フィギュアのポーズを決めて色塗る

安藤賢司
バンダイ『S.I.C』シリーズなど、多数のハイエンドな玩具の原型を担当。「原型師がマスプロダクツ製品のパッケージに名前を刻まれる」という偉業を成し遂げ、「玩具原型」の認識を「作品」のレベルまで高めた。アニメーション作品の設定担当など、立体造形に留まらず、その活躍は多岐に渡る

1月も終盤で、いよいよ寒くなってきました。指先を使う仕事には、やっかいな季節です。そんな時期にお送りする造形作法2回目です。今回は立体化するキャラクターのポーズ決定から、イラストへの彩色まで行います。昔から、それこそ、キャラクターフィギュアが個人で作られるようになった、いわゆるガレージキットの黎明期と呼ばれるような時代から、言われ続けているジンクスみたいなものがあります。それは、座ったり、寝そべっているポーズのフィギュアは受けない。言い換えれば、立ちポーズ以外は受け入れてもらえない。と、言うものです。理由はいろいろとあるらしいのですが、立ちポーズ以外だと全体の構成としての背丈が低くなるので、同じ様な価格帯の商品だと、割高に感じてしまうと言うのが有力な説のようです。理由が存在するので、ジンクスと言うより、格言と言った方が適当かもしれません。

この手の話は他にもあります。表情が見え辛いポーズのフィギュアは受けない。とか、決めポーズで背中を見せるようなフィギュアは受けない。こちらの方は、分かりやすい理由だと思います。やはり、手にしたキャラクターとは目線を合わせたいものです。自分の好きなキャラクターを好きな角度から眺められる、触れる。だからこその立体物であり、フィギュアなのです。

余談ですが、立体の写真を見せるのが目的の模型雑誌の撮影で、「横向き」や「見返り」のアングルを指定したのに、バッチリ「正面」から撮られて、ちんぷんかんぷんな絵になってしまったという経験が何度もあります。難しいものです。

もちろん、マイコミジャーナルの連載企画はほぼ商売っ気抜きなのですが、ついつい発想がこういう方向にいってしまいます。そんなこんなを踏まえつつ、前回のフィギュアのポーズ選択にいよいよケリを着けなければなりません。と、ここまでの文章を読めば、当然、③のポーズが選ばれる事を想像するのは難しくありません。③で行きます。でも①も捨て難いのです。ここ暫く仕事の方で、こんな派手な躍動感のあるポーズの原型制作をやっていなかったので、指先がウズウズしますし、何より、こう言う綺麗な流れがある物を上手く構成できて仕上げられた時の自己満足感ときたらもう! あー、未練タラタラです。

魅力的なポーズだが、様々な理由でこのポーズは不採用

フィギュアには、このデザインが採用されました

では③は無難な選択なのか、と、言えば決してそうではありません。青池良輔さんと言えば「創作番長クリエイタ」です。番長と言えば、「腰立ちポーズ」! ピタリと符号は一致しました。と、言った正当な理由とは別に、特に、私にとっては「腰で立つポーズ」は「苦手なポーズ」の筆頭だからです。近年、腰立ちは格好良い決めポーズの代表みたいな認識がされています。一寸ルーズな感じがイカしています。ところが、ベテラン原型師に分類される私の作った作品の中に、この要素が必要なキャラクターが皆無に等しいのです。有体に言えば、やった事がほぼないのです! 難易度高い!! あ、なんか燃えて来ました。 「逆境だったり怒っている時の方が、調子良さそうですよね」とか、そういうキャラらしいですから私。

次回からついに制作に入ります。まずは頭部から作り始めます。ちなみに、今回のイラストの着色についてですが、あくまでも、イメージ優先なので、アニメよりも逆にラフな感じで塗ってみました。オリジナル版よりも、ラフに塗ったといっても、色をややはっきりさせるという部分は意識しました。

これが完成した安藤バージョン『CATMAN』イメージイラストだ。次週以降、このイラストを立体化していく

またもや、余談です。仕事場としてお借りしている友人の家の離れに、白猫がやって来ます。妙に人見知りする猫で、よく屋根の上からコチラを見下ろしています。ここの家の庭は近所の猫の集会場みたいになっていて、この白猫以外の猫も多数やって来ます。時々、屋根の上を駆けずり回ったりしています。先日、仕事場に入ろうとすると、屋根の上からけたたましい足音が、猛烈な勢いで迫ってきました。上を見上げた瞬間、離れから母屋に向かって白猫が跳躍したのです! その後を追って、斑猫もポーン! 遠ざかる足音。まさにリアル「CATMAN」。もしかしたら、青池さんも同じ様なシーンを見たのかもしれません。ちなみに、我々はこの白猫を「シロイサン」と呼んでます。

次回から、いよいよフィギュアのスクラッチがスタート