。星の配置や、その動き方などを知るのに、軍人もプラネタリウムで勉強していたのでございます。
ところで、同じようなことで宇宙空間もありますな。宇宙でどっちに向いているのかなどは、星空を頼りに知ることができるわけで、サバイバルの手法として宇宙飛行士の訓練の一環でプラネタリウムが使われたことがあるようなんです。
さて、これらは実習のお話ですが、実験にプラネタリウムが使われたこともあるんですよー。それは鳥の飛行についての実験です。何とプラネタリウムの星空を鳥に見せて、鳥が星空のことを小学生や軍人、宇宙飛行士のように学んで知っているかを試すというものですな。イグノーベル賞でも取れそうなその実験ですが、何回か行われているようです。1958年に行われたものの紹介では、太陽の方位と、鳥の内部的な能力で方向を知っているようだとされています。また1968年の実験でも、星空は関係ないということがわかったようですな。鳥の渡りには地磁気などが関係しているという話がありますので、それの前駆的な実験だったようでございます。
それにしても、プラネタリウムの中で鳥を飛ばすとは、なかなか面白いものでございますな。
ちなみに、私はプラネタリウムに入って、星を見ると、つい寝てしまうことがよくあります。人間は鳥よりも簡単に人工的な環境にごまかされてしまう…のかしら。なら、時差ボケ解消にプラネタリウムなんて便利なのかな?