ボイスボットの導入自体は増えているものの、コンタクトセンターのコストを大きく削減するような大成功を収めている例はまだ多くありません。なぜなら、コンタクトセンターでAIを使いこなすには、IT分野だけではない技術力やノウハウが必要だからです。今回は、コンタクトセンターにおけるAI活用の3つのポイントについて解説します。

ボイスボットの市場が拡大

筆者が最初にボイスボットに出会ったのは、2019年の春ごろです。ベンダーからボイスボットについて説明を受けました。その後、所属していた関連会社にボイスボットを導入しましたが、当時はあまり導入事例や情報も少なかったのを覚えています。

ボイスボットとは、音声で質問したものに、AI(人工知能)から音声で回答が返ってくるというもので、音声認識技術や自然言語処理、音声合成などの技術を組み合わせて人を介さずに自動応答することができるシステムです。

  • ボイスボットとは

音声認識技術は30年以上前から開発が進んでいましたが、コンタクトセンターでの活用は、「オペレーターの発話を認識してFAQを表示する」「NGワードを検出してアラート監視をする」「テキスト化することでVOC(Voice of Customer:顧客の声)として分析する」など、ユーザーのフロントチャネルではなく、コンタクトセンター運用側の機能としての活用が主流でした。

そんな中、AIによる音声認識、自然言語処理、音声合成で会話をするボイスボットが登場し、コンタクトセンター人材確保困難の問題に対する解決手段として注目されてきました。特に、この2年で国内でのボイスボットの導入事例は大きく増えました。

国内の調査会社であるITRが2023年8月に発行した「対話型AI・機械学習プラットフォーム市場2023」によると、市場規模は、2022年には約20億円でしたが、2023年は30億円を超えました。2025年には約60億円、2027年には88億円という市場予測もあります。

ボイスボットの課題

一般的なボイスボットの性能としては、音声認識の正解率が80%、自然言語処理の正答率が80%と言われています。2つがかけあわさるので、64%というのが、ボイスボットの技術的な期待値となります。

ボイスボット業界では、質問を正しく理解して適切なアンサーを返す目安が64%となります。実際、当社が2024年5月に実施した「ボイスボットユーザー調査2024 」でも、ボイスボット利用者で解決したと回答したのは、61.3%という結果でした。

2年前の同調査では50%を下回っていたので、上昇傾向ではありますが、解決しなかったユーザーのうち、48%はオペレーターに電話が転送され対応が完了されました。また、20%がWebやメールなど別の方法で再度調べ、18%は店舗や別の窓口に連絡するなど「たらい回し」の状態が発生しています。さらに14%は諦めたと回答しており、これは、機会損失を意味するだけでなく、自社に対する悪印象を与えてしまった可能性すらあります。

  • ボイスボット利用者に対するアンケート調査

一般的に言われる64%とは、技術的にはこのくらい到達できるはずという意味で、実際には解決率が20%という場合もあります。解決率がよいと言われているケースでも、60%から、よくて70%程度が多く、80%を超えるのはまれなケースと思われます。それがボイスボットの現状です。

ボイスボットでの問い合わせ対応の自動化に向けたポイント

トゥモロー・ネットの「CAT.AI」というAIサービスを使った事例では、ボイスボットのみでの解決率が平均88%、最高で96%(月間)というケースもあります。ボイスボットでの解決率を上げるには、AI自体の性能もさることながら、さらに重要なポイントがあります。

成功の秘訣(1)AIのメンテナンスを継続的に行う

AIの精度を向上させるには、導入後の継続的なメンテナンス・改善が不可欠です。結果を定期的に分析し、その結果に基づいて改善を行うPDCAサイクルを繰り返すことで、適切な回答を出す精度が上がります。

AIのチューニングは、Q&Aを追加するだけのFAQ型チャットボットと違い、手間と時間、AIの知識や技術力も必要です。

成功の秘訣(2)CX起点の会話デザイン

AIからの質問を聞いたお客様が、何と答えればいいか分からなくて止まってしまうという状況を避けなければいけません。

お客様は、「何を言ってるんだろう」「意味が分からない」「私が伝えていることが分かっていない」と思う時に不満を感じます。逆に、自分が話したことに対して意思疎通がとれていると感じたり、分かりやすい質問ができたりすると、印象がよくなります。

AIの会話で意味が分かりにくい質問表現や、同時に2つの質問を投げかけることはおすすめできません。また日本語は「結構です」など、どちらの意味にも取れる言い回しも多いので、気をつける必要もあります。それを避けようと「はい/いいえ」で答えられる質問だけにすると、「聞きたいことが聞けない」という不満につながる可能性もあります。

AIの技術的な専門家は会話の専門家ではないので、会話の応対品質を管理・デザインすることも顧客体験向上に大切な要素です。

成功の秘訣(3)コンタクトセンターシステムとAIをつなぐ技術

チャットボットはWeb環境に設置することが多いので、システム構成はそこまで複雑なものにはなりません。しかし、コンタクトセンターにかけた電話をボイスボットが受けるとなると、PBX(電話交換機システム)と連携させる必要があり、Webの技術だけではできません。

また、きちんと音声認識と自然言語処理ができたとして、CRMのシステムに手入力しなければならないとしたら、あまり省力化にはならないので、AIで受け付けた内容をCRMへ自動連携することも多くなります。このようにさまざまなシステム連携が発生するため、コンタクトセンターが活用している一連のテクノロジーについて熟知していることが非常に重要だといえるでしょう。

つまり、コンタクトセンターのボイスボットの有効な活用においては、以下のつの要素が「ボイスボットのクオリティ」と「効率化」を決めるのです。

  • AIの定期的なメンテナンス
  • CXを起点とした会話のデザイン
  • コールセンターシステム全般の技術知識