クルマだと、前照灯(ヘッドライト)、尾灯(テールライト)、ターンシグナルランプ(ウィンカー)、制動灯(ブレーキライト)、バックライト、といった灯火がついている。鉄道車両だと、前部標識灯(ヘッドライト)や後部標識灯(テールライト)といった灯火がついている。では、飛行機はどうだろうか?
左翼は赤、右翼は緑
といっても政治的な話ではなくて、両翼端についている航空灯(navigation light)または位置灯(position light)の話。一般には翼端灯ともいう。
船舶の灯火がやはり、左舷側の舷灯は赤、右舷側の舷灯は緑、と決められている。飛行機業界は船の世界から持ち込んだと思われる風習がいろいろあるが、灯火の色もその1つかもしれない。
飛行機の翼端灯にしろ、船の舷灯にしろ、左右で色が違うのには理由がある。こちらに向かってきている飛行機や船を視認したときに、並んだ赤と緑の灯火の位置関係を見れば、どちらが左舷でどちらが右舷なのかが分かるからだ。それが、こちらに向かってきているのか、それとも遠ざかっているのかを区別する手がかりになる。
さらに念を入れて、照射する範囲も定めてある。左翼端の航空灯は真正面から左方向に向けて130度まで、右翼端の航空灯は真正面から右方向に向けて130度までの範囲を照射するように定めてある。
ここまで書いたところで、「はて、翼端にエンジンナセルが取り付いているV-22オスプレイはどうしているんだ?」という疑問が出てきた。そこで、現物の写真を確認してみたところ、そのエンジンナセルの外側に航空灯が取り付けてあった。
面白いのはF-35で、翼端より少し引っ込んだところの上下に透明な張り出しが設けてあって、その中に航空灯が入っている。もちろん、照射範囲は規定通りである。F-16のように翼端にミサイル発射レールが付いている機体では、そのミサイル発射レールの上下に航空灯を張り出させてある。
このほか、左右の水平尾翼、あるいは主翼の両端に、後方に向けて照射する灯火がある。こちらは白色で、照射範囲は140度、つまり左右それぞれ70度ずつとなっている。
つまり、遠ざかる機体であれば白色の灯火が見えて、その間隔でおおまかなサイズや距離がわかる。接近してくる機体であれば赤と緑の灯火が見えて、それらの左右の位置によって進行方向がわかる。よく考えられているものである。
衝突防止灯、着陸灯、タキシー灯
時々「アンコリ」と略すことがあるが、正式にはアンチ・コリジョン・ライト(anti-collision light)、日本語では衝突防止灯という。胴体の上下に取り付けてある赤色の灯火で、これは他の灯火と違って、閃光灯、つまり点滅する灯火である。
民航機だと胴体の上面と下面に1つずつ、というのが一般的なスタイルだが、戦闘機だと異なる数や配置になっていることもあるようだ。いずれにせよ、夜間飛行の際に赤色の灯火が点滅していたら、それが衝突防止灯である。
衝突防止灯が点滅している様子を、飛行中の機内から撮影した動画を用意しておいたので、ついでにリンクしておこう。点滅している光が、エンジンナセルに反射しているのがわかる。
次に着陸灯(landing light)。これは左右の主翼の付け根付近・前縁部に取り付けてあって、前方を照らしている。離着陸の際に滑走路を照らす目的で設けてある。色は白色。
同じように前方を照らす灯火だが、取り付け位置と用途が違うのがタキシー灯(taxi light)。その名の通り、地上でタキシングしている時に前方を照らすための灯火で、地上でしか用がないから首脚柱に取り付けるのが一般的なスタイルになっている。
戦闘機の場合、主翼が薄いためなのか、主翼の前縁に着陸灯を設けることはないようだ。そこで、首脚に着陸灯とタキシー灯を取り付けることが多い。F-15JやF-22Aだと形が異なる灯火が2個ついているので、片方が着陸灯、他方がタキシー灯だろうと推察できる。謎なのはF-35で、灯火はひとつしかない。
変わっているのはF-16で、ブロック30/32までは左右の首脚ではなく主脚に取り付けてあった。それが、ブロック40/42からは、右ヒンジで開く首脚収容室扉の前縁部に、前向きに灯火を並べる形に変わった。しかも4個も並べてある。
F-16は細々した派生型がやたらと多い機体だが、ブロック30/32までの機体とブロック40/42以降の機体を区別する手がかりのひとつが、この着陸灯/タキシー灯である。覚えておくと、知らない人相手に蘊蓄自慢ができるかも知れない(?)
この4個並びの灯火を正面から見ると、上の2個と下の2個でランプの位置が違うので、2個が着陸灯、2個がタキシー灯、と使い分けて照射範囲を違えているのかもしれない。
民航機に独特の灯火
軍用機には関係なくて、民航機にだけ付いている灯火が、ロゴ灯。左右の水平尾翼の上面辺りに取り付けてある。目的は、垂直尾翼の両側面を照射すること。垂直尾翼の塗装はエアラインによってさまざまだから、ロゴ灯によって照らし出すことで、その機体の所属をわかりやすくする意味がある。
このほか、非常脱出口を照らすための灯火や、主翼の付け根付近から外側に向けて主翼の前縁を照らす灯火もある。前者は非常脱出口の位置を分かりやすくするため、後者は主翼前縁の着氷の有無を確認するために使う。たぶん、前縁フラップの動作を確認する役にも立つ。
軍用機に独特の灯火
逆に、民航機にはなくて軍用機にだけ付いている灯火というものもある。比較的、「ああ、アレか」とわかりやすいのが、編隊灯。
特に戦闘機でよく見られるが、胴体の側面や垂直尾翼の側面に、細長い矩形の灯火が付いている。これが編隊灯で、夜間や雲中の飛行に際して、編隊を組むための補助手段として使用する。他の灯火と違って色は淡い緑色で、遠方からの視認が難しい。つまり、近くにいる僚機にだけ見えるわけだ。編隊を組むような僚機は近くにいるはずだから、それで用が足りる。
ただし、取り付ける場所に一般化した決まりはないようで、機種によって取り付ける場所や形はさまざまだ。言い換えれば、編隊灯の向きや配置によって機種の識別ができる、ということなのかもしれない。
このほか、空中給油機のうちフライング・ブーム式の機体だと、前部胴体の下面に、受油機(レシーバー)に位置の変更を指示するための信号灯が付いている。無線を使うと誰かさんに傍受される可能性があるが、灯火ならその心配が要らない。
ちなみに、有人機だけでなく無人機でも、ちゃんと灯火は付いている。念のために、手元にあるMQ-1プレデター、MQ-9リーパー、RQ-4グローバルホークの写真を調べてみたところ、ちゃんと翼端の航空灯や、衝突防止灯らしき灯火は付いていた。
ただし、パイロットが乗っていないので、離着陸時に前方を見るニーズはないと思ったのか、着陸灯やタキシー灯は見当たらない。赤外線センサーを使えば、前方を照らすための灯火がなくても前方は見えるということか。