トルコのバイカルが開発を進めているジェット推進のステルス無人戦闘用機・クズルエルマを用いて、2025年11月30日にシノップ沖の洋上において、空対空戦闘の試験が成功裏に行われた。今回は、このクズルエルマの話を。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • バイカルが開発を進めているジェット推進のステルス無人戦闘用機・クズルエルマ 引用:バイカル

    バイカルが開発を進めているジェット推進のステルス無人戦闘用機・クズルエルマ 引用:バイカル

国産のレーダーとAAMを搭載

バイカルというと、しばらく前にウクライナにおけるバイラクタルTB2無人機の活躍が話題になっていたが、あれはプロペラ推進の、低速の機体。それに対して、クズルエルマはジェット・エンジンを使用する本格的な(?)無人戦闘用機である。

クズルエルマはすでに、空対地兵装の投下試験も成功裏に実施している。ただ、空対地兵装の場合、相手は動かないか、動いても(航空機と比べると)それほど移動速度は速くない。しかし、空対空戦闘になれば事情は異なる。まず、搭載する空対空ミサイルが敵機を捕捉できる位置まで自機を持って行かなければ、話が始まらない。

さて。今回の試験で使用したのは、クズルエルマの試作5号機とギョクドアン(GÖKDOGAN)空対空ミサイルの組み合わせ。調べてみると、ギョクドアンは視程外交戦を想定した空対空ミサイル(BVR AAM : Beyond Visual Range Air-to-Air Missile)で、アクティブ・レーダー誘導、射程は65km超と公表されている。

ギョクドアン空対空ミサイル

ギョクドアンは長射程・視程外の交戦を前提としているから、けっこう大形のミサイルだ。リリースされた写真を見ると、左右の翼下に1発ずつの空対空ミサイルを搭載している。つまり機内兵器倉には収容していない。

そして、AIM-120 AMRAAM(Advanced Medium Range Air-to-Air Missile)用のLAU-129/A発射機と互換性があるとされていることから、寸度・重量はAMRAAMに近いと考えられる。

  • クズルエルマが空対空ミサイルで標的を攻撃 引用:バイカル

    クズルエルマが空対空ミサイルで標的を攻撃 引用:バイカル

つまり、いわゆる格闘戦用の空対空ミサイルではないから、ドッグファイトで敵機の“尻を取る”必然性は低下する。通常の使い方は、来襲する敵機を正面あるいは側方から撃ち落とす形態となろう。そしてギョクドアンはデータリンク機能を備えているので、発射後でも、目標情報を母機からアップデートできるはずだ。

MURAD-110Aレーダー

もちろん、発射に先立って目標を捕捉追尾して、必要な情報をミサイルに送り込んでから発射することが肝要となる。そこで、クズルエルマはアセルサン製のAESA(Active Electronically Scanned Array。いわゆるアクティブ・フェーズド・アレイ)レーダー・MURADを搭載している。

MURAD-110Aレーダーのブローシャを見ると、F-16の機首に搭載した模様が描かれている。具体的な数字は何も公にされていないが、このことだけでも多少のイメージはつかめる。

この手の無人戦闘用機に搭載することを想定したレーダーというと、以前に連載「軍事とIT」で取り上げた、RTX社レイセオン部門製のファントム・ストライクがある。最新の窒化ガリウムパワー半導体素子を送受信モジュールに使用するフェーズド・アレイ・レーダーで、小型軽量かつ空冷という特徴がある。

一方、MURADが送受信モジュールに何を使用しているか、空冷なのか水冷なのかといったことは分からないが、F-16への搭載を念頭に置いているのであれば、相応にハイエンド寄りの製品かも知れない。それを「撃ち落とされても諦めがつく」はずの無人戦闘用機に載せることの費用対効果はどうなんだ、という疑問はある。

気になるのは離着陸性能

クズルエルマは、トルコ海軍の空母型揚陸艦アナドルに搭載する予定だと伝えられている。それなりに大形の艦ではあるが、スキージャンプこそ備えているものの、カタパルトも着艦拘束装置もない。

そこでジェット・エンジンを搭載する本格的な無人戦闘用機であるクズルエルマを、どうやって発着艦させるつもりなのかが、ずっと気になっている。F-35Bみたいにリフトファンや推力偏向装置を備えているわけではなさそうであるし、殊更にSTOL(Short Take-Off and Landing)能力を重視した設計になっているようにも見えない。

F-35計画から追い出されたトルコにとって、アナドルに載せるジェット戦闘機の手駒がないのは事実で、そこから「それならクズルエルマを載せよう」という話になったのだと思われる。ただ、短距離滑走発艦はまだいいとしても、着艦をどうするつもりなのか。片道切符と割り切るには、値が張る機体と思えるのだが。

ロシアにも似たような話が

クズルエルマの話とは別件になるが、ロシアがイラン製のシャヒド136自爆無人機にヴィンペルR-60空対空ミサイル(いわゆるAA-8アフィド)を搭載している、との情報が出てきている。

  • これがR-60空対空ミサイル。寸詰まりにしたサイドワインダーという趣がある。射程は5kmとされている 撮影:井上孝司

    これがR-60空対空ミサイル。寸詰まりにしたサイドワインダーという趣がある。射程は5kmとされている 撮影:井上孝司

このミサイルは比較的小型の格闘戦用空対空ミサイルで、赤外線誘導だ。だから母機がレーダーで目標を捕捉する必然性はなくて、ミサイルのシーカーが敵機を捉えられれば、後は撃つだけで勝手に飛んで行く。

ただ、どう見てもお値段重視で高度なメカを備えているとは思えないシャヒド136に、敵機を捉えて“尻を取る”積極的な空戦を挑みかける能力があるとは思えない。前方から敵機がやって来たときにR-60を撃って追い払い、命中してくれればめっけもの、ぐらいのつもりであろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。