2017年の1月に岩国基地に飛来、さらに5月のフレンドシップ・デーで地上展示されたことで、一挙に身近な存在になったF-35ライトニングII。しかも岩国に飛来したのは海兵隊のF-35Bだから、前回にも述べたように、メカ的にはもっとも面白い部類の機体である。

F-35Bの操縦翼面の使い方は面白い

F-35Bは、離陸時は短距離離陸を行い、着陸時は垂直着陸を行う。つまりSTOL(Short Take-Off and Landing)とVTOL(Vertical Take-Off and Landing)を併用する、V/STOL機である。もちろん、CTOL(Conventional Take-Off and Landing)形態での運用も可能である。

CTOL機が離着陸を行う際には機首上げのために、水平尾翼(スタビライザー)の後縁部に取り付けた昇降舵(エレベーター)を上向きに動かして、尾部を押し下げる操作を行っている。戦闘機は空力上の理由から、水平尾翼がまるごと動く、いわゆる全遊動式水平尾翼(スタビレーター)を使っているが、動きは同じである。

着陸のため、接地した後で滑走しているF-15Cイーグル。スタビレーターが、尾部を押し下げる(=機首を持ち上げる)方向に動いている様子がよくわかる

これはF-35のうち、F-35AとF-35Cも同じ。離着陸の際にはやはり、スタビレーターは前下がりになる。

こちらはF-35A。やはり、着陸時にはスタビレーターが前下がりになっている

といったところで、F-35Bである。CTOL形態で運用する場合の操縦翼面の動きは、上で写真を出したF-35AやF-35Cと同じだ。ところが、STOVL運用を行うときだけ操縦翼面の使い方が変わる。

F-35Bがリフトファンを作動させて短距離離陸を行う場合、CTOL機なら前下がりになるスタビレーターが、逆の動きになる。つまり、機体がエアボーンする直前にスタビレーターが前上がりになって、機首下げの力を発生させている。それなのに機体は機首を上げて離陸・上昇していく(!)。その様子は以下の動画で見て取れる。

2 F-35Bs takeoff and land from USS WASP

これは、スキージャンプのアシストを受けながら短距離離陸を行う場合も同様。エアボーンした瞬間にスタビレーターが前上がりの向きに動く様子が、以下の動画から読み取れる。

F-35B Conducts First Ski-Jump Launch

どうしてこんなことをするのかといえば、浮揚力を増すためだろう。スタビレーターが尾部を押し下げるということは、機首上げの力につながる一方で、揚力をマイナスにするということにもつながる。そこで、F-35Bでは逆の動きをさせて、さらにエンジンの推力偏向やリフトファンとの組み合わせにより、最大限に浮揚力を引き出すようにしたのだろう。

コンピュータ制御だからパイロットは楽ちん

しかし、これをパイロットの眼から見ると面倒な話になる。前述したように、F-35BはCTOL運用もSTOVL運用も可能な機体だから、どちらの形態で飛ばすかによってスタビレーターの動きが逆になる。

普通、スタビレーターを前上がりにする(つまり機首下げ)際は、操縦桿を前方に押す。スタビレーターを前下がりにする(つまり機首上げ)際には操縦桿を手前に引く。ということは、CTOL運用で離着陸する際は操縦桿を引いて、STOL運用で離着陸する際には操縦桿を押せ… …!?

そんなややこしいことをさせるのは事故の元。しかし、F-35は飛行制御コンピュータが操縦翼面を動かすFBW(Fly-by-Wire)を使用しているから、操縦桿の動きがそのまま動翼の動きに直結するわけではない。

そこで、飛行制御コンピュータがうまいことやってくれる。同じように離着陸時に操縦桿を引く操作を行っても、CTOLの時とSTOLの時とでそれぞれ異なるスタビレーターの動かし方をしてくれるのだ。これならパイロットは迷わない。慣れ親しんだやり方で、「操縦桿を手前に引いてエアボーン」と操作すればいい。

なにしろ、通常飛行中とSTOVLの切り替えでは、排気ノズルの向きを変えたりロールポストを作動させたり、リフトファンの駆動軸とエンジンを結ぶクラッチを接続してリフトファンを始動したり、それに合わせてリフトファンの吸気口と排気口に付いている蓋を開けたり、と仕事が多い。

それをいちいちパイロットに手作業でやらせるのは大変だから、F-35Bではみんなコンピュータ制御にして自動化した。その恩恵なのか、F-35Bはこれまで、STOVL運用において事故らしい事故を起こしたことがない。

ちなみに、垂直着陸(VL : Vertical Landing)モードに入れた時も、スタビレーターは前上がりになる。着陸そのものは自動的に行えるが、降りる位置を調整する操作は必要になるので、VLモードに切り替えた後は、操縦桿は前後左右の移動を指示するために使う。

また、スタビレーターとは関係ないが、スロットル・レバーは上下方向の動きを指示するために使うそうである。

さて。スタビレーターによって機首上げの力を発生させると、確かに機首は上がるが、機体の後部を押し下げているわけだから揚力の面ではネガがある。その影響に対処して、短距離離着陸性能を強化したデルタ翼機の話が、次回に出てくる予定だ。