米海兵隊は以前にアフガニスタンで、カマンK-Maxという交差反転ローター付きヘリコプターを無人化して、物資輸送に試用したことがあった。アフガニスタンから撤収した後で沙汰止みになったかと思ったら、さにあらず。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • 米海兵隊が無人化して空輸で試用したことがある、カマンK-Max 引用:USMC

Aerial Logistics Connector計画

その米海兵隊は現在、Aerial Logistics Connectorという計画を進めている。この場合の Connector は、電線を接続する器具のことではなくて、二つの拠点を結ぶ輸送手段という意味。米海軍が新型エアクッション揚陸艇の計画をSSC(Ship to Shore Connector)と名付けたのと同じ用法。

そして Aerial Logistics Connector 計画では、後方の補給拠点と前線部隊の間で無人ヘリコプターを飛ばして、各種物資を空輸しようと考えている。普通ならトラックや輸送艇を使用するところだろうが、陸上で輸送車両隊が襲われる事態はアフガニスタンやイラクで多発した。また、船舶による海上輸送は時間がかかる。

米海兵隊が新たに掲げたEABO(Expeditionary Advanced Base Operations)という作戦概念では、敵勢力圏内にある島嶼に小規模な部隊を送り込んで、地対空ミサイルや地対艦ミサイルを用いて敵軍の動きを掣肘しようとしている。その「スタンドイン・フォース」のところに急いで物資を送り届けようとすれば、無人ヘリコプターは有力な手段となり得る。

なにせ小規模な島嶼では港湾施設が整っていることを期待できないし、フネでは時間がかかる上に、攻撃も受けやすい。陸続きではないから、トラック輸送は物理的に無理。飛行場がなければ固定翼の輸送機は使えない。有人のヘリコプターでは撃ち落された時の人命の損耗が問題になる。

となると消去法で、無人ヘリという選択肢が残る。

MATRIX自律制御システム

そこで登場するのが、既存の有人ヘリコプターを無人化する自律制御システム。

米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)は2014年4月に、ALIAS(Aircrew Labor In-cockpit Automation System)計画を立ち上げた。本来の狙いは搭乗員のワークロード軽減だが、そのために自律制御を実現すれば、それは有人機を無人化する場面でも使える。

そしてシコルスキーは、ALIAS計画の下でMATRIXという自律飛行制御システムを開発した。中核となるコンピュータが、機体の飛行状況やプログラムされた飛行計画に基づいて指令を出して、操縦系統を動かす仕組み。

MATRIXシステムは、最近だと2022年2月にケンタッキー州のフォート・キャンベルで、二度の実証飛行試験を実施している。使用した機体はS-70(UH-60A) "N60-OPV"。飛行時間は30分で、飛行前のチェックに始まり、離陸した後は市街地での飛行を想定して、建物などの障害物を検知・回避しながら飛んだ。ただし着陸後のタキシングだけは有人モードで実施したとのこと。

シコルスキーは2024年10月に米陸軍から、このMATRIXシステムを用いてUH-60ブラックホークを無人化する契約を受注した。続いて米海兵隊も、MATRIXシステムで無人化したUH-60を飛ばしてデータを収集、それをAerial Logistics Connector 計画で活用しようと企てた。

ただし米海兵隊の場合、UH-60による飛行試験はあくまでデータ収集が目的で、本番ではもっと小型の機体を使うつもりのようだ。それがUH-72Aラコタ、エアバス・ヘリコプターズ製EC145(現名称H145)の米軍向け派生型である。

  • 米陸軍が運用中のUH-72Aラコタ 写真:US Army

2024年5月に契約を受注して、同年10月にノースカロライナ州のニューリバー海兵航空基地とキャンプ・レジューンで、実証試験を実施している。この、UH-72Aから派生する無人輸送ヘリは、UH-72 Logistics Connector という名称になるようだ。

UH-72Aは空虚重量1,792kg(3,950lb)、最大離陸重量3,585kg(7,903lb)。それに対してUH-60Lは空虚重量4,819kg(10,624lb)、最大離陸重量10,660kg(23,500lb)と、機体規模や搭載能力にはだいぶ差がある。しかし、大量に輸送する能力よりも、安価に入手できて、減耗しても懐が痛む度合が少なく、お手軽に使えるという意味では、UH-72Aにメリットがある。

これは筆者が常々主張していることだが、無人機の最大のメリットは人命の損耗を考えなくても済むこと。すると墜とされても諦めがつくことが重要であり、そのためには安さも性能のうちである。

それに、H145なら民間型がたくさん使われているから、パーツ供給の面で不安がない。すると可動率を高く維持するにも都合がよい。極端な話、民間で余剰になった中古のH145を買ってきて無人化改造、それを使い捨て覚悟で貨物輸送に投入したって良いのである。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。