航空機製造のサプライチェーンというテーマを取り上げたとき、初っ端の話題としてロシア製旅客機と対露制裁の関わりに言及した。では、お隣の中国はどうか。ちょうどタイミングの良い話題がある。

COMAC C919とサフラン・グループ

9月末に、中国商用飛機(COMAC : Commercial Aircraft Corporation of China, Ltd.)の単通路機「C919」が、中国の航空当局から型式証明を取得した。機体規模でいうとエアバスA320やボーイング737に相当する。

そのC919が型式証明を取得したとき、フランスのサフラン・グループがTwitterで「サフラン・グループはC919プログラムにこんなに貢献しています」という投稿をした。そこで挙げられた担当部位は以下の通り。

  • エンジン : CFMインターナショナル製LEAP-1C
  • エンジンナセル : Nexcelle製(GEとサフランの合弁会社)
  • FADEC (Full Authority Digital Electronic Control)エンジン制御システム
  • 逆噴射制御装置(ETRAS : Electrical Thrust Reverser Actuation System)
  • ギャレーとラバトリー
  • 上下水道機器
  • コックピット出入口の抗弾ドア
  • 電気配線
  • 非常脱出用スライド
  • パワー・トランスミッション
  • 正副操縦士用の腰掛
  • 上海浦東国際空港でテスト飛行を行ったCOMAC C919のプロトタイプ機 写真:AVIAGE SYSTEMS

その他の欧米メーカーもいろいろ

たまたまサフラン・グループが積極的にアピールしていたが、他にもさまざまな欧米企業がC919に関わっている。いくつか例を示すと、こうなる。

  • アビオニクス:コリンズ・エアロスペース
  • キャビン・システム:コリンズ・エアロスペース
  • IFE(In-Flight Entertainment):タレス
  • 飛行制御系統:ハネウェル
  • APU(Auxiliary Power Unit):ハネウェル
  • ホイールとブレーキ:ハネウェル
  • 高揚力装置:ムーグ
  • 油圧システムとアクチュエータ:パーカー
  • 燃料系統:パーカー

また、(中国ではありがちなことだが)海外企業と中国企業の合弁会社が関わっている事例もある。降着装置を手掛けているLiebherr LAMC Aviationがそれで、これはドイツのLiebherrと中国のLAMC(Landing Gear Advanced Manufacturing Corp.)が組んでいる。

製造大国を目指す中国が、こうした状況に甘んじるはずもなく、エンジンについては国産化の計画が進んでいると伝えられる。できれば100%国産化を目指したいところであろうが、まずは優先順位をつけて枢要なところ(かつ、目立つがゆえに資金投下してもらいやすいところ)から手をつけていくという話になろうか。なにも中国に限った話ではない。

中国はロシアと違い、戦争を仕掛けて制裁されるような状況下にはないが、欧米諸国が中国に向ける目線が厳しくなってきている状況ではある。それだけに、「供給を止められても耐えられるように」という動機は強いと思われる。実際、アメリカでは2021年1月以来、「COMACは解放軍の影響下にある企業である」との理由から、アメリカの企業や個人に対してCOMACへの投資を禁じている。

C919以外の機体は?

COMACが手掛けている民航機としては、C919より小型のリージョナル・ジェット機ARJ21と、中露共同開発案件のCR929がある。

ARJ21は主要構造部を中国メーカーが手掛けているものの、主翼の設計にウクライナのアントノフが関与している。また、エンジンがGE製CF34、アクチュエータやアビオニクスがコリンズ・エアロスペース製、電気配線がフォッカー・テクニク製、などといった具合に、やはり欧米メーカーの関与は多い。

ただ、中国が単独で手掛けているARJ21と比べると、中露共同案件のCR929の方が、対応が難しいかもしれない。こちらは290席クラスの双発ワイドボディ機で、エアバスA350やボーイング787との競合を意識している。

中露共同案件ということは、当然ながら対露制裁の影響を受ける可能性があるという話になる。まだ試作機の製造を始めたばかりの段階だが、対露制裁の話が持ち上がる前から走っていた計画だけに、ARJ21やC919と同様に欧米メーカーが関与している可能性は考えられる。今後の動向に注目する必要があるかもしれない。

  • 江西航空に引き渡されたARJ21の1号機 写真:COMAC

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。