建設産業の内外に「建設DX(デジタルトランスフォーメーション)」を実現しなければいけないという意識はあるのに、なかなか進まない現状があります。

本連載では、その理由が何なのか、建設DXの普及を牽引する企業である野原グループの代表取締役社長兼グループCEO、野原弘輔氏をホストに、建設産業に携わる多様な立場のゲストの方との対談を通じて、建設産業への思い、DXへの取り組みについて浮き彫りにします。

建設RXコンソーシアム 会長 村上陸太

1983年、京都大学大学院工学研究科(建築学)修了。竹中工務店入社。大阪本店設計部構造部長、執行役員技術本部長などを経て2024年から専務執行役員技術・デジタル統括兼技術開発・研究開発・構造設計担当。


建設RXコンソーシアムは、作業所におけるさらなる高効率化や省人化を目指し、建設業界全体の生産性および魅力向上を推進するために、施工段階で必要となる、ロボット技術やIoT関連アプリケーションにおける技術連携を相互に公平な立場で進めることを目的とし、この目的を達成するために、技術の共同開発や既開発技術の相互利用を推進します。https://rxconso-com.dw365-ssl.jp/index.html

建設DXは、「建設産業の魅力」を向上する手段
建設RXコンソーシアムは、建設企業間の協働と他産業の巻き込みへ
今は変化の過渡期、将来はロボットとも共生する現場に

  • 左から、野原弘輔、建設RXコンソーシアム 会長 村上陸太氏

野原: 大手ゼネコンは、早くから自動化やデジタル化などへ取り組み、研究費や開発費を注いできました。今回は、建設RXコンソーシアム会長であり、竹中工務店専務執行役員の村上陸太さんにお話を伺いたいと思います。まず、建設産業ではなぜDXが進みにくいのでしょうか。

村上: ざっくばらんにしゃべっていいですよね(笑)。皆さん、デジタル化を進める気はあるんですよ。私も若い時には技術開発をして、ロボットを作ったり、コンピュータが得意だったりしたので、設計や生産用のシステムを作るなどしていました。

ところが、狙いどおりに普及しませんでした。その理由はなぜか? 建設現場が「一品生産」で、しかも「現地現物で作る」からです。つまり、ゼネコンが建設現場のために新しい技術を開発しても、それは、その現場作業所でしか使えない技術の開発になってしまい、なかなか次の現場で使えないのです。

こうした問題は、ロボットやICTについても同様で、例えば、ある現場作業所を想定した作業に対して新たに「システム」や「ロボット」を作っても、次の現場ではそのままでは使えません。

さらに、多くの新技術には開発費問題が伴います。端的には、社内だけで展開をして採算が取れる規模ではないのです。

ですから、「できた技術をどう展開するのか」ということは大変な困りごとだったのです。今回、「建設RXコンソーシアム」を作ったのは、このような団体でフォローアップしていく体制を作らないと、いつまでも新しい技術が使えるようにならないと思ったからです。

コンソーシアムという形態にしたのは、熾烈なライバル同士であるゼネコン各社が、自社の利益はさておき、建設産業を盛り立てていくという共通の目的に向かって協力しあうという強い決意があるからです。

野原: どのようなフォローアップ体制を実現されているのでしょう。

村上: 各社の有用な技術やナレッジ(※1)を共有し合えるようにしました。例えば竹中工務店と鹿島建設が、アクティオ、カナモトと共同で開発したタワークレーンの遠隔操作技術である「TawaRemo(タワリモ)」(下図参照)開発を主導した竹中工務店の機材センターの人間が、清水建設、鹿島建設の現場での使い方を指導しています。そうすると、どこでも誰でも使える技術になります。

※1 ナレッジ:企業などの組織で蓄積できる、有益で付加価値を生み出す経験や実例、体系的な知識のこと

建設RXコンソーシアム発の開発技術(1)

タワークレーン遠隔操作システム「TawaRemo」

左から、地上コックピットでの操作状況、コックピットのモニタ


竹中工務店、鹿島、アクティオ、カナモトが共同開発した革新的な遠隔操作システム。従来、タワークレーンのオペレーターは高所の運転席まで約30分かけて昇る必要があったが、地上のコックピットから遠隔操作を可能とすることで、昇降時間の短縮や作業環境の大幅改善を実現。「タワークレーン遠隔操作分科会」の活動を通じて、多くの現場への適用が進み、従来と同等の作業が可能であることが確認されている。

それ以上に大切なのは、こうした施策によって、連携する空気が生まれることです。これまでは、メディアなどで他社の技術が公開されても、ゼネコン各社はライバル社の技術を「使いたい」などとは言えませんでした。

しかし、コンソーシアムができてから、協力し合えることは協力するという雰囲気が出てきました。新しい技術を展開するために、各社の担当者たちは集まって知恵を絞っています。みんな実に楽しそうなんです。

野原: これまでだと、御社の技術者が大林組や大成建設の現場に入ることなど想定できなかったのではないでしょうか?

村上: ありえませんでしたね(笑)。

野原: 建設RXコンソーシアムの取り組みはたいへん面白い取り組みで、意義もありますね。もっとも、ゼネコン、特にスーパーゼネコンは、これまで技術を極めていくことを競われてきました。だからこそ研究所にもお金を使うし、研究員などを競って採用してきたわけですよね。各社がそれぞれ培ってきた技術を共有することが、独自性や競争力を失うことにつながるという危惧はなかったのでしょうか?

村上: 私も技術者ですので、かつては技術が会社の独自性を表す要素であり競い合える武器であると考えていました。しかしよく考えてみると、われわれは職人の使う技術で競い合っていても仕方ないんですよ。競い合うなら建築物で、作る建物で競い合わないといけない。技術は手段に過ぎず、目的は、いい建物を作ることですから。

技術を道具にたとえるとわかりやすいかもしれません。A社で作業をする時には、A社が開発した非常に便利なのこぎりを使えるのに、B社やC社の現場では、不便な昔ながらののこぎりしか使えないというのではなく、どの会社の現場でも、A社ののこぎりを使えるようになり、出来上がった建築物の出来で競い合おうというのが真っ当な競争であるはずです。

考えてみれば、これまでも技術があるから仕事が来たわけではない。いい建物を建設できるから仕事が来たのですからね。

野原: 建設産業にとって建設RXコンソーシアムは、大きな転換を促しそうな団体です。設立から同業の各社に参加をしてもらうまで簡単ではなかったと思いますが、設立に踏み切った契機は何だったのでしょうか?

村上: 建設産業に対する危機感に尽きます。ITの世界ではGAFAM(※2)のような巨大なグローバル企業が出ているのに、われわれの建設産業は昔ながらのやり方から全くと言っていいほど変化してきませんでした。

「現地現物の一品生産だからデジタル技術を入れられない」という言いわけを続けていたら、いつの間にか美味しいところを他業界に全部持っていかれてしまい、ややこしく時間がかかるところしか残らないんじゃないかという危機感から、「まずは集まって話をしよう」と動き始めました。

以前から各社の間では「協力しないといけないね」という話は出ていたのですが、じゃあ具体的にどうしようという話まで踏み込むきっかけがないまま時間が過ぎていきました。しかし他業界からの外圧を意識したことで、今のままではいけないねと一歩踏み出した形になったのです。

それほどの強い危機感を抱かざるを得なかったということですね。

※2 GAFAM:Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftの世界的なIT企業5社の頭文字を取った呼び名