地球の持続可能性やSDGs、ESG、地域経済活性化などの問題がますます重要となる中、金融に求められる機能も高度化しています。そしてデジタル通貨は、これらの課題の解決に貢献することが望まれています。
脱炭素化と金融の役割
昨年、脱炭素化やカーボンニュートラルが急速に国際的な政策議論の中心を占めるようになりました。もともとは欧州が脱炭素化に熱心でしたが、米国もバイデン政権発足後に注力するようになりました。今では日本を含め多くの国々が「2050年のカーボンニュートラル達成」などの目標を掲げています。別の言い方をすれば、脱炭素化は少なくとも今後約30年間、世界の主要課題であり続けます。
脱炭素化は決して簡単ではありません。近代以降の世界は、地球が数十億年かけて炭素化合物の中に取り込んだ太陽エネルギーを、炭素化合物を燃やしながら一気に費消することで高い経済成長を実現してきました。脱炭素化は、このような経済モデルの根本的な見直しを迫るものです。はたして自由な経済活動と地球のサステナビリティを永続的に両立できるのかどうかを問われているわけです。
そこで、「金融」が大きな役割を期待されています。リスクとリターンの判断に基づくプライシング(価格付け)によって効率的な資源配分に貢献することは、金融の本源的な機能です。そしてSDGsやESGなどの新たな要請は、金融に求められる役割を高度化させています。今や金融には、従来のリスクとリターンの判断にとどまらず、「地球の持続可能性へのリスク」など、著しく複雑化したリスクファクターの判断を求められているわけです。
しかし、このような役割を金融が果たせないとなると、「脱炭素化は統制経済でないと実現できない」という悲観論につながりかねません。そうなると、脱炭素化の代償として、自由経済のダイナミズムは失われてしまいます。
金融がこのような役割を積極的に果たしていく上では、企業活動やプロジェクトに対する資金供給が環境に及ぼし得る影響など、これまでよりも飛躍的に増加した情報やデータを処理する必要があります。この面で、新たな技術を取り込んだデジタル通貨は大きな貢献を果たすと考えられます。
デジタル通貨フォーラムの取り組み
筆者が座長を務める「デジタル通貨フォーラム」の「電力取引分科会」では、電力売買にデジタル通貨を活用して、脱炭素化などの課題克服に貢献していく取り組みを進めています。
ブロックチェーンなどの技術を用いることで、電力がどのように作られたかをトラッキングすることが可能となります。そして、環境負荷が少なく「クリーン」であるとのデジタル証明付きのエネルギーを選んで購入するプログラムをデジタル通貨の側に組み込めば、企業や個人が「クリーンエネルギー」を自動的かつ効率的に調達できるようになると期待できます。このような取引の記録を用いることで、企業は自らの活動が脱炭素化と整合的であると証明可能となるでしょう。このような証明は、マーケティングや資金調達などにおいても有益です。
一方で、消費者が企業の製品やサービスを評価する上でも、これらのデータは有益な情報になります。さらに、個人が自らクリーンエネルギーの買い手となる場合も考えられます。この場合にも、デジタル通貨の使用により、自らが脱炭素化にどの程度貢献しているかを「見える化」できます。
さらに、クリーンエネルギーの供給や購入、利用によって得られる環境価値をポイントに換算し、これをデジタル通貨に付加するプログラムを組み込むことで、さまざまな経済主体が進んでクリーンエネルギーを供給するようになり、利用時のインセンティブを創出する施策なども検討されています。
デジタル通貨の潜在力と発展性
脱炭素化の他にも、各分科会がさまざまな経済社会的ニーズに応えていく取り組みを積極的に進めています。
例えば「地域通貨分科会」では、デジタル通貨を地域通貨として用いて地域経済の活性化に貢献するための検討を行っています。具体的には、地域での消費活動やインターネットを通じた地域特産品の購入、地域でのボランティア活動などの地域経済の活性化に資するような取引や活動に対し、デジタル通貨を通じたポイントなどのインセンティブを効率的かつシステマティックに賦与する仕組みなどです。
また「行政事務分科会」では、デジタル通貨の活用による行政事務の効率化について検討しています。加えて、デジタル時代に重要となるデジタルセキュリティの問題や、デジタル通貨を幅広く使えるようにする観点から重要となる電子マネーとの連携、さらには海上輸送に伴う決済へのデジタル通貨の活用など、さまざまな重要かつ現代的なテーマについて、精力的な取り組みが進められています。
デジタル通貨の存在意義は、デジタル技術を情報処理の重要なツールである通貨に応用して、さまざまな課題を解決し、人々の暮らしを便利で豊かにする点にあります。大きな潜在力と発展性を有するデジタル通貨の取り組みに、今後とも注目して頂ければと思います。