GEエヴィエーションが2022年1月26日、「日本航空に対して、CF34-8Eエンジンを対象とする360フォーム・ウォッシュ(360 Foam Wash)泡洗浄システムの使用を承認した」と発表した。CF34エンジンのオペレーターで、このシステムを導入するのは日本航空が初めてだという。
ジェイエアのエンブラエル170が対象
CF34というとなじみが薄いかもしれないが、日本航空傘下のジェイエア(J-AIR)が飛ばしている、エンブラエル170のエンジンだ。ジェイエアでは、170よりも胴体が長いエンブラエル190も運用しているが、そちらのエンジンはCF34-10Eで、機体の大型化に合わせて推力を三割方増やしている。
さて。GEエヴィエーションが発表した泡洗浄の導入によって、どんなメリットを得られるのだろうか。
エンジンを洗浄することの意味
「何をいまさら」といわれそうな話だが、ジェット・エンジンは空気を吸入して圧縮機で圧縮、そこに燃料を吹き込んで燃焼させることで、推進力の源となる排気ガスを得ている。
そして燃費の改善は、CO2排出削減がいわれるようになるよりもずっと前から、エアライン各社における重要な課題となっている。燃料費は運航経費の中でも大きな割合を占めるし、世界情勢の影響で石油価格が高騰する場面は少なくない。高いおカネをかけて新型機への代替を進めるのも、それによって燃料消費が減れば、ちゃんと元が取れるからだ。
ただ、そうはいっても程度問題。新型機が出る度にポンポン買い替えられるというものでもない。昨今のようにエアラインの経営環境が厳しくなれば、なおのこと。もしも、既存の機体のままで燃費を改善する手法があれば、それはそれでありがたい話である。そこで出てくる手段の一つが、エンジンの洗浄。
内部で燃料が燃えているのだから、エンジンの内部だって多少は汚れる。それに、外から吸い込んだ空気に塵などが含まれていれば、それもエンジン内部のケーシングやブレードやステーター・ベーンを汚す結果になりそうだ。そうした汚れはエンジンの回転部を若干ながら重くするし、空気の流れにも影響を及ぼしうる。そういったあれこれが結果として、燃費を悪くする可能性はある。
そこでエンジン内部を洗浄するわけだが、普通は水洗いである。そこに泡洗浄を持ち込んだのがGEエヴィエーションというわけだ。より効率的に、かつきれいに洗浄できる仕掛けがあれば、エンジンがクリーン状態で稼働できることになり、カタログ通りの性能と燃費を発揮すると期待できる。
GEが出した数字では、日本航空における泡洗浄システムの導入で、年間に燃料消費を82,000リットル、CO2排出を285トン減らせる見込みだという。
エンブラエル170の最大燃料搭載量は9,335キログラムだから、リットルに直すと約11,670リットルとなる(石油連盟では換算値を0.78~0.80としているが、ここでは0.80で計算した)。つまり、82,000リットルとは、エンブラエル170を7回満タンにして、さらにお釣りが来る数字ということになる。実際には燃料満タンでは飛んでいないだろうから、節約分で飛ばせるフライトはもっと増える。
ちなみに、GEエヴィエーションの泡洗浄システムはCF34-8E専用というわけではなくて、CF6、GE90、GEnxなど、さまざまな同社製エンジンに対応しているとのこと。
機体の洗浄や再塗装にも意味がある
きれいにすると燃費が良くなるのは、何もエンジンに限った話ではない。機体表面の汚れもまた、平滑さを損ない、微妙に燃費を悪化させる原因となり得る。だから、機体の洗浄あるいは再塗装も、機体表面の平滑性向上によって燃費の改善につながる効果を期待できる。
ただ、エンジンの洗浄にしろ、あるいは機体の洗浄や再塗装にしろ、その作業をしている間は飛行ができず、利益を生まない。だから、あまりに時間や費用がかかる洗浄では効果が薄れてしまう可能性がある。作業に時間がかかる再塗装ならなおのことだ。この件に限ったことではないが、経費と効果のバランスが大事である。
なお、燃費低減とは関係ないが、別の意味で機体の洗浄が重要になることもある。それは潮風などに起因する塩気の付着。雪国で車を走らせている方なら御存知の通り、凍結防止のためにまかれる塩分はクルマを傷める原因になるが、それは飛行機でも同じこと。
だから、海面に近いところを飛行する機会が多い対潜哨戒機、空母の搭載機、そして海に近い飛行場をベースとしている機体は、通常よりもマメに機体を水洗いしている。これは塩分落としが主目的だから、燃費改善とは関係なさそうではあるが。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。