今回は、戦闘任務に使われる無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)の中でも最もポピュラーかつ実績がある、ISR(Intelligence, Surveillance, and Reconnaissance、情報収集・監視・偵察)用の機体を武装化した事例について取り上げる。MQ-1プレデターや、MQ-9リーパーみたいな機体、と考えていただければ理解しやすい。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • MQ-9リーパー。主翼の下面に兵装パイロンとミサイル発射レールを取り付けている様子が分かる 撮影:井上孝司

    MQ-9リーパー。主翼の下面に兵装パイロンとミサイル発射レールを取り付けている様子が分かる 撮影:井上孝司

主翼のどのあたりに兵装パイロンを設けるか

MQ-9を見ると、左右の翼下にパイロンを設けて、そこに兵装を吊るすようにしている。

なにしろ細長い主翼だから、飛行中は上に向けて反り返るが、ボーイング787ほど顕著に反るわけではないようだ。とはいえ、相応の荷重はかかっているはず。そこで主翼に重量物を吊るすと、逆向きの荷重がかかることになる。

それをうまく利用したのが、主翼にパイロンでエンジンを吊るす方法。主翼にエンジンを吊るすと、主翼の上方への反り返りを抑制する効果を期待できる。それはエンジンだけでなく兵装でも同じだが、ひとつ決定的な違いがある。

エンジンはずっと取り付けたまま。ところが、兵装は目的地に行ったら投下してしまうから、主翼のたわみを抑制するための荷重がなくなる。すると、エンジンを吊るす場合と違って、何も吊るしていない「素の状態」で問題なく機能して、耐久性を発揮できるように設計する必要がある。

そのためか、MQ-9を見ると兵装パイロンの位置は主翼全体の中で内舷に寄せてある。つまり機体の中心線に近い位置にあり、兵装の有無に起因する曲げモーメントの変化を少なくする方向で考えているようにも見える。

他の武装UAVについても、主翼のどのあたりに兵装ステーションを設置しているかを観察すると、面白いかもしれない。

例えば、バイラクタルTB2。左右の主翼から後方にブームを伸ばして逆V型の尾翼につなげているが、そのブームのすぐ外側に兵装ステーションがある。これなら、兵装の有無に起因する曲げモーメントの変化は少なくて済みそうだ。

RQ-1→MQ-1の場合

MQ-9やバイラクタルTB2みたいに、最初から武装化する前提で企画した機体であれば、主翼の下面などに兵装パイロンを設けて、そこから兵装を投下あるいは発射する前提で設計できる。

しかし、すでにある非武装のISR用UAVを後から武装化するとなった場合には、事情が違う。兵装を搭載する前提では設計されていない。

兵装を搭載すれば、機体構造にかかる荷重に違いが生じるが、それでも問題はないか。兵装を搭載して重量が増えても問題なく飛べるかどうか。兵装の有無によって重心位置が変動しても問題ないか、兵装を発射するときに、機体やセンサー機材に「わるさ」をしないか。

  • こちらはMQ-1プレデター。翼下の胴体に近い位置に兵装パイロンを設けて、ヘルファイアを吊るしている 撮影:井上孝司

    こちらはMQ-1プレデター。翼下の胴体に近い位置に兵装パイロンを設けて、ヘルファイアを吊るしている 撮影:井上孝司

プレデターにヘルファイアを搭載するアイデアが出たときに、まず「ミサイルから後方に噴出する排気炎」が問題になると考えられた。もちろん排気炎は高温だから、繊維強化樹脂で造られた機体構造に悪影響が及ぶ可能性がないか、というわけだ。幸い、問題ないという結論が出たのだが。

また、飛んでいる機体からミサイルを発射すれば、重量物が急にいなくなることで重心位置が変化する可能性があるし、空力的な変化も生じる。それに、発射したミサイル自体も空気を押しのけて飛ぶわけだから、なにかしらの空力的な影響を起こす可能性がある。そうした影響についても検討して、実際に試して確認する必要があった。

ここまでは機体に関わる話だが、機首の下面に取り付けられたセンサー・ターレットに対しても、主翼の下面から撃ち出すミサイルの排気炎が「わるさ」をする可能性がある。実際、プレデターではターゲットの捕捉と照準に使用する電子光学/赤外線センサーが影響を受けると分かり、手直しが必要になった。

もっとも、これは兵装の搭載位置とセンサーの搭載位置に関わる問題だから、機体の設計とも無関係な話ではないけれど。

INF全廃条約という横槍

ここまでは技術的な話だが、別のところから横槍が入ったのが、この「無人機武装化」案件の面白いところ。それが、米ソ間で1987年に締結していた中距離核戦力全廃条約(Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty)。米空軍で、RQ-1プレデターを武装化する話が出たときに、これが問題になった。

というのは、この条約では問題の中距離核戦力(INF)のうち、地上発射の巡航ミサイルについて「飛行経路の大半にわたって揚力を使用して飛行する、無人の自動推進航空機、および兵装搭載航空機」と規定していたから。本来、陸上発射型トマホーク巡航ミサイルみたいなものを想定した条項だが、これが武装した無人機にも適用されるかどうかが問題になった。

これは結局、「プレデターは単なる運び屋で、ミサイルそのものではない。弾頭も付いていない」という理由で条約違反にならないという結論になった。条約違反かどうかを判断するのは技術者ではなく法律の専門家だが、ちょっと嫌味な書き方をすると、そこでどういう理屈をこねられるかが問われたといえるかもしれない。

この件に限らず、さまざまな分野で「技術的には可能だが、法的には問題がある、あるいは問題がありそう」という話は存在するだろう。新たに生み出される製品やサービスは、必然的に社会との関わりを持つことになる。だから、技術的に実現可能というだけでは話が進まない事態は、よくある。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。