これまで、航空機のメンテナンスに関わる話をいろいろ取り上げてきたが、日常的に実施する整備・点検以外の作業が発生することもある。その一つが、部分的に壊れた機体の修理。もちろん、全損したらお払い箱にするしかないのだが。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

機体の修理は意外と多い

エンジンや電子機器であれば、壊れたものは新品に交換すれば済む。では、機体構造はどうか。一部が壊れただけでお払い箱というのも不経済な話で、修理して問題なく使えるのであれば、それに越したことはない。実際、事故などで部分的に壊れた機体を修理して使い続けている事例は、案外とある。

例えば、燃料の計算を間違えて飛行中にガス欠になったエア・カナダのボーイング767-200(登録記号C-GAUN)。不時着の際に首脚が畳まれた状態になってしまい、機首の下面を滑走路でこすりながら停止したから、当然ながらその部分が損傷した。しかし、後で修理を受けて運航に戻り、寿命をまっとうした。(その後に解体されて発生した “切り身” のひとかけらが商品として売りに出されて、筆者の手元にある)。

  • ボーイング767「ギムリー・グライダー」の切り身 撮影:井上孝司

また、地上で車両や他の機体と接触したとか、落雷に遭ったとか、素材や運用環境に問題があって壊れたりクラックが入ったりしたとかいう具合に、機体構造の修理を必要とする場面がある。これが軍用機になると、ミサイルや対空砲で撃たれて損傷した、なんていう話も出てくる。

もちろん、修理した部分で強度や耐久性が不足してはならない。強度や耐久性が不足した機体など、安心して飛ばせたものではないからだ。だから、メーカーは機体の損傷状態評価や修理についても、マニュアルを用意している。いわゆる構造修理基準(SRM : Structural Repair Manual)である。

修理して飛ばし続けるのはいいが、不適切な修理を行えば、それが原因で新たな事故の元になる。そのことは、我が国では広く認識されているところである。

金属製の機体構造を修理する

金属製の飛行機において、機体構造の構成要素を大きく分けると「フレーム」と「外板」となる。

外板に穴が開いてしまったときに、同じ素材の板を用意して穴が開いた部位を覆うようにリベット止めして、いわば「ツギ当て」を行う事例がある。昔の戦闘機は武装が機関銃や機関砲だったから、撃たれた機体は外板に穴が開く。そんなときに、この方法で修理していたそうだ。

フレームについても似たような話がある。クラックが入ってしまったときに、その部位をカバーするように当て板を用意して、リベットで取り付けて固定する。また、米空軍のF-16で行われたように、主翼付け根付近の機体構造材にクラックが発生したため、主翼付け根の上面に当て板を追加して補強した事例もある。

  • 米空軍のF-16。塗装の関係で見づらいが、主翼付根の上面に当て板が追加されている様子が見て取れる 写真:USAF

このほか、外板を構成するパネルが損傷したり、2つの素材を貼り合わせたラミネート構造のパネルが剥離を起こしたりした場面で、パネル単位で総取り替えを行う事例もある。

もっと大がかりな話になると、米海軍のF/A-18ホーネットで行われたように、中央部胴体の機体構造をまるごと新造して取り替える事例もある。P-3CやA-10など、主翼交換の事例もある。

変わったところでは、空中接触で損傷した機体を修理するのに、他所の国で用途廃止になった同型機を買ってきて、損傷した部位の機体構造を、買ってきた用廃機のものに取り替えた「ニコイチ修理」の事例もある。

その一例がフィンランド空軍のF/A-18Cだが、カナダから買い付けた中古の用廃機は複座型のF/A-18Dだった。その前部胴体を使ったため、ニコイチ修理のついでに単座型が複座型に化けた。そしてこの機体は、フランケンシュタインにひっかけて「フランケンホーネット」という渾名がついた。

複合材料製の機体構造を修理する

金属製の機体ではフレームを組んで外板を張る構造が基本だから、そのいずれかを修理する形になる。

ところが複合材料製になると、いささか事情が異なる。航空機の分野でポピュラーな複合材料といえば繊維強化樹脂だが、「繊維」の部分と「それを固める樹脂」の部分が一体になっていて、単純なムクの素材とはいいがたい。

炭素繊維強化樹脂(CFRP : Carbon Fiber Reinforced Plastics)はポピュラーな素材だが、強度のキモとなるのは炭素繊維の部分で、しかもその繊維を織物にしたときの配列や重なり方が問題になる。だから、オリジナルの状態を損なわないように修理しないと、強度不足の機体ができてしまう。

ではどのように修理するかという話になるが、外部に露出していない部位であれば、金属製と同様に当て板をリベット止めする手法がある。

また、複合材料製の板に損傷があった場合、損傷部位をすり鉢状に削り、そこに別の複合材料で製造した円錐形の修理用部材を嵌めて硬化、最終的に一体のものとする手法もある。ただし、ある程度の厚みを持つ部材でなければ、そもそもすり鉢状に削るのは難しい。

複合材料の一枚板ならまだしも、二枚の板でハニカム構造をサンドイッチした構造になると、両面の板だけでなく、サンドイッチしたハニカム構造も問題になる。これも強度を発揮する構造の一部だからで、ハニカム構造が歪んだりつぶれたりした状態では、所定の強度は発揮し得ない。

すると、ハニカム・サンドイッチ構造のパネルが損傷したときには、損傷部位の外板だけでなくハニカムコアの部分も切り取り、新しいコアを入れてから接着剤で固める必要がある。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第2弾『F-35とステルス技術』が刊行された。