インターネットや新聞でその名を見ない日はないほど、ChatGPTをはじめとする生成AI(Generative AI)は急速に普及しています。2023年5月に開催されたG7でもChatGPTなど生成AIの取り扱いに関する国際ルールが協議されたように、生成AIは国をまたいで世界を巻き込む様相を見せています。

本稿では、ChatGPTがなぜここまで世の中を巻き込み、いわば"社会現象"とまで言える状態になっているのか、その背景を解説します。

ChatGPTが登場するまでの流れ

ChatGPTは、2022年11月30日にOpenAIによって公開された、人間のような自然なコミュニケーションを取ることができる対話型のAIです。公開されるや否や、5日で100万人、2カ月で1億人のユーザー数を超え、その成長はIT史上最速とも言われています。

まずは、OpenAIの歴史をさかのぼってみることにしましょう。

OpenAI社の設立から現在まで

OpenAIは「全人類にとって利益をもたらす汎用人工知能(AGI)」を開発することを目的に、イーロン・マスク氏やサム・アルトマン氏によって2015年に設立されました(マスク氏は2018年に辞任)。その後、2018年にGPT-1、2019年にGPT-2という言語モデルを公開しています。2019年にはMicroSoftから約10億ドルの出資を受けています。

英語圏を中心に大きな話題になったのが、2020年6月に公開されたGPT-3です。GPT-3はChatGPTの前身に当たる大規模言語モデル(Large Language Models:LLM)で、570ギガバイトのテキストデータから学習しており、1750億のパラメータを持っています。

GPT-3は人間のような文章を書くことができるということや、人間対AIで広告のパフォーマンス勝負を行ったところ、AIの方が成果を上げたというレポートもあり、リリース当時からGPT-3を活用するスタートアップへの資金も大きく流れ込んでいました。

画像生成AIの盛り上がり

ここまで、ChatGPT登場以前のOpenAI社の動きについて説明をしてきましたが、ChatGPTを語る上で外すことができないのが、2022年夏の画像生成AIの盛り上がりです。「Midjorney」や「Stable Diffusion」といった画像生成AIによって作られた、まるで人間が描いたかのようなイラストやアートがSNS上を賑わせていたことは記憶に新しいかと思います。

以前はGAN(敵対的生成ネットワーク)による画像生成も盛り上がりを見せていましたが、「Midjorney」や「Stable Diffusion」のように今までにない圧倒的なクオリティの画像を作り出すことができるAIに、多くの人が魅了されました。

このような流れがあった上でChatGPTが登場したので、「AIは画像の次は文章も作ることができてしまうのか!」という衝撃が自然な形で受け入れられていきました。

なぜChatGPTはここまで爆発的に流行したのか

ChatGPTがここまで爆発的に流行している背景として、以下のような技術的な条件がそろったことによる精度の向上は言うまでもありません。

・パラメータ数が大きいほど性能が高くなるスケール則
・計算処理を支えるGPU(Graphics Processing Unit)の性能向上
・学習データとして使用できる大量のテキストの存在

しかし技術的な話だけでは、この社会現象を説明するには不十分です。前述したような画像生成AIによるSNSでの盛り上がりに加えて、ChatGPTのリリース後にはOpenAIの研究者ですら気付いていなかったようなChatGPTの使い方をみんなが探索し、いち早く発表する動きが連鎖したことが大きな要因として挙げられます。

「大喜利」のようなエンターテイメントとしてAIに面白いことを言わせる一方で、既存のビジネスをディスラプト(破壊的イノベーション)する可能性を持っていることが次々に明らかになっていきました。

また、AIの性能を上げるための「プロンプトエンジニア」という職業も登場しています。海外では年収3000万円の求人も出ています。GPT-3はもともとゼロショット、つまり特定のタスクに微調整することなく汎用的なタスクをこなすことができるモデルとして注目を浴びましたが、いくつか例を与えることで性能をより上げることができます。

また、Chain Of Thought(CoT)と言われる、AI自身に段階を経て思考させる手法や、AIに行動計画を立てさせてから順次実行する手法など、プロンプトの改善によってAIの性能を引き上げる試みが多く行われています。このような、「ChatGPTにはどんなことができるのか?」を探索する壮大な実験に多くの人が巻き込まれたことで、社会現象になっていったのです。