都内では桜が見ごろを迎え、これから夏の足音が大きくなっていくとともに、冷房の頻度も増えていくことだろう。

今や夏の熱中症予防のために冷房は欠かせない存在であるが、冷房が原因と考えられる健康被害も報告されている。冷房によるコンタクトレンズ装用者の目の不快感との関連性、生後まもなくから冷房あるいは暖房を用いた室内で過ごした乳幼児はアトピー性皮膚炎有病率が高くなる可能性があり、成人アトピー性皮膚炎が低湿度下で悪化するなどの報告がされている。

これらのことは冷暖房に伴う室内温熱環境の実態の解明が健康問題を検討する上でも重要であることを示唆している。

そこで今回、冷房が室内温熱環境に与える影響を、一般住宅とアトピー性皮膚炎患者宅を比較することによって検討した研究について紹介したいと思う。

連載という形で、3回にわたって研究を紹介するが、冷房の評価法を樹立することも目的として、まず1、2回目の記事で一般住宅における冷房の室内温湿度に与える影響を紹介し、その結果を踏まえて3回目の記事で、一般住宅とアトピー性皮膚炎患者宅の温湿度の比較について紹介する。

冷房を使用したほうが平均室温は下がる?

一般住宅の調査対象は、木造住宅6戸、鉄骨(S)造住宅4戸、鉄筋コンクリート(RC)戸建住宅集合住宅4戸で、名古屋市および岐阜市とその周辺に立地する。各住宅の概要は以下の通りである。

  • 一般住宅の概要

    一般住宅の概要(出典:日本建築学会環境系論文集,605,55-62)

調査対象住宅は、主に居間の温湿度を小型温湿度計で30分間隔にて、約半年から1年にわたって測定した。

また、各住宅の7月から8月の冷房頻度に関する聞き取り調査を行い、冷房を在室時にはほぼ毎日使用すると回答した住宅を「頻度が高い」、暑いときに使用すると回答した住宅を「頻度がやや高い」、あまり使用しないと回答した住宅を「頻度が低い」、使用しないおよび保有していないと回答した住宅を「不使用」としている。

冷房の影響を把握することが目的であるため、7月から8月のデータを抽出し、室内と室外の気温の日平均値をもとめ、t検定により、関連を相関分析および単回帰分析により解析した。

また、検定とは確率をもとに結論を導く方法であり、ここではザックリと差や傾向の有無を統計的に調べた結果と捉えていただければ十分である。

  • 一般住宅の室内気温の平均値、標準偏差、室内外差と外気温と室内気温の相関係数と、回帰係数

    一般住宅の室内気温の平均値、標準偏差、室内外差と外気温と室内気温の相関係数と、回帰係数(出典:日本建築学会環境系論文集,605,55-62)

上表は7月から8月の室温の日平均値と標準偏差、室内外気温差、外気温と室温の相関係数と単回帰式(y=ax+b)の係数aをまとめた表である。

平均室温は家屋構造や冷房の使用頻度に関わらず27℃~29℃で住宅間の差は少ない。

これは、非常に驚く結果であると思う読者がいるかも知れないが、実は1日の平均温度は住宅の種類によってあまり差が出にくく、一般的なことである。また、冷房を使用していても日平均気温は外気より室内の方が高くなることもよくある(上表の住宅MN、Anは冷房を使用する頻度が高いと回答しているが、外気の平均気温よりも室内気温の平均のほうが高くなっている)。

住宅の材質で冷房の効果は異なる?

ちなみに、相関係数(r)とは相関の強弱を示す値で-1~1の値をとり、回帰係数(a)は直線の傾きを示す。ここでの回帰係数が示す意味は、縦軸:室内気温、横軸:外気温としたときの傾きであり、回帰係数(a)が大きいほど室内気温は外気温の影響を受けやすいということとなる。

  • 一般住宅の日平均外気温と日平均室内気温の関係(出典:日本建築学会環境系論文集, 605, 55-62)

図に外気温と室温の日平均の関連が示されている。

木造住宅では室温が外気温よりも高い住宅と低い住宅に分けられた。前者は冷房不使用のYW宅、冷房頻度の低いKI宅およびやや高い、Yn、Yo宅を含み、r=0.78~0.95、a=0.70~0.76と大きいが、住宅間での顕著な相違は認められなかった。

後者の冷房頻度が高いNI宅とやや高いWo宅を含めると、室温の上昇率(a)は低く、外気温より室温の低い日が多かった。また、冷房頻度のやや高いWo宅では、r=0.26、a=0.19とさらに小さい、すなわち外気温の影響がほとんどみられないため、冷房の影響が大きいと推察された。

S造では、3戸とも外気温より室温が高い日が多く、その分布に冷房の不使用(OD宅)と使用宅(MN、An宅)とによる顕著な違いはみられなかった。ただし、An宅ではa=0.33と小さく、やや冷房の影響が大きいと推察された。

RC造戸建住宅でも外気温より室温の低いWn宅と高いMR、MG、Ao宅に分かれた。冷房頻度の高いWn宅ではa=0.29と小さくなっており、室温の低下が顕著であった。冷房頻度のやや高い他の3戸では室温が外気温より高い日が多かったが、Ao宅に関しては相関係数および回帰係数がr=0.13、a=0.14と小さく、外気温との関連がきわめて低かった。

RC造集合住宅も2群に分けられたが、回帰係数はa=0.12~0.43と全体的に小さかった。

以上の結果から、気温の室内外の関連を検討した結果、冷房不使用住宅では室温が外気温よりも高く、両者の相関係数、回帰係数は大きかった(室温が外気温の影響を受けやすい)。

一方、冷房頻度の高い住宅では、相関係数、回帰係数が小さくなる傾向が見られた。しかし、冷房頻度の高い住宅でも室温が外気温より高い住宅があり、冷房による室温低下が必ずしも大きくない可能性、あるいは温度のみの冷房効果の把握、評価に限界があることを示唆している。

そこで、次回は温度ではなく絶対湿度に着目して議論する。

また、次回の記事から読み進めても理解できるよう、冒頭にはここまでのまとめを分かりやすく解説するので参考にしていただけると幸いである。