前回は、米空軍のB-52H爆撃機における、エンジン換装と発電システムの新型化を通じた燃料消費の低減(と、その結果としてのCO2排出削減)を取り上げた。今回はその話の続きで、補機を巡る電動化と効率改善に関わる話題を、いくつか拾ってみた。なお、従来型のシステムよりも電動化の度合を高めたエンジン系統を、MEE(More Electric Engine)というそうだ。

発電機がエンジンに加勢するというアイデア

以前に少し言及した787の与圧システムに限らず、最近の航空機では電動化を図る傾向が強まっている。その一例が、以前に取り上げたことがある、アクチュエータなどの電動化。油圧や空気圧で動いていたものを電動に変えるという話である。

ところが、その電動アクチュエータは電力を消費するだけとは限らないらしい。ご存じの通り、電動機と発電機は基本的に同じものだから、電動機に外部から駆動力が加われば発電機として機能する。ところが、電動式アクチュエータで駆動する装置に外力が加わり、そこで電力が発生したとしても、それの持って行き場がない。電車ならトロリー線に送り返して他の電車で使ってもらえるが、飛行機ではそうはいかない。

すると、発生した電力を抵抗器で熱に変えることになってしまう。そうした無駄を減らすため、エンジン・スターター兼用の発電機(スターター・ジェネレータ)に発生電力を送り込むアイデアがあるという。通常はタービンで駆動する圧縮機だが、そこにスターター・ジェネレータが加勢すればエンジンの負担が減って効率が上がるのではないかという理屈。それに、抵抗器を載せずに済めば、その分だけ機体が軽くなる。

なお、スタータ・ジェネレータのメリットとして、圧縮空気を使用するスターターが不要になり、その分のスペースと配管を節減できる点が挙げられる。

  • エアバス、ロールス・ロイス、シーメンス共同で開発しているハイブリッド電気飛行機の試験機「E-Fan X」 写真:エアバス

  • JAXAは航空機におけるエミッションフリー(排出物ゼロ)の実現を目指し、新しい形態の電動航空機の研究を行っている。ハイブリッド電動推進システム航空機のイメージ 写真:JAXA

燃料系統の電動化

エンジンによって駆動する補機の一つに、燃料ポンプがある。これをエンジンから直接、機械的に駆動する代わりに電動化するアイデアもある。

エンジンによって機械的に駆動する燃料ポンプは当然ながら、燃料の吐出量がエンジン回転に応じて変動してしまう。そこで、必要な燃料よりも多い余剰分の燃料については、ポンプ出口の先にある燃料計量ユニット(FMU : Fuel Metering Unit)からポンプの入口に再循環させて、エンジンの燃焼室に行かないようにする仕掛けが組み込まれている。

つまり、エンジンの駆動力を使って不必要に多くの燃料を動かしていることになる。それはすなわち無駄ということだが、代替手段がなければ、その無駄を排除することができない。そこで出てきたのが、燃料ポンプの電動化。

電動であれば、電動機の回転を上げ下げすることで直接的な燃料流量制御が可能だから、制御も構造もシンプルになる。そして、燃料ポンプを駆動するためにエンジンの動力を食われることもなくなる。その一方で発電機の負荷は増えるが、そちらの増分が燃料ポンプ分のエネルギー消費よりも少なければ、トータルでは得になる。

また、燃料計測ユニットとポンプの間で発生する燃料の再循環は、燃料の温度を上げる結果につながるという。エンジンの燃焼室に送り込む前の燃料は、オイルクーラーの冷媒として機能している。ところが、冷媒となる燃料の温度が上がれば、潤滑油の温度を十分に下げられなくなるかもしれない。

すると、空冷式オイルクーラーを加勢させなければならず、構造が複雑化して重量が増える。そして、空冷式オイルクーラーを作動させるには、ファンを駆動する動力が要る。電動ポンプ化によって再循環を解消することは、こうした問題の解決にもつながるのだという。

このほか、精密機器である燃料計量ユニットを省略できれば、構造の簡素化と軽量化、そして保守負担の軽減につながる余禄(?)も期待できる。

なお、あたってみた資料を見た限りでは、燃料ポンプを電動化する話は出ているものの、エンジンで使用する潤滑油を循環させる滑油ポンプを電動化する話は出てきていない。エンジンが回っている間は常に動作させなければならないものだから、別系統の動力で動かすのはリスキーなのかもしれない。

電動化が深度化した時の課題

こうして電力の供給源と消費場所が増えると、電力の流れが複雑になる。発電機と、電力を消費する機器の対応関係が単純で、流れが一方向で済む、という形にならないからだ。

すると、機体全体について電力需要と電力供給の関係を常時把握して最適制御する、エネルギー管制システムの開発が鍵になってくる。そして、それをソフトウェアで制御することになれば、ソフトウェアの開発や品質保証という課題も生じる。

また、大電力が行き交うことになれば電気的ノイズの問題も出てくるだろう。電気的ノイズが電子機器の動作に悪影響を及ぼす可能性は否定できない。飛行機に限らず、例えば新幹線電車でも課題になっている話である。

そして、電気系統の効率が100%にはなり得ない以上、熱管理の問題も出てくる。電力を使うことで発熱が起きるのであれば、電力消費のコントロールは熱管理と表裏一体である。つまり「発熱を抑えるために、当該機器の動作を抑制する」みたいな話が出てくるかもしれない。

そして、動力に関わるシステムの構成や動作が従来とは異なるものになれば、耐空性認証に関わる基準や、審査のプロセスにも影響が生じるのではないだろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。