航空宇宙・防衛の分野は頭文字略語の洪水だが、今回は見出しから頭文字略語をいくつも並べてしまった。今回も、「2024国際航空宇宙展」(JA2024)の会場で取材して、拾ってきた話を基にして書いてみる。前回にデジタル・エンジニアリングの話を取り上げたので、それと関連する話題を。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照。
系統的な故障の予測までカバーする「FMEA」
航空機に限らず、さまざまな工業製品で出てくる話だが、FMEA(Failure Mode and Effects Analysis:故障モード影響解析)という手法がある。
これは、コンポーネントやサブシステムにおいて発生が予想されるさまざまな故障の原因をリストアップするとともに、それがもたらす影響を洗い出す手法。
故障モード(failure mode)とは、故障(機能障害)を引き起こす不具合を分類したもの。例えばギアボックスであれば、内部に組み込まれたシャフトや歯車にクラックが入ったり、破壊したりといった状態が考えられる。電気系統であれば、配線の断線やショート、部品の焼損などといった状態が考えられる。コンピュータであれば、ハードウェア的な損傷だけでなく、ソフトウェアのバグ、動作不全も考えられる。
こうした故障モードから、実際の故障に至るまでの仕組みをたどることで、系統的な故障の予測が可能になる。今なら、頭の中であれこれ検討するだけでなく、コンピュータによるモデリングやシミュレーションも活用できるのではないか。
可動率(availability)を低下させる一因として、機器の故障やコンポーネントの破損がある。それなら、機体を構成する個々のコンポーネントやサブシステムについて、考えられる故障モードを洗い出した上で、それがどんな故障を引き起こす可能性につながるかを考えなければならない。また、故障が発生する確率や、実際に発生した頻度、といった話も出てくるだろう。
AIを活用する「FMECA」とは
こうしたプロセスは、当初の開発・設計段階だけでなく、運用に入った後でも必要になることがある。例えば、航空機を飛ばしている組織(エアラインや空軍など)が、手持ちの航空機の可用性を維持する、あるいは高めようとした場合。
すると、過去の運用実績・整備実績をはじめとするさまざまなデータを取り込み、洞察する機能が求められる。発生し得るイベントの予測まで可能になれば、先回りして対応することで機体のダウンを予防できるかもしれない。
さらに、発生した事象に関する優先順位付けも必要になる。同じ「故障しました」「壊れました」でも、それがどの程度まで致命的な影響をもたらすかは、対象部位によって異なる。致命的な結果につながる故障や破損ほど、早く対処しなければならない。
ただ、それを人手で行っていたのでは大変な手間がかかってしまう。そこで、人工知能(AI : Artificial Intelligence)を援用する仕組みも出てきている。そこで出てくる言葉がFMECA(Failure Mode and Effects and Criticality Analysis、故障モード影響・重要性解析)。例えばIFSの産業用AIが、FMECAの解析機能を提供している。
ここでは、冒頭で書いたFEMAに加えて、Criticality、つまり「どれぐらい影響が大きい故障か」という要素が入ってくる。その要素を加えることで、優先順位付けの判断に必要な材料を得る。その判断ができれば、より致命的な、影響が大きい故障から直していくことができると期待できる。
サブシステムやコンポーネント相互間の影響
ここまではコンポーネントやサブシステム単体の話だが、実際には、それだけでは済まない。さまざまなコンポーネントやサブシステムを組み合わせて、航空機というひとつのシステムを構成しているからだ。
すると、コンポーネントやサブシステム・相互間の関連性や影響、という話が出てくる。あるコンポーネントが何らかの故障モードによって壊れたら、それが他のコンポーネントにどう影響するか。あるサブシステムが何らかの故障モードによって機能不全を引き起こしたら、関連する他のサブシステムにどんな影響をもたらすか。
そういう話が出てくると、モデルベースのシステム工学(MBSE : Model-Based Systems Engineering)が絡んでくる。MBSEでは、一つのシステム、例えば航空機を構成する複数のサブシステムやコンポーネントについて、相互間の影響・関わりを明確化するからだ。
開発の段階では、そうした情報はシステム開発を効率的に、かつ確実に進めるために活用される。しかしそれだけでなく、故障とその影響を予察する場面でも、システムを構成するサブシステムやコンポーネント同士の関連性・相互の影響といった話が出てくるはず。
すると、故障の予察を通じて、より信頼性が高い機体を実現する過程でも、MBSEは役に立つんじゃないか、との考えに至る。
そして「型式証明を出すためには、こういう安全性に関わる要件を満たしていなければならないが、それについてはどうなっているのかね」と訊かれたときに「ここがこう壊れたときには、こんな風に影響が及びますが、それに対してはこういう手を打ってあります」と説明するようなこともしやすくなるのではないか。
前回、ダッソー・システムズの話を取り上げたときに、型式証明の申請に言及した。それは、こういう事情が背景にあるからだ。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。