「Vtuber」という存在を知っているだろうか。Vtuberとは、「Virtual Youtuber(バーチャル ユーチューバー)」の略で、仮想のキャラクターを利用して、人間の動きをモーションキャプチャで反映させた動画や配信映像をYouTubeに投稿している人のことを指す。
近年、盛り上がりを見せるVtuber業界だが、そこに企業の名前を背負い参入する「企業公式Vtuber」が登場している。
本連載では、会社の顔としてVtuberを導入している企業の担当者に話を伺い、その誕生秘話や担当者の想いに迫る。
第4回となる今回は、清涼飲料業界で業績トップを走るサントリーの公式Vtuber「燦鳥ノム」。担当者である宣伝部の牧原侑美氏に話を聞いた。
「燦鳥ノム」はどんなVtuber?
2018年8月にデビューした燦鳥ノムは、サントリーグループ初となる公式バーチャルYouTuberで、「水のように清らかに、太陽のようにみんなを照らす!」をコンセプトに、サントリー製品のレビューをはじめ、歌やゲーム実況など幅広く活動するVtuberだ。
燦鳥ノムは、世界のどこかにある「水の国」からやってきたというバックボーンを持っており、飲み物が大好きでいろいろな飲み物に興味があるため、美味しい飲み物を探すためにこの世界にやってきたのだという。
「燦鳥ノムは水の国出身ということもあり、生年月日は、1899年2月1日の現在123歳です。この日付はサントリー(当時の鳥井商店)創業の日でもあるため、燦鳥ノムとサントリーはまったくの同い年なのです」(牧原氏)
燦鳥ノムは、2021年10月26日に2021年をもって定期的な動画更新をストップすることを発表したものの、動画更新ストップから現在に至るまでYoutubeを通した生放送などでファンとの接点を維持している。このように、サントリーの公式キャラクターとしての活動や他社とのコラボ活動で新しい接点を生み出すという会社の顔としての役割は健在のようだ。
強みは「歌」 チャンネル登録者数、企業公式Vtuber1位のコンテンツ内容とは?
燦鳥ノムは、Youtubeにおいてゲーム配信や歌ってみた動画、トーク企画を中心に計200本以上のコンテンツを投稿しており、その中でも歌ってみた動画はかなりの人気を集めているようだ。
そんな燦鳥ノムの歌ってみた動画の最大の特徴は「オリジナル曲」を多く輩出しているという点だろう。ほかのVtubeと同様に、流行の最先端の曲のカバーも多く投稿しているが、それ以外に最新曲の「アオイロ」をはじめ、計4曲もオリジナルソングを生み出している。
アオイロ/燦鳥ノム【オリジナル曲】
「燦鳥ノムの強みとして、『歌がうまい』ことはかなりのアドバンテージになっていると思います。オリジナルソングの中には自社製品とコラボして制作した楽曲などもあるので、サントリーらしく燦鳥ノムらしい曲を投稿できていると思います」(牧原氏)
牧原氏の言う自社の製品とのコラボ曲というのは、クラフトボスとのコラボで2019年にリリースされた「君にルムウム」という楽曲。Youtubeのコメント欄には「これまでジュース買う時にどのメーカーの買おうとか考えたことなかったけど、この動画見てから間違いなくサントリー製品を意識して買うようになった」「ノムさんの影響でクラフトボス買うようになった」といったコメントが並んでおり、Vtuberを入り口に会社のファンを増やすことに成功していることが分かる。
君にルムウム/燦鳥ノム【オリジナル曲】
これだけ魅力あるコンテンツを発信することから、燦鳥ノムは企業公式Vtuberの中でも相当な人気を誇っており、Yotubeのチャンネル登録者数は企業公式Vtuberの中では最多の16.9万人となっている。またTwitterのフォロワー数も約6.9万人と、企業公式Vtuberの枠を超えてVtuber界全体の中でも主要なキャラクターの1人として活躍を見せているようだ。
企業公式SNSアカウントがある中でVtuberをやるべきだった理由
魅力的な燦鳥ノムのお話を伺う中で、筆者は1つの疑問を感じていた。
サントリーと言えば、天然水や伊右衛門、ほろよいなど、同社の製品を聞いたことがない日本人はいないだろう、企業の代名詞ともいえるような商品を数多く展開する日本屈指の飲料メーカーである。当然のことながら会社の知名度も高く、企業の公式Twitterのフォロワー数は180万人を超えるサントリーが、なぜ新しくVtuberを活用した情報発信の形に乗り出したのだろうか。
「TwitterなどのSNSの変遷から見ると、企業がSNSを運営しているだけで興味を持って見てくださる方が多かった以前に比べて、現在は『企業公式SNSであっても面白くないと見てもらえない』という潮流になっています。それに加えて、今ではTwitterの仕様の兼ね合いもあり『ユーザーが興味のあるものしか表示されない』というフェーズにまで差し掛かっています。そのため、企業の新しい情報を多くの人に届けるためには新たな接点を作る必要があると感じ、Vtuberを活用するという結論に行きつきました」(牧原氏)
実際にこの戦略は功を奏し、新たな層のファンを獲得することができたようだ。定期的な活動をストップした今でも、「#ノムart」というタグで二次創作の絵を描いてTwitterにアップしてくれる熱心なファンが多いのだという。
最後に、今後社内でVtuberを導入するか検討している企業の担当者に向けて、企業系Vtuberの先輩としてアドバイスをいただいた。
「Vtuberを企業に導入する上では多くの課題もあるため、一概にすごくおすすめとは言い切れません。それでも、私は燦鳥ノムを通じて、彼女のことをすごく好きだと言ってくださるファンの方にも出逢えました。そんなファンの皆さんが燦鳥ノムだけでなくサントリーに対してもエールを送ってくださることをとても嬉しいです。新しいコミュニケーションの手法の1つとしてVtuberを検討してみるのも良いのではないかと思います」(牧原氏)