今回も前回の続きで、F-22ラプターを用いて無人戦闘用機・CCA(Collaborative Combat Aircraft)を遠隔管制する話を取り上げる。ちょうど少し前に、関連する実証試験に関するプレスリリースや動画が出てきたのは幸いだった。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

LM、GA-ASI、L3の共同作業

ロッキード・マーティン(LM)は2025年11月17日に、F-22を用いたCCA遠隔管制の実証試験を行った件について発表した。これは、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)ならびにL3ハリス・テクノロジーズと組んで実施したものだ。

ロッキード・マーティンはいうまでもなく、有人機側すなわちF-22の開発・製造元である。一方、GA-ASIは遠隔管制の対象となったMQ-20アヴェンジャー無人機の開発・製造元である。

ではL3ハリスはというと、遠隔管制の際に使用した通信機材を担当した。同社はL3コミュニケーションズ、ハリス、ITTなどのメーカーが合併してできた会社だが、このうちハリスもITTも通信機器で著名だった。だからL3ハリス・テクノロジーズも当然、通信機器には強い(DSEI Japanでお話を伺った同社の方も、「うちは通信機器のスペシャリストだ」と話していた)。

そこで具体的なことを書くと、F-22とアヴェンジャーの双方に、L3ハリス製のソフトウェア無線機(SDR : Software Defined Radio)・パンテーラを搭載して、BANSHEE ATDL(Advanced Tactical Datalinks)と呼ばれるデータリンクを構築した。

そしてF-22のコックピットには、PVI(Pilot Vehicle Interface)タブレットを搭載した。これをBANSHEE ATDLに接続すれば、F-22のパイロットはアヴェンジャーの遠隔管制ができる。

  • F-22からMQ-20を遠隔管制するイメージ。(ロッキード・マーティンがリリースした動画からキャプチャ)

    F-22からMQ-20を遠隔管制するイメージ。(ロッキード・マーティンがリリースした動画からキャプチャ)

具体的な画面の内容は?

この実証試験に関する発表に併せて、動画もリリースされた。もちろん、一般向けに当たり障りのない、機微事項に触れない内容のものを用意したのは容易に想像できるが、「こんな風に操るのか」というイメージを把握する程度の役には立つだろう。ということで、その動画を基にして話を進める。

タブレットの画面は縦長で、上半分にはF-22を中心とする同心円が描かれており、そこに管制対象となるアヴェンジャーのアイコンが表示される。これを見ることで、F-22の操縦士は自機とアヴェンジャーの位置関係を把握できる。速力や高度も表示されている。

その下に「MENU」という項目があり、「AUTO PILOT」「ROUTE」「STAT」「TACT」「CMD & CTRL」「OP」「IRSA」「SUBSYS」「CONFIG」といった項目が並んでいる。このことから分かるように、遠隔管制といっても、アヴェンジャーの操縦を遠隔で行う内容ではない。

そこで例えば、「CMD & CTRL」(Command and Controlの略なのは容易に推察できる)をタップすると、アヴェンジャーを側面から見た画と、機体の座標(coordinate)、燃料残量(パーセント表示)、割り当てた任務といった項目を表示する。また、その下に「SUBSYS」「ROUTE」「STAT」「TACT」「OP」といった項目が並んでいる。

別のシーンでは、同心円表示をタップして、アヴェンジャーに対して目標を指示しているように見える。このとき、下のメニュー一覧には「CANCEL ACTION」「CANCEL ALL」「SEND ACTION >」といった項目が並ぶほか、アヴェンジャーに対して指示したアクションの名称「Find Search」と、そのアクションの識別番号(UUID)も表示している。

この画面内容からすると、アヴェンジャーに対して「ここに行ってターゲットを探せ」と指示しているように見える。もちろん、状況が変わったら、その指示をキャンセルすることもできるわけである。

  • F-22の操縦士が操作するPVIのイメージ映像例(ロッキード・マーティンがリリースした動画からキャプチャ)

    F-22の操縦士が操作するPVIのイメージ映像例(ロッキード・マーティンがリリースした動画からキャプチャ)

前回に書いた通りの内容だった

つまり、前回に書いた、「『いつ、どこに行って何をやれ』と指示したら、後は機体の側で自律的に判断・制御して飛んで行き、いわれた通りの仕事をする。そんな形になると予想される」と同じことを、F-22の操縦士がPVIタブレットを通じて実行している様子を描いた動画が出てきた次第。

繰り返しになるが、自機の操縦や戦闘任務も行わなければならないF-22の操縦士が、随伴するアヴェンジャー無人機の「お守り」に専念することはできない。シンプルに「ここに行って何をしろ」と指示するだけで済むようにしなければ、仕事にならない。

もっとも、今回の件はあくまで一つの実証試験であり、これからF-22に導入するPVIタブレットが、今回の試験で使用したものと同内容になるかどうかは分からない。

とはいえ、「アクションと行先を指示するだけ」という基本的な考え方は、まず変化はないと見てよいのではないか。そこを複雑化すれば、F-22の操縦士が過負荷になる。

それに、小さなタブレットの画面に多数のメニュー項目を詰め込んでしまったら、視認性も操作性も悪化するし、ミスタップの可能性が高くなってしまう。実は、どういう機能を持たせるかだけでなく、どういうマン・マシン・インターフェイスを構成するかも、重要なポイントである。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。