2018年11月27~29日にかけて、東京ビッグサイトで「国際航空宇宙展2018」(JA2018 : Japan International Aerospace Exhibition 2018)が開催された。前回は、ナブテスコのアクチュエータや白銅の素材の話を書いたが、今回は展示会そのもののトレンドというか、そんな話をしよう。

3Dプリンタはトレンドの1つ

製品分野でいうと、前回のJA2016と今回のJA2018を比較した時に違いを感じたのが、3Dプリンタに関する出展が目立ってきているように見受けられたこと。

以前に拙稿「乗り物とIT」で、ダッソー・システムズの3Dエクスペリエンス・ソリューションと3Dプリンタの合わせ技を紹介したことがあった(1回目2回目3回目)。コンピュータ上で最適な形状を設計して、そのデータを3Dプリンタに送れば現物ができる。

3Dプリンタのメリットとして、細々したスペアパーツを現場で製作しやすくなる点が挙げられる。軍用機の整備現場で、本国からスペアパーツが届くのを待つ代わりに3Dプリンタで同じ形の部品を作ってしまう事例が増えつつあるのは、その一例。

もちろん、機能や強度に関する要求が低い、あるいは要求通りのものを作ることができるという前提があってのことだし、安全に関わる重要な部品であれば、事前の検証が不可欠であるのはいうまでもない。

しかしそれだけでなく、試作やプロトタイプ製作みたいな「一品モノ」の製作でも、3Dプリンタにはメリットがある。いちいち鋳型や治具を用意する手間を省けるからだ。

前回、アルミ合金やチタンの素材を手掛けている「白銅」という会社を紹介したが、同社は3Dプリンタによる部品製作の受託も行っているという。製作した部品の例を展示していたので見せていただいたが、「こりゃ3Dプリンタでないと作れないなあ」という複雑な形状のものがいろいろあった。

  • これは3Dプリンタで作られた部品の一例。削り出しではこうはいかない

3Dプリンタに限らず、「こんなモノができます」というサンプルを生で見られるのも、これまた展示会ならではのこと。3Dプリンタの使用事例だけでなく、3Dプリンタ自体を出展していたメーカーもあった。

生々しい展示

さまざまな展示の中でも「生々しさ」を感じたのが、イスラエルのIAI(Israel Aerospace Industries Ltd.)。同社は航空機や人工衛星を手掛けているだけでなく、電子機器やセンサー機材の分野でも知られている。

そのIAIが持ち込んだ製品が「Drone Guard」。その名の通り、いわゆるC-UAS(Counter Unmanned Aircraft System)の機材で、飛来する無人機を検知・識別するためのレーダーと電子光学センサー、それと妨害電波の発信機を組み合わせた構成。

それだけなら驚かないが、手前に置かれたディスプレイで流していた宣伝ビデオが生々しくて、「イスラム国が送り込んできた武装ドローンの脅威が云々」という内容であった(!)

  • IAIの「Drone Guard」。左が電子光学センサー、中央が捜索レーダー、右が妨害電波発信装置

実際、イスラエルの北部や南部では日常的に砲弾や地対地ロケットが飛来しているし、いわゆるイスラム国が跳梁するエリアからも遠くない。日本と違って「脅威」が具体的かつ身近である。それだけに、IAIだけでなく他のイスラエル企業も、真剣味や当事者意識の強さが違う。

そういう国情を実感できるのも、この手のイベントの特徴といえる。海外の展示会に行けばなおさらで、何か質問をした時に、まずどこの国から来たかを訊かれて「日本だ」というと相手の緊張感が和らいだ、なんていう経験もしている。

見せ方にも時代が現れる

展示における「見せ方」にも時代の変化が現れている。今回のJA2018のさらなる特徴として、「頭にデバイスを付けている人が目についた」点が挙げられる。

つまり、VR(Virtual Reality)、AR(Augmented Reality)、MR(Mixed Reality)といった技術の活用である。ボーイングではマイクロソフトのHoloLensを活用していたし、エアバスではA350のキャビン・モックアップに加えてVRを活用した機内体験展示を実施していた。

前回にも触れたように、今回のJA2018は2年前のJA2016と比較すると会場が狭かった。すると、よしんば予算面の問題をクリアできたとしても、展示スペースを広くとるのは難しい。

展示会に出展する場合、紙のパンフレットを用意するだけでなく、可能であれば製品の現物を持ち込みたいところだし、実際、そうしているメーカーは多い。しかしそれも程度問題で、モノが大きくなると現物を持ち込むのは難しくなる。

実際、航空関連の展示会というと実大模型(モックアップ)の展示はお約束みたいなものだが、今回、飛行機の実大模型を持ち込んだのはロッキード・マーティンのF-35だけだった。それ以外は、スケールモデルか、一部分を抜き出した実大模型のみ。

しかし、VR、AR、MRといった技術を活用することで、実物がなくても実物を見ているかのような体験ができるかもしれない。また、実物を置いておくのとは違った見せ方ができるかもしれない。そんな時代の萌芽を感じたのが、今回のJA2018である。

余談だが、F-35の実大模型、押すな押すなの大混雑だった前回と比べると落ち着いてきたように見受けられた。それも無理からぬことで、日本はアメリカに次いでF-35の実機が多くある国なのだ。

岩国、三沢、築城など、一般公開イベントでF-35の実機を御覧になった方も少なくないはずだ(それでも、筆者みたいに、わざわざアメリカまで飛んでいく物好きはいるが)。

つまり、実物に接する機会が出てきているので、以前のように「実大模型でも何でもいいから見たい !」というわけでもなくなってきているのだろう。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。