航空機におけるCO2排出削減というと、ついつい、エンジン本体と、そこから排出して推進力を発揮する排気ガスの話に気をとられてしまう。しかし、それ以外のところでも削減につながる話はある、というのが今回のお話。

補機もパワーを食っている

以前にも解説したことがあるように、飛行機のエンジンは推進力を発揮するだけの存在ではない。機内を与圧するために使用する圧縮空気はエンジンからの抽気を用いることが多いし、電力もエンジンに取り付けた発電機から得ている。油圧や燃料ポンプも同様である。

ということは、抽気の使用量を減らしたり、発電機や油圧ポンプや燃料ポンプを駆動するための負荷を減らしたりすることは、結果としてエンジン全体の負担軽減につながり、CO2排出にも若干ながら貢献できると期待できる。

比率としてはそれほど大きなものにならないかもしれないが、何もしないよりはマシ。他の分野でもありそうな話だが、「一発で問題を雲散霧消させる銀の弾丸」を求めるよりも、小さな努力を積み重ねる方が確実に効果が上がる、という種類の話である。

ボーイング787は、機内の与圧を行う際にエンジン抽気を使用しておらず、電動式の空気圧縮機を使用している。もちろん、それを駆動するためには電力が必要になるから、その分だけ発電機の負荷は増える。しかしそれを差し引いても、エンジン抽気による効率低下と比べればメリットがある、とボーイングは考えたわけだ。

B-52Hでは発電機の効率向上を企図

といったところで、米空軍が運用しているボーイングB-52H爆撃機の話である。

  • 2019年のアヴァロン・エアショーで、上空を航過したB-52H。シルエットだが、左右の主翼に4基ずつのエンジンが取り付いている様子は分かる 撮影:井上孝司

    2019年のアヴァロン・エアショーで、上空を航過したB-52H。シルエットだが、左右の主翼に4基ずつのエンジンが取り付いている様子は分かる

高齢の方なら、B-52と聞くと「ベトナム戦争における北爆」を連想すると思われる。現時点で現役にあるB-52Hは確かに1960年代の発注で、もう60年モノ。しかし、外板を張り替えたりアビオニクスを更新したりしながら、運用を続けている。いや、それどころか、2050年代ぐらいまで(!!!!!)現役にとどまることになっている。

ところが、そこで問題になったのがTF33-PW-103ターボファン・エンジン。一応、ターボファン・エンジンではあるがバイパス比は低く、今の基準からすれば燃費効率が良いとはいえない。しかもそれが1機につき8基も載っている。

  • 米国ルイジアナ州のバークスデール基地で、B-52HのTF33エンジンを整備しているところ 写真 : USAF

    米国ルイジアナ州のバークスデール基地で、B-52HのTF33エンジンを整備しているところ 写真 : USAF

そこで以前から何回も、エンジン換装の話が出ては消えていた。例えば、1990年代前半にロールス・ロイス社のRB211(L-1011トライスター用に開発され、後に747にも載った)×4基に換装する話が出たが、予算の問題などから立ち消えになっていた。

ロールスロイス製BR700シリーズを採用

しかし昨年、ようやくエンジン換装が本決まりになった。計画名称はCERP(Commercial Engine Replacement Program)、つまり「すでに実績がある民間用のエンジンに載せ替えるプログラム」である。使用するのはロールス・ロイス製だがRB211ではなく、ビジネスジェット機でおなじみのBR700シリーズ。これをF130という制式名称で採用する。数は現行と同じ8基。

エンジンの数が減らないとコスト高につくように見える。しかし、数が変わらなければエンジン架や配線・配管の変更が最小限で済むから、改修経費は抑えられる。エンジンの数が減って大きなナセルを4基ぶら下げるよりも、同じ8基で似たようなサイズのナセルを8基ぶら下げる方が空力的な影響変化が少ない、というのもあるかもしれない。

エンジンの数が減らなくても、エンジン1基あたりの調達コストや維持管理コストが十分に少なければ、トータルでは安上がりという算数だろう。そして、エンジン1基あたりの燃費は確実に改善するし、運用経費も減る。燃費が改善すれば、航続距離の延伸、あるいは搭載量の増加というメリットにもなる。

発電システムもコリンズ・エアロスペース製に刷新

実はそれと併せて、発電システムも新しくなる。そこで採用が決まったのが、コリンズ・エアロスペースが手掛けるEPGS(Electric Power Generation System)。発電システムの新型化によって効率と能力が向上すれば、それだけエンジンの馬力を食わなくなるので省燃費につながる。それが、コリンズ・エアロスペースの説明。燃料を食わなくなれば、CO2排出削減にもなる理屈。軍用機だから、そちらは付け足しみたいなものだが。

なにしろ、今のB-52Hが使用している発電システムは70年前に開発された製品とのことで、効率の面でもメンテナンスの面でも、ハンデを抱えているであろうことは容易に想像できる。エンジン換装に併せて発電システムも一新すれば、メリットは大きいという話になる。なお、新しいEPGSの搭載数は1機につき8基とのことなので、個々のエンジンにそれぞれ発電機が取り付くことになると思われる。

これは筆者の推測だが、アビオニクスを更新することで性能や信頼性が向上するだけでなく、消費電力低減につながっているかもしれない(ムーアの法則様様である)。なにしろB-52Hといえば、まだトランジスターしかない時代に作られた機体なのだ。もっとも実際には、アビオニクスの数が大幅に増えているから、トータルの電力消費は増えているかもしれないけれど。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。