アメリカのシールドAIが2025年10月に、VTOL(Vertical Take-Off and Landing)型の無人戦闘用機、「X-BAT」の開発を進めていることを明らかにした。最近流行りのCCA(Collaborative Combat Aircraft)、つまり有人機と併用する想定の機体だが、VTOLというところが変わっている。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
立てた発射機から発着する
VTOL機というと、機体は水平状態のままで、エンジンの推力だけ下向きにして離着陸するものが多い。ハリアーがそうだし、(普通はやらないが)F-35Bもそうだ。
UAVの分野でもVTOL型の機体は多いが、こちらは推力偏向を用いる機体は多くない。安くシンプルにまとめたいUAVの分野では、構造や制御が複雑になる推力偏向は嫌がられるということであろうか。一方で、有人機ではモノにならなかったテールシッターの実用事例がある。
以前にも書いたことだが、有人機をテールシッターにすると「地面が見えない状態(つまり機体と地面の距離感を把握するのが難しい)で操縦しなければならない」という面倒があるが、無人機なら機上にパイロットが乗っているわけではないから関係ない。
また、低速のプロペラ機では、水平飛行に用いる推進用プロペラとは別に、離着陸用のプロペラを搭載する無人機の事例がいくつもある。しかし、X-BATは有人戦闘機と併用する前提のジェット機だから、その手は使えない。
まだ現物はないが、メーカーが公表している動画を見ると、トレーラーに載せた起倒式の発射機を使用するのだと分かる。機体を取り付けたレールを立ててから、エンジンを吹かして離陸させる仕組みだ。
一方、着陸する場面の動画では、その発射レールのところに戻ってくる様子が描かれている。つまり一種のテールシッターである。
ただ、テールシッターといってもX-BATは降着装置を用いるわけではないようで、公開されている動画では、発進するときに使用するレールのところに機体が降りてきている。すると、機体とレールの位置をピタリと合わせなければ回収できないので、そこの制御がキモになりそうだと思える。
その代わり、降着装置を使用しないで済ませることができれば、その分だけ機体を軽くできる。また、降着装置のためのスペースが空くから、それを他の用途に回すこともできそうではある。
そしてイメージ動画を見ると、胴体下面に2カ所の機内兵器倉を設置するようだ。
VTOLならゲリラ的な運用が可能
これまで、さまざまなメーカーがCCAの構想を発表したり、CCAの実機を作って飛ばしたりしている。それらはたいてい、普通のジェット戦闘機と同様に滑走路から離着陸する。CTOL(Conventional Take-Off and Landing)機である。すると当然ながら、整備された飛行場が必要になる。
対して、X-BATはVTOL機だから滑走路は不要で、ある程度の空地、あるいは艦上のヘリ発着甲板といったスペースがあれば運用できる、という触れ込みになっている。すると、飛行場がないところからでもゲリラ的な運用が可能になる。
そこがX-BATの“売り”になるようだ。それもあって、起倒式発射機は車輪付きのトレーラーになっているわけだ。大型トラックがあれば牽引できるから、道路があれば移動はたやすい。
CTOL機であれば、必ず飛行場が必要になるから、敵軍が利用できる飛行場の位置を調べて、そこを中心として戦闘行動半径の円を描けば、敵機が飛来してくる可能性がある範囲が分かる。しかし、飛行場がないところから運用できるとなると、その中心点がどこになるか分からない。それでは、どこから発進して、どの辺まで襲ってくる可能性があるかを予測するのが困難になる。
ただ、X-BATはCCAだから、有人戦闘機と一緒に行動する場面が一般的になると想定される。しかし、その有人戦闘機の方は飛行場がなければ離着陸できないから、そちらが制約要因になる可能性はあるわけだ。といっても、空中給油で行動範囲を広げる手はある。
UAVに空中給油する技術もないわけではないが、現時点ではまだ実運用には至っていない。それなら、VTOL化してゲリラ的運用をすることで補う。一緒に行動する有人機の方は空中給油を用いれば、適地から離れた場所に拠点を構えることもできる。そんな話だろうか。
既製品のエンジンを使う
X-BATでもうひとつ目を引いたのが、エンジン。新品のエンジンではなく、既存のF100エンジンやF110エンジンを改造する想定だと説明されていた。そして、X-BATの発表より少し後の2025年11月10日に、X-BATのエンジンとしてGEエアロスペース製のF110-GE-129を搭載するとの発表があった。
プラット&ホイットニー(P&W)製のF100にしろGEエアロスペース製のF110にしろ、F-15やF-16といった戦闘機で使われている製品だから、すでにインストールベースは多い。それを流用すれば、スペアパーツや整備のノウハウ・要員を共通にできるから効率的かつ経済的。
それに、もしかしたら「墜とされても諦めがつくことが求められるCCAには、新品ではなくて、使い古しのエンジンを整備して載せてしまえ」という話になるやもしれない。
ただ、F110を載せる想定ということは、X-BATの機体規模はかなり大きいのではないか。公開されている動画や想像図を見た感じでは、F-16をいくらか寸詰まりにしたサイズ感に思えるのだが、この辺は2026年に実機が出てきたときのお楽しみにしたい。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。


