練馬区立区民・産業プラザにて「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2016」が開催され、数多くのアニメ関係者が参加した。同フォーラムはペーパーレス作画をテーマにした初の大規模フォーラムとして1年前に発足したもの。今回のACTFでは作画のデジタル化とフローの改革に取り組んだ制作プロダクションから担当者が登壇し、実際の作品事例を通してデジタル作画に関する講演を行った。

オー・エル・エム アニメーションプロデューサー 加藤浩幸氏(左)、オー・エル・エム・デジタル R&D リード 四倉達夫氏(右)

本稿では株式会社オー・エル・エムによる講演「Toon Boom Harmonyを使ったデジタル作画ワークフロー構築への道」をレポートする。

オー・エル・エムはTVアニメ「ポケモン」「妖怪ウォッチ」を手がけてきたアニメ制作会社だ。デジタル化も推進しており、オー・エル・エム・デジタルというCG制作会社を傘下企業に持っている。もっとも、講演に登壇したオー・エル・エムの加藤氏によると、「今回の事例はオー・エル・エムだからできたものではない」という。「仕事としてワークフローに落としこむという面からは、(デジタル作画は)難しくないと考えている」。

そんなオー・エル・エムですら、デジタル作画を導入した当初、現場の混乱は避けられなかった。空き机にテスト用のPCを設置したが、クリエイターからは不満が噴出する。曰く、「マニュアルが理解できない」「ワークフローへの不安、不審」「賃金は上がるのか、下がるのか」「技術を習得する間、賃金は出るのか」といった具合だ。

2015年4月、そうした状況の中、オー・エル・エムはToon Boomによるデジタル化の本格導入に踏み切った。ただし、作品ごとに「やれること」や「取り組み方」が違うため、それぞれのプロジェクトチームで取り組み方が違うため、それぞれのプロジェクトチームで取り組み方を変えたという。

5月末には、Toom Boom本社から講師を招き集中講座もを行った。言語はもちろん、海外とはワークフローも用語の使われ方も異なり、道のりは険しかった。その結晶として作られた「Toon Boom Harmony」日本語チュートリアルは、同ソフトの代理店で無料配布されている。

各チームのプロデューサーはデジタル化における目標を設定。「Story Board Proを使って演出」「作画は2名くらいで数カットやってみる」「OP/EDをやってみたい」などが挙がったが、どれも「したい」レベルで止まってしまっていたという。

原画マンと演出にもプロジェクトチームに入ってもらい、2ヶ月ほどかけて番組末尾のコーナー映像を制作。しかし、オンエアレベルには到達せず、厳しい状況が続いた。After Effectsのワークフローが洗練されていて、Toon Boomで代用するのは難しいという事情もあった。

一方で、デジタル作画のメリットも見えてきた。デジタル作画によって、表現の幅が広がり、はアニメーターの作業領域を増やすことができる。現在の作業工程が変化すれば、アニメーターの賃金がアップする可能性もあるという。また、ペーパーレスでデータ管理ができたり、高解像度化できたり、遠隔地で作業できるなどの新しい可能性も生まれた。

アナログ原画の上がりを待ったり、受取りに行ったりする作業もなくなる。ルーチンワークを減らすことで仕事の効率化を図れるのだ。ただし、ルーチンワークが減るということは、代わりにスタッフ全員にフローの熟知が要求されるようになる。また、IT知識もより必要になると加藤氏はみている。

半年間、スタッフ全員で取り組み、映像を完成させた。1月最終週にはデジタル作画で制作した『ポケットモンスターXY&Z』(*)のミニコーナー「パフォーマー通信」のショートムービーが電波に乗った。

(C)Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku (C)Pokémon

ひとまずデジタル作画をやりきったが、課題は多い。アニメ制作会社である以上、アニメを作る必要があるから、いきなり全員の道具を鉛筆から液晶ペンタブレットにできるわけではない。今までアナログで描いていたアニメーターにデジタル化を要求するのは、2DアニメーターがフルCGアニメを作るくらい難しいのだ。

新たな人材も必要になる。オー・エル・エム・デジタルの四倉氏によると、PCやネットワークといったインフラ整備と管理・運用やネットワークといったインフラ整備と管理・運用大きな作品を作るにはIT技術者が必要になるという。

同社のフォルダ構造化ルール

実際にToon Boomを使ってわかったことは他にもある。たとえば必要なPCスペックだ。ノートPCならCore-i5-5200U(2cores 2.2~2.7GHz)、RAMは8GBはほしい。デスクトップのCPUはXeon E3-1271v3(4cores 3.6~4.0GHz)を採用している。スペックは高めだが、Mayaを使用しているCG部門のマシンスペックと合わせて、マシンの管理コストを下げている。

Toon Boomのライセンスに関しては、EssentialsとAdvanced、Premiumuの3種類が存在するが、オー・エル・エムでは現在(既存ユーザーは自動的に移行されたために)最上位版を使っている。今後は業種に応じてダウングレードすることも考えているという。

同社のワークフローの一部

加藤氏は、デジタル作画は業界全体で取り組んでいかないといけないと強調する。各社が同じソフトで統一することで効率化が図れるからだ。オー・エル・エムの新卒採用は、デジタル作画のみに切り替える予定だという。紙をすべてやめることはないが、新卒に関しては最初からデジタル作画に慣れてもらう想定だ。

過渡期である現在は、アナログ派とデジタル派がお互いの知識をシェアしていくことが必要だと加藤氏。オー・エル・エムは今後、両者の垣根をなくしていくことで新たな表現にチャレンジしていくということだ。

(*)『ポケットモンスターXY&Z』
毎週木曜よる7時からテレビ東京系列にて放送中
総監督:湯山邦彦 監督:矢嶋哲生
アニメーション制作:OLM

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