客室にしろ貨物室にしろ、人や貨物が出入りするためには開口部が必要である。しかし、開口部が開いたままで飛ぶことはできないから、扉を閉める。今回は、その扉をめぐるあれこれについて。

旅客機の客室扉

鉄道車両では引戸が一般的だが、旅客機の客室扉は開戸が一般的だ。ただし、単純に外側に向けてガバッと開く構造ではない。本連載の第3回で触れたように、気圧が低い高空を飛んでいても快適に過ごせるように、機内は与圧されている。すると、機内外に圧力差が生じるので、その圧力差に耐えられる構造になっている。

例えば、扉を開口部よりも大きく造った機体がある。そうすれば、上昇して圧力差が生じた時は扉が開口部に押しつけられる形になるので、圧力に耐えやすい。単に外側に開くだけの開戸だと、内外の圧力差に耐えられるだけの強度とメカを必要とする。

ただし、扉が開口部より大きいのでは、そのまま外側に向けて開くことができない。そこで、扉をいったん機内側に少し引っ込めて、斜めにしてから開くようにする。扉を支えるとともに開閉時の動きをコントロールするヒンジ部の構造は、そこら辺にある普通の開戸と比べると、だいぶ凝ったものになっている。

できることなら扉を開閉するところを見たいものだが、客室内だと開閉する時は席についていなければならないし、客室外だとボーディング・ブリッジのところまで入れてもらえない。だから、扉を開閉する場面は案外と見られないのが惜しい。

最近は、そこまで凝った構造ではなく、外に出てきてから横方向に移動して開くタイプが多いようだ。鉄道車両に詳しい方なら「プラグドア」と言えばわかりやすいだろう。例えば、ボーイング787やMRJがそれだ。

単に扉を閉めただけでは、機体内外の圧力差によって扉が外に吸い出されて開いてしまう。だから、閉めた時はラチェット(掛け金)でガッチリ固定する。MRJの写真を見ると、扉の側に丸棒が付いていて、そこに機体側から掛け金をかけて固定するようだ。

MRJの扉。機体側の開口部周囲に、扉を固定する掛け金などが取り付いている様子がわかる

ボーイング787の扉。やはりプラグドアのような開き方をする。ハンドルの形状や操作方法はMRJと違う

客室扉の付属品

その客室扉を見ると、下の方が大きく機内側に向けて膨らんでいる様子がわかる。この中には、非常脱出用のスライドが入っている。

ただし、通常の乗降に際してスライドが展開してしまうと困るから、普段は展開しない。搭乗が終わって扉を閉めたら動作モードを変更して、扉が開いた時にスライドが自動展開するように設定する。降機の際は、まず動作モードを変更して、扉が開いたときにスライドが自動展開しないように設定する。

エアバスA330の客室扉を内側から見たところ。ちなみに、あっという間に引退してしまったスカイマークのA330である

上に写真を載せたA330の客室扉の写真を見ると、扉の中央部右側・開閉機構を覆うカバーの部分に、「REMOVE BEFORE FLIGHT」と書かれたタグを付けた物体がある。このタグが付いているのが、ドアモードの切り替えスイッチだ。A330では「Slide arming」と書いてあり、左側が「Disarmed」、右側が「Armed」となっている。「Armed」に設定した場合は、扉を開くとスライドが自動展開する。

機種によっては「Disarmed」「Armed」ではなく「Manual」「Automatic」と書いているが、意味は同じ。客室乗務員に対して、離陸前に「ドアモードをオートマティックに変更してください」、着陸後に「ドアモードをマニュアルに変更してください」と放送しているのが、これに関する指示である。

余談だが、軍用機だと搭載兵装を「撃てる」状態にする操作のことをアーミングという。つづりは arming だから、ドアモードの arm/disarm と同じだ。

このほか、同じA330の客室扉の写真を見ると、扉の上部になにやらくぼみが付いているのがわかる。これは、ドアロック機構の動作を見るためののぞき穴だ。

貨物室扉はラッチで止める

一方、貨物室扉は客室扉と違い、単純に外側にガバッと開く。だから当然、機内外の圧力差に耐えられるように頑丈に造らなければならない。開口部を大きくとる必要があるので、シンプルな開戸を使うのが普通だ。開いた扉は、複数のラチェット(掛け金)を使って扉を固定する。

よくあるのは、機体側に丸棒を取り付けてあり、そこに扉の側に設けた掛け金をひっかけて固定する仕組み。だから、この掛け金がちゃんとかかっていないと一大事だ。

下手で申し訳ないが作図してみた。黒丸は機体側に固定された棒で、扉の側にあるくぼみの付いた棒がはまる(左)。はまったところで後者を回転させると、くぼみが逆を向くので固定される

これ以外にも、いろいろな固定方式がある。例えば、掛け金ではなく、端に切り欠きを設けた丸棒を回転させる方式がある。扉を閉めると、その切り欠きに機体側の丸棒がはまるので、その状態で切り欠きを設けた側の丸棒を回転させて固定する。

航空自衛隊のKC-767給油機が備える扉のうち、床下貨物室の扉。大きなローラーが並んでいるが、これは貨物の出し入れをアシストするためのもので、扉の固定に使うのは、それより低い位置に3本ある黒い丸棒のほうだ

また、扉の側に左右にスライドする丸棒を設けておいて、扉を閉めたら、機体側にある金具の丸穴に、その棒をスライドさせてはめ込むタイプもある。

手前の丸棒は扉の側に付いていて、左右にスライドする。扉を閉めると、それが機体側の固定金具(奥にある、丸穴が開いた板)に差し込まれる仕組み

マクドネルダグラスDC-10では、掛け金がちゃんとかかっていなかったのが原因で「あわや墜落」あるいは「墜落」となってしまった事例があった。軽量化のために、掛け金を駆動するモーターの電線を細くしたら、パワー不足で掛け金がちゃんと掛からない事案がしばしば発生した。そこで、抜本的な対策を講じれば良かったのだが、それをやらなかったため、事故につながってしまった。

機体が離陸・上昇すると、周囲の気圧が下がっていく。一方で貨物室は与圧されているから、圧力差が生じる。不十分に掛かった状態の掛け金が圧力差に耐えられなくなると、貨物室扉が開いてしまう。すると今度は、客室と貨物室の間に圧力差が生じる。

致命的だったのは、客室の床に操縦系統の索が通っていたこと。圧力差で床構造が壊れれば、索が引っ張られた状態になるか、破断するかだ。それでは、当然ながら操縦不可能になってしまう。「あわや墜落」の事例では辛うじて操縦を維持できたが、それができなくて墜落に至った事故もあった。

貨物室扉の設置位置

旅客機がスポット・インすると、ボーディング・ブリッジは左舷前方の扉に取り付く。基本的に空港での乗降は左舷前方の扉を使うので、床下貨物室から貨物やコンテナを出し入れするための扉は作業性を考えて、右舷側に付いている。

ただし、バラ積み貨物室については例外で、左舷側に扉を設けた事例もある。バラ積み貨物室は尾部に近いところにあるから、ボーディングブリッジとは干渉しない。

KC-767を正面から見たところ。床下貨物室は右舷側、上部貨物室(ベースモデルの767なら客室になっている)の扉は左舷側に付いている様子がわかる