これまで「面白そうな機体」というテーマでさまざまな機体を取り上げてきた。今回は、「機体」の話ではないのだが、ちょっとおもしろい話があったので紹介してみよう。無人ヘリコプターをテストするためのプラットフォームである。

VSR700

軍用無人機はさまざまな分野で使われているが、機体が大型になると、カタパルトで射出したり、滑走路で離着陸させたりという話になってしまう。しかし、回転翼UAV(無人ヘリコプター)であれば話は別で、ちょっとした(?)空きスペースがあれば離着陸ができるし、地上側に発進・回収のための道具立てを用意する必要がなくなる。

目下のところ、回転翼UAVのメジャーどころというと、小型の機体ではシーベルのカムコプターS-100、大型の機体ではノースロップ・グラマンのMQ-8ファイアスカウトがある。

  • 米海軍の沿海域戦闘艦「コロナド」が載せていたMQ-8B。左に立っているのは、たまたま見学に来ていた中国海軍の士官で、記念撮影中(笑) 撮影:井上孝司

    米海軍の沿海域戦闘艦「コロナド」が載せていたMQ-8B。左に立っているのは、たまたま見学に来ていた中国海軍の士官で、記念撮影中(笑)

ファイアスカウトは機体規模とベースモデルの違いから、シュワイザー330をベースにしたRQ-8A、シュワイザー333をベースにしたMQ-8Bといった小型のモデルと、ベル407を無人化したMQ-8Cの3モデルがある。ことにC型はまったくの別物だが、制御システムなど、無人化にかかわるシステムはA/B型と共通しているので、同じ「MQ-8」を名乗っている。

さらに、ヨーロッパではサーブの関連会社UMSスケルダー(UMS Skeldar)が手掛けるスケルダーV-200、そして今回の主役、エアバス・ヘリコプターズが手掛けるVSR700といった機体もある。VSR700は、Hélicoptères Guimbal が民間向けに開発したカブリG2(Cabri G2)をベースとして、有人・無人兼用のOPV(Optionally Piloted Vehicle)を造って試験を進めている。

こうした回転翼UAVは、もちろん陸上から運用する事例もある。しかし、発着に際して場所をとらない上に発進・回収機材が要らない利点があるため、艦載無人機として注目されている。現在、たいていの水上戦闘艦は有人のヘリコプターを運用できるが、回転翼UAVなら人命を危険にさらさずに済むし、小型だから目立たない。それを飛ばせば便利な情報収集資産になる。

すでに米海軍ではMQ-8B/Cを艦上運用しているほか、カムコプターS-100の艦上運用を目指している事例もいくつかある。そこで負けじと、エアバス・ヘリコプターズもVSR700の艦上運用を実現しようとして開発を進めているのだが、そこでひとつ問題が出てくる。

船は揺れる

地面の上から発着する場合、地震でも起きていない限り、発着場所は安定している。風の影響は考慮に入れなければならないが、地べたが安定しているかどうかを気にする必要はない。

ところが、艦上運用では話が違う。フネは波浪や風の影響を受けて揺れるからだ。多少の揺れが生じたぐらいで「もう発着はできません」では使い物にならず、揺れる艦上でも発着できなければならない(もちろん限度はあるが)。したがって、揺れている艦上で発着できるように機体を設計する必要があるし、機体ができたら今度は、実際に揺れている艦上で発着艦試験を実施しなければならない。

ところが、いきなり艦上で試験を実施するのはリスクが大きい。それに、テストするからにはさまざまな揺れの条件を用意する必要がある。洋上に出ているフネを使うのでは、揺れの条件は現場海域の気象と海洋状況次第だ。それではテストに必要な条件がそろわない可能性が高い。

そこでエアバス・ヘリコプターズは、陸上に「揺れるプラットフォーム」を用意して、そこでVSR700の発着艦試験を実施することにした。この試験の模様を撮影した動画は、エアバス・ヘリコプターズのWebサイトで見ることができる。

VSR700 achieves autonomous takeoff and landing from moving platform

  • エアバス・ヘリコプターズの無人航空機「VSR700」。移動しているプラットフォームに対し離着陸のデモンストレーションを行っている様子 写真:Eric RAZ / AIRBUS Helicopters

    エアバス・ヘリコプターズの無人航空機「VSR700」。移動しているプラットフォームに対し離着陸のデモンストレーションを行っている様子 写真:Eric RAZ / AIRBUS Helicopters

フライト・シミュレータと同じ構造

試験用のプラットフォームは、3点からV字型に2本ずつ、合計6本の油圧アクチュエータで支えられており、そのアクチュエータを伸縮させることでさまざまな動きができる。降り立った機体が勝手に動き出さないように拘束する目的で、小穴をたくさん開けたハープーン・グリッド・システムという拘束装置を取り付けてあるが、これはフランスなどの水上戦闘艦で広く使われているデバイスだ。

さて。このプラットフォームを見て、「何かに似てる」と思わないだろうか。そう。フルモーション機能付きのフライト・シミュレータを支えて、動かす仕組みと同じである。ピッチ・ロール・ヨーの各方向が組み合わさった動きを再現するのに、これが最低限の所要というわけだ。アクチュエータの数が増えると、それだけ制御が複雑になるから、最小限の数で済むほうが良いに決まっている。

そして、「どういう動きを再現するには、どのアクチュエータをどれだけ、どんなスピードで動かすか」という制御ロジックは、すでにモーション機能付きのフライト・シミュレータで確立されている。それをそのまま発着艦試験用のプラットフォームに応用すれば、コストとリスクを抑えながら、忠実度の高い試験プラットフォームを実現できる、と考えたのではないだろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。