自爆型ドローンの脅威が拡大する中、それを「ドローンで迎撃する」という新たな防空の形が現実になりつつある。

なんとも間の悪い話だが、前回のLOAD(LOw-cost Air Defence)に関する記事が公開されたのと同じタイミングで、エアバスが続報を明らかにした。そこで今回は、その補足情報を基にして話を進めてみる。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

エアバスの迎撃ドローン「Bird of Prey」とは何か

昨年、最初に話が出たときにはLOADすなわち「安価な防空(手段)」という名称だったが、2026年3月30日付のプレスリリースでは、母機について新たに“Bird of Prey”という名前が使われていた。“Prey”は捕食、あるいはその際の獲物を意味する言葉だから、「敵の自爆無人機を捕食する」ぐらいの意味になるだろうか。

ただ、この名前に既視感を覚えた方もいらっしゃると思われる。当初はマクドネルダグラス、その後に同社と合併したボーイングが自己資金で開発して、1996年に初飛行したステルス実験機も、同じ名前を名乗っていたからだ。もちろん、今回のエアバスの機体とは何の関係もない。

前回にも書いたように、LOAD改め“Bird of Prey”は、C-UAS(Counter Unmanned Aircraft System)を企図した機体。ただし、以前に取り上げたSTINGやGOBIと違い、自ら体当たりをかますわけではなく、搭載する小型ミサイルを発射して交戦する。だから、母機は回収・再利用できる可能性が出てくる。

“Bird of Prey”のベースになったDo-DT25はエアバス製の標的機で、エンジンは機種不明のジェット・エンジン。全長3.1m、全幅2.5m、最大離陸重量144kg、最大速力300kt、航続時間60分、進出可能距離110kmとのスペックを持つ。もともとの用途は標的機だから、赤外線放射を意図的に増やしたり、レーダーやレーザーの反射を意図的に大きくしたりする仕掛けを備えている。主として赤外線誘導ミサイルの標的として使用するようだ。

標的機は撃たれて喪失する前提で考える必要があるので、できるだけシンプルに、安価にまとめる必要がある。その特徴は、とにかく数をそろえたいC-UAS用途との親和性が良い。

搭載ミサイル「Mark I」の性能と特徴

“Bird of Prey” は自ら体当たりするのではなく、先に書いたようにミサイルを発射するプラットフォーム。前回はLOAD計画の話が出たばかりの時点における情報を基にしていたので、「エンフォーサー・ミサイルを使うとの情報がある」と書いたのだが、これは結果として外れだった。

実際に試験で使用したのは、ドイツのフランケンブルク・テクノロジーズ(Frankenburg Technologies)が開発した空対空ミサイル・Mark I。全長65cm、重量は2kgを下回る小型軽量のミサイルで、射程は1.5km、0.5kgの破片弾頭を装備する。誘導には電子光学センサーを使用する。

  • エアバスの迎撃ドローン「Bird of Prey」は試験で空対空ミサイル・Mark Iを発射 出典:エアバス

    エアバスの迎撃ドローン「Bird of Prey」は試験で空対空ミサイル・Mark Iを発射 出典:エアバス

“Bird of Prey”は、これを左右の翼下に2発ずつ、合計4発を搭載できる。ただし最大8発まで搭載できるとのことなので、その場合には左右に4発ずつになる。

2kgのミサイルを8発搭載すると16kg、発射機を含めると、もっと重くなる。これは、最大離陸重量144kgの機体にとっては、無視できない分量だ。しかも、翼下にミサイル発射機を載せるなんていう話は、標的機では必要がないものだ。

だから、Do-DT225から“Bird of Prey”への改修に際しては、主翼に兵装パイロンを設置するだけでなく、構造強化が必要になるかも知れない。よしんばその通りだったとしても、母機をまっさらの新規設計にするよりは安価、かつ迅速に実現できるということだろう。

空中発進で変わる迎撃能力 A400Mとの連携

Mark Iミサイルは安価に製造できる代わりに小型・短射程だから、シーカーが目標を捕捉追尾できる範囲は限られる。だからといって、敵の自爆無人機がシーカーの探知可能範囲まで接近して来るのを待っていたら、迎撃のための時間的余裕がなくなる。

そこで、Mark Iミサイルを脅威の近くまで連れて行く手段として安価な母機を用意することにして、Do-DT25をベースとする“Bird of Prey”を用意した… …そんな構図になろうか。

実は2022年に、そのDo-DT25をA400M輸送機から空中発進させる試験を実施したことがある。本来、Do-DT25は地上からカタパルト発進させるから、行動範囲はそのカタパルトを中心とする半径110kmの円内に限られてしまう。上手い具合に “Bird of Prey” を載せたカタパルトがいるエリアに敵の自爆無人機が飛来すればいいが、そんな僥倖を常に期待するのは虫が良すぎる。

  • エアバスの輸送機「A400M」 出典:エアバス

    エアバスの輸送機「A400M」 出典:エアバス

しかし、A400Mに“Bird of Prey”を搭載すれば、もっと遠方まで送り届けることができる。それだけでなく、脅威が来襲してきたエリアに対して(陸上を移動するよりも)迅速に送り届けることもできる。すると、過去に実施済みの空中発進試験も、C-UASの有効性を高める方向に機能すると期待できる。

ただ、1機の“Bird of Prey”に搭載できるMark Iミサイルが最大8発では、自爆無人機の群れを迎え撃つには数的な面で心許ないとも思える。仮に10機用意して百発百中でも、80機しか撃ち落とせない。となると、”Bird of Prey” にアウター・ゾーン、もっと安価な別の手段にインナー・ゾーンを担当させる、多層防空が前提という可能性も考えられよう。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。