前回は冷房が室温に与える影響について紹介した。

今回の内容と関わってくる部分もあるため、冒頭で前回の簡単なおさらいをする。

冷房と室内外の気温差の関係

  • 1:相関係数(r)とは2種類のデータの関連性を示す値であり、前回の記事では「室内気温」と「外気温」との関連性について言及した。rが大きい(1または-1に近い)と室内気温と外気温は互いに影響しあっており、rが小さい(0に近い)と室内気温は外気温に影響されないということになる。

  • 2:回帰係数(a)は2種類のデータの傾きであり、前回の記事では縦軸「室内気温」、横軸「外気温」としたときの傾きについて検討した。すなわち、外気温が高くなると室内気温がどのくらい変化するのかの程度を示す値である。

  • 3:家屋構造(木造・S造・RC造戸建・RC造集合)や冷房使用頻度に関わらず、7月から8月の1日の平均室温(日平均室温)は27℃~29℃であり、住宅間で顕著な差はみられない。また、日平均室温が外気温より高くなることもよくある。

  • 4:冷房不使用住宅では室温が外気温より高く、相関係数、回帰係数も大きくなった(外気温の変化が室温に与える影響が大きい)が、冷房頻度が高い住宅では両者が小さくなる傾向がみられた。しかし、必ずしもそうではない住宅もあるため、冷房効果の把握、評価を温度のみで行うには限界がある。

今回は4で述べた温度だけでは限界があることを鑑みて、冒頭で絶対湿度に着目して議論を行っている。冷房は室温低下とともに除湿も行うため、絶対湿度も低下するのだ。

そこで今回の記事では、室内絶対湿度の日平均値、標準偏差、室内外の絶対湿度の差を求め、関連を検討した研究を紹介する。

冷房と湿度の関係

今回、湿度について調査したのも、第1回目の記事で登場した研究対象の住宅だ。

  • 一般住宅の概要(出典:日本建築学会環境系論文集,605,55-62)

    一般住宅の概要(出典:日本建築学会環境系論文集,605,55-62)

絶対湿度の室内外の平均値をt検定により検討した結果、冷房不使用(YW、OD宅)や使用頻度の低いYS宅およびRC造戸建の冷房頻度がやや高いMR、Ao宅を除いて、室内絶対湿度は外気絶対湿度よりも有意に低く、冷房との高い関連性が示唆された。

  • 一般住宅の室内絶対湿度の平均値と標準偏差、室内外絶対湿度差、外気絶対湿度との回帰係数、相関係数

    一般住宅の室内絶対湿度の平均値と標準偏差、室内外絶対湿度差、外気絶対湿度との回帰係数、相関係数(出典:日本建築学会環境系論文集,605,55-62)

絶対湿度の室内外の平均値をt検定により検討した結果、冷房不使用(YW、OD宅)や使用頻度の低いYS宅およびRC造戸建の冷房頻度がやや高いMR、Ao宅を除いて、室内絶対湿度は外気絶対湿度よりも有意に低く、冷房との高い関連性が示唆された。

  • 一般住宅の日平均外気絶対湿度と日平均室内絶対湿度の関係

    一般住宅の日平均外気絶対湿度と日平均室内絶対湿度の関係(出典:日本建築学会環境系論文集,605,55-62)

木造住宅では概ねr=0.87?0.98、a=0.80?0.89と大きく、外気絶対湿度の上昇に伴って室内絶対湿度も上昇した。一方、冷房頻度の高いNI、Wo宅は相関係数および回帰係数が顕著に小さく、冷房頻度との関連性が示唆された。

S造住宅では冷房不使用OD宅は内外絶対湿度差が0.0g/kg’でr=0.98、a=0.93と外気との追随性が高くなった。一方、冷房頻度の高いMN、An宅ではそれぞれr=0.46、r=0.72:a=0.33、a=0.53と小さく、冷房不使用住宅と使用住宅が明瞭に分かれた。

RC造では冷房頻度の低いYS住宅の相関係数はr=0.92と大きく、回帰係数もa=0.62と比較的大きく、冷房頻度が低い可能性が示唆された。それに対し、冷房頻度のやや高いNO宅では回帰係数がa=0.35と小さかった。

以上、絶対湿度の内外の関連を検討した結果、冷房不使用宅(YW、OD宅)あるいは頻度の低い住宅(YS宅)では室内外の差は認められず、相関係数、回帰係数ともに大きくなった。これに対して、冷房頻度の高い住宅(NI、MN、Wn、FJ宅)では室内外絶対湿度に差が認められ、相関係数、回帰係数ともに小さかった。

これらは、室内絶対湿度と冷房使用との高い関連性を示すもので、室温変動よりも冷房効果の評価に有用な指標であると推定される。

これらの結果をさらに確認するため、気温および絶対湿度の内外差の日平均をもとめ、その分布パターンを検討した。

  • 一般住宅の日平均室内外気温差と室内外絶対湿度差の関係

    一般住宅の日平均室内外気温差と室内外絶対湿度差の関係(出典:日本建築学会環境系論文集, 605, 55-62)

  • 一般住宅の日平均室内外気温差と室内外絶対湿度差による住宅の類似化一般住宅の日平均室内外気温差と室内外絶対湿度差による住宅の類似化(出典:日本建築学会環境系論文集, 605, 55-62)

タイプ1は、室温が外気よりも平均1.3℃~2.3℃高く、絶対湿度の内外差は0g/kg前後であり、冷房を使用せず、あるいは最小限にし、窓の開放などにより採涼している可能性が高いと推察された。

タイプ2は室温差が1.1℃~1.5℃で絶対湿度差が-0.8kg/kg'~-1.4kg/kg'と大きく、冷房を使用しているものの室温への影響は小さいと推定された。

タイプ3の気温差は1.2℃~1.6°Cと室温が高いが、絶対湿度差は-2kg/kg'前後と大きく、室内絶対湿度の大きな低下にもかかわらず、室温の低下はみられなかった。

タイプ4はいずれも冷房頻度の高い住宅で、室内外気温差が0.0℃~-1.0℃と室温が低く、絶対湿度も-3.0kg/kg'~-4.5kg/kg'と大きく低下した。しかし、気温差と絶対湿度差に線形的な関係は得られなかった。

タイプ5は室内外の気温差にともない絶対湿度差も大きくなり線形的な関係が得られた。

一般的には冷房の使用により室温低下と同時に絶対湿度も低下するので、タイプ5のような線形的な関係が典型的と考えられるが、タイプ2~4のように両者に線形的な関係が得られない住宅もあることがわかった。

また、これらの結果から、各住宅の冷房使用頻度や強度は日々の室内外気温差と絶対湿度差の関係を検討することによって評価できると考えられた。

今回は、住宅における室内外の気温差と絶対湿度差の関係を検討することによって、冷房効果を検証できる内容となっている。

前回に引き続き、今回も住宅の温熱特性について検討したが次回からは、アトピーとの関係性について触れていくので、ぜひ、楽しみにしておいてほしい。