米空軍の2026会計年度予算要求に、“Crewed Platform Integration” という項目がある。その内容は、タブレットPCと関連する電気配線などを142機分。導入対象はF-22Aラプター。これは、開発中の無人戦闘用機・CCA(Collaborative Combat Aircraft)を遠隔管制するためのものだと説明されている。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • F-22Aラプターに、CCA管制システムを追加搭載する計画がある 撮影:井上孝司

    F-22Aラプターに、CCA管制システムを追加搭載する計画がある 撮影:井上孝司

CCAの候補は2機種

肝心のCCAの方は、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)のYFQ-42Aと、アンドゥリル・インダストリーズのYFQ-44Aが開発中。これらを有人の戦闘機と組ませて、有人機を突っ込ませるには危険性が高い任務を引き受けさせようという考えになる。

  • CCAの想像図。手前がGA-ASIのYFQ-42A、奥がアンドゥリルのYFQ-44A 引用 : USAF

    CCAの想像図。手前がGA-ASIのYFQ-42A、奥がアンドゥリルのYFQ-44A 引用 : USAF

もちろん、どちらの機体も飛行制御コンピュータを持ち、そこで人工知能(AI : Artificial Intelligence)を活用することで、許容される範囲内で高い自律性を持たせようとしている。

そもそも論として、戦闘用の機体を一から十まで遠隔操縦・遠隔管制するのでは、操縦・管制する側がオーバーワークになってしまう。大形の多発機に専従の要員を乗せるならまだしも、単座戦闘機の搭乗員が自機を操縦しながら、さらに無人機を操縦・管制するのは現実的ではない。

それに、敵対的環境の下で運用する機体だから、常に確実に無線リンクを確立して、遠隔操縦・遠隔管制できるとは限らない。敵が仕掛けてくる電子戦などが原因で通信途絶することになっても、無人戦闘用機の側は自律的に状況を判断して、付与された任務を継続できるようになっていないと仕事にならない。

管制にはタブレットPCを使用する構想

その、F-22Aを対象とする“Crewed Platform Integration”改修では、冒頭でも触れたように、タブレットPCを新たに載せる。既存のミッション・アビオニクスを改造するのでは開発リスクが増えるし、経費もかかる。

既存のミッション・アビオニクスは、できるだけいじらずに済ませて、CCAの管制機能だけ追加できれば良いということなら、専用のハードウェアを足す方が無難であるし、おそらくは経費も安い。

要求されている予算は、タブレットPCや電気配線・142機分で1,220万ドルというから、1機当たり86,218ドル。個人の金銭感覚からすると十分に値が張るが、戦闘機の価格からすれば端金といって差し支えない。

MQ-1プレデターやMQ-9リーパーみたいに、武装して戦闘任務に従事する無人機はすでにいろいろあるが、基本的にはオペレーターが地上でつききりになって面倒をみている。操縦のやり方は有人機と同じで、サイドスティックとスロットル・レバーとラダーペダルを使う。

  • GA-ASIのGCS。ディスプレイの数が多いのは相違点だが、有人機のコックピットと同様の操縦装置があるのが分かる 撮影:井上孝司

    GA-ASIのGCS。ディスプレイの数が多いのは相違点だが、有人機のコックピットと同様の操縦装置があるのが分かる 撮影:井上孝司

それと違ってCCAは自律性を備える機体になるから、「いつ、どこに行って何をやれ」と指示したら、後は機体の側で自律的に判断・制御して飛んで行き、いわれた通りの仕事をする。そんな形になるし、そうでなければ実用にならない。

すると、管制用の機材に求められる機能も、それに合わせたものになる。機体の操縦翼面を動かす指示を出すのでなければ、(MQ-1やMQ-9の管制ステーションがそうなっているように)操縦桿やラダーペダルを用意する必要はない。

しかるべき機能を備えたソフトウェアが走って、地図画面で目的地や経由ルートを指示できて、時間や任務の内容を選択・指示する機能があれば、基本的には用が足りるだろう。それなら、タブレットPCで済むと考えても、何の不思議もない。

ただ、飛行機の機内で使用するものであるから、電磁波干渉などによって既存のアビオニクスに“わるさ”をしないこと。そして、F-22AとCCAを結ぶデータリンクの機器が必要になるが、それとインタフェースできること。そういうハードウェア要件は求められよう。

市販品のタブレットPCを流用できれば安上がりかつ入手性が良いが、そういうところの検証は行わなければならない。民航の分野では、すでに客室乗務員が機内でiPadを活用する場面をチョイチョイ見かけるが、それと同じように、戦闘機の搭乗員がタブレットを持って乗り込むことになるやもしれない。

タッチスクリーンが最善の選択か?

ただし米空軍とその周囲では、CCAを遠隔管制する場面においてタブレットPCとタッチパネルが最善の選択肢なのか、という議論も出ているという。もっともお手軽かつ安価で、迅速に導入できるソリューションであるのは確かだが、それだけに拘泥する必要はない、とはいえる。

もっとも現時点では、「戦闘機のパイロットが頭の中で考えたことを、そのままCCAの機上コンピュータに送り込んで戦わせる」なんていう、映画『ファイヤーフォックス』みたいな話になると、さすがに現実的とはいいがたい。音声認識ぐらいなら、用途によっては使えそうだが。

そもそも、CCAそのものが新手の、まだ模索・追求しなければならないことが多いカテゴリーだから、CCA側の自律制御にしても、それを戦わせるための遠隔管制の側も、最適解を求めていろいろな試みが行われることになると思われる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。