図1 Infineon Technologies社Automotive DivisionのPresidentであるJochen Hanebeck氏

「クルマをもっとクリーンに、安全に、スマートに」を標榜するInfineon Technologiesがクルマ用半導体で攻勢をかけている。現在、ルネサス エレクトロニクスに次いで世界第2位に位置するInfineonの2013年の販売シェアは、前年比0.5ポイント上げて9.6%に上がった。1位のルネサスは0.9ポイント下げて13.3%となり、その差が少し縮まったことになる。

同社Automotive DivisionのPresidentであるJochen Hanebeck氏(図1)によると、Infineonのシェアは次第に高まり、欧州と韓国では第1位、米国とアジアで2位、日本でも3位に浮上したと述べる。上位5社の自動車用半導体で前年に比べもっと業績を伸ばしたメーカーがInfineonだ(図2)。市場シェアの伸びは、上位5社の中でInfineonが最も大きく、市場シェアを伸ばした2位がFreescale Semiconductor、3位がNXP Semiconductorsとなっている。

図2 2012年から伸びてシェアを最も拡大したInfineon(出典:Infineon Technologies)

パワー半導体のトップメーカーであるInfineonはクルマ用のパワー半導体でもシェア21%と最も大きい。Infineonの特長は、クルマ用半導体の中で、パワーとセンサ、マイコン(マイクロコントローラ)とバランス良く供給する体制が出来ていることにつきる。パワー半導体はクルマの中の小型モータを駆動するためのアクチュエータとして大量に使われている。小型モータは、パワーウィンドウやワイパー、パワーステアリング、エアコンなど用途は多岐にわたる。

なぜ、Infineonがシェアを上げることができたか。成長する分野を見ながら、バランスを保ってきたからだ。例えば内燃エンジン車だけを見ても、クルマ用の半導体の伸び率は他の分野よりも高い。2014年から2019年までの平均成長率CAGRは、クルマ用途でのインフォテインメントで7.6%、パワートレイン6.4%、安全6.4%、ボディ4.5%と、市場調査会社のStrategy Analyticsは予測する(図3)。Infineonは成長率の高い分野を攻めるのである。

図3 クルマ用半導体と言っても伸びる分野に差がある(出典:Infineon Technologies、Strategy Analytics)

同社が掲げる「クリーン」は、エンジンの効率をさらに上げCO2排出量を下げることにつながる。そのためのAT車デュアルクラッチ、タイヤ空気圧モニター、アイドリングストップといった成長分野に半導体を投入する(図4)。それぞれの分野のCO2削減量は4g/km、1.5g/km、5g/kmとアイドリングストップの効果が最も大きい。EU域内でのそれぞれの技術の普及率は2010年から2020年に5%→28%、18%→38%、15%→74%に高まると予測されている。

図4 内燃エンジン車のクリーン化目標を進める(出典:Infineon Technologies、Strategy Analytics)

EU(欧州連合)では、2020年までに到達可能なCO2排出量を決めており、小型車だと90g/kmまで、中型車では100g/kmまで、高級車では130g/kmまでとなっている(図5)。さらにCO2を改善、すなわち燃費向上の手段として48V化がある。従来の12V系だとワイヤーを細くしてその重量を軽くするために昇圧する必要がある。電力は電流×電圧で決まるからだ。電流容量はワイヤーの断面積に関係するので、細いと電流容量が減るため電圧を上げるという訳だ。12Vから48Vに昇圧するのに電力効率が落ちるため、最初から48V系を使う。特にブレーキをかけるのに昇圧していたが、バッテリの電荷回収率が48Vの方が高いとHanebeck氏は言う。

図5 内燃エンジン車でCO2排出量を下げられるところまで下げ、そのあとはプラグインハイブリッドに移行(出典:Infineon Technologies、Information for Motor Vehicles- RWTH Aachen)

48V昇圧系にして、アイドリングストップ、デュアルギア、その他のエネルギー管理を駆使してもCO2排出を抑えられるのは95g/km程度までと言われている。このため、中級車の上のクラスから高級車ではもはやプラグインハイブリッド化しかできないとHanebeck氏は語る。

国内では3.11以降、環境、CO2削減ということが言われなくなりつつある。自動車の排ガスとそれに続くCO2削減はクルマの進化にとって極めて重要な課題である。欧州がCO2削減を進めているのに対して、日本がCO2削減のことを忘れていては今後の競争に赤ランプが点灯する。やはり環境・クリーン化・CO2削減を再認識すべき時期に来ているのではないだろうか。

Infineonは安全性を高めるためのADAS技術についてもチップを揃えている。例えばパワーステアリングの誤動作を防ぐために、角度磁気センサとリニアのホールセンサの2種類の磁気センサを使い、その精度を高めている。また制御系では確実な演算をするためISO26262に準拠したマイコンを持ち、クルマの診断機能を集積している。加えて、マイコンと高電圧電源回路を切り離すため、3相ブリッジのドライバICを使う。クルマが非常に危険な状態では、フェールセーフシステムが働き、電源をシャットダウンする。

また、最近よく言われることだが、クルマがインターネットにつながるようになるとサイバー攻撃の危険にさらされる。これに対しては、InfineonがICカードで培ってきたセキュリティ技術を活用する。同社のマイコンAurixシリーズでは、ハードウエアとソフトウエアを使い分けた暗号化回路を集積し、クルマの機能安全規格ISO26262にも準拠する。

Infineonはトヨタ自動車の広瀬工場から2004年から2005年を除き2011年まで毎年品質管理の良さで表彰されている。新開発の製品についてもZD(欠陥ゼロ)に向けた製造努力を続けていく、とHanebeck氏は述べている。