今回のお題は、「無人戦闘用機」と聞くと真っ先に想起されそうな、いわゆる「無人戦闘機」。「無人戦闘用機」と「無人戦闘機」で何が違うのかと訊かれそうだが、「無人戦闘機」はいわゆるジェット戦闘機をそのまま無人にしたイメージ、「無人戦闘用機」は戦闘任務に用いる無人機全般、というのが本稿での定義。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

UCAVは単独行動から随伴運用に

無人戦闘機(UCAV : Unmanned Combat Aerial Vehicle)という言葉自体は、けっこう古くからある。しかし、いろいろ実証機が試作されたものの、実用になった機体はごくわずか。当初に考えられていたのは、有人の戦闘機と同様に、単独で発進して戦闘任務に従事する形であったようだ。

このUCAV分野に改めて光が当たったきっかけは、2019年の初めにボーイング・ディフェンス・オーストラリアが発表したBATS(Boeing Airpower Teaming System)ではないかと思われる。“忠実な僚機” (loyal wingman)という言葉が広く人口に膾炙されるようになったのも、このBATSが出てきてからだ。

なお、このBATSは2022年に、MQ-28ゴースト・バットという名前がつけられており、現在も開発が続いている。同種の機体として、アメリカのクラトス・ディフェンス&セキュリティ・ソリューションズ製XQ-58Aや、実用機の実現を企図した米空軍のCCA(Collaborative Combat Aircraft)計画などがある。

  • CCA計画の立ち上げに先立ち、実機を飛ばしてさまざまな試験に用いられたクラトスXQ-58A Photo : USAF

    CCA計画の立ち上げに先立ち、実機を飛ばしてさまざまな試験に用いられたクラトスXQ-58A Photo : USAF

CCA計画については、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ製のギャンビット(YFQ-42A)と、アンドゥリル製のフューリー(YFQ-44A)の2機種が開発・試験の段階にある。Yは「原型機」を意味する接頭符で、「F」は戦闘用、「Q」は無人を意味する。

  • GA-ASIが開発しているCCA、YFQ-42Aの初飛行 Photo : USAF

    GA-ASIが開発しているCCA、YFQ-42Aの初飛行 Photo : USAF

  • こちらはアンドゥリルが開発しているCCA、YFQ-44A Photo : USAF

    こちらはアンドゥリルが開発しているCCA、YFQ-44A Photo : USAF

他国でも同種の話はあり、例えばヨーロッパのエアバスでは、この種の機体のことをRC(Remote Carrier)と呼んでいる。我が国でも研究開発が行われているのは御存じの通り。

“忠実な僚機” の特徴とは

その “忠実な僚機” の特徴は、「有人戦闘機に随伴して、一部の任務を引き受ける」という考えが明確になったこと。有人機と同様に、離陸~巡航~交戦~巡航~着陸と、エンド=エンドで自律的に任務をこなすというよりも、「有人戦闘機に随伴して進出した上で、有人機を送り込むにはリスクが大きい場面で任務を引き受ける」という話になるようだ。

すると、有人戦闘機に随伴して飛べなければ仕事にならないので、必然的にジェット機になる。また、超音速まで行かないにしても、音速に近い速力は発揮できないと仕事にならない。この速度性能や機動性の話については、機体のコストや生産性にも関わる重要な問題になるので、回を改めて取り上げてみたい。

また、有人の戦闘機を送り込まずに済ませたくなるような危険な場所で任務を遂行させる前提なので、生残性も考慮しなければならない。その生残性の観点に加えて、敵の状況認識を妨げて任務遂行につなげる観点からいっても、被探知性を引き下げる必要がある。よって、対レーダー・ステルスを念頭に置いた設計になる。

無人だから、大きなレーダー電波反射源になりがちなコックピットとキャノピーを省略できるのはメリットだが、それだけでステルス機になるわけでもない。やはり、凸凹をなくすとか、前縁・後縁・側面の角度統一を図るとかいう「ステルス機の公式」に則る必要はある。

AIの活用は不可避

他の分野と比較すると高い自律性が求められるのが、この分野である。周囲の状況を認識して、機体を操りながら兵装を準備して撃ち込むプロセスを、すべて遠隔操縦で実現するのは現実的ではない。コックピットにカメラを設置して、その映像を見ながら操縦するというわけにも行かない。

以前なら「遠隔操縦が無理なら、発進前に任務内容をプログラムしておこう」という話になったと思われる。実現可能性は高くなるが、蓋を開けてみないと分からないのが戦場というもの。想定と違う状況になった途端に二進も三進もいかなくなるのでは困る。

よって、機体の制御に人工知能(AI : Artificial Intelligence)を活用しようという話も出てくる。つまり、戦闘機の搭乗員が「どんな状況で、どんな考えをして、どんな行動をとるか」をAIに学習させる。そして任務飛行では、AIは周囲の状況や、指示された任務の内容あるいはターゲットのことを考慮しつつ、どう行動するかを自律的に決める。

おおまかな方針は事前にプログラムしておくとしても、その場その場の状況判断と意思決定ではAIが介在して自律的に動くという形である。「ここまで飛んで行って、そこにある○○をつぶしてこい」と指示して送り出したら、後はAIがなんとかしてくれる。そこまでできれば理想的。

このAIの話も大事なところなので、後で回を改めて、もう少し突っ込んで取り上げてみたい。

また、AIによる自律性の向上が不可欠であるにしても、そこでいかにして人間がAIのストッパー役を務めるか、が課題となろう。ただ、この辺の話になると、もろに「軍事とIT」の領域になるので、本連載では割愛して、そこまでは掘り下げないことにする。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。