中国は開発ロケットを交代? スペースXは自社射場の環境影響評価を通過

中国、開発中の商用固体ロケットに交代劇か

今年6月10日、「高解像度衛星の画像から、2021年10月に酒泉衛星発射センター南の射点で爆発が見える」と宇宙開発ウォッチャーのハリー・ストレンジャー氏がTwitterに投稿した。

エアバス提供の画像では、該当の場所で何か黒いものが飛び散っている様子がうかがえる。ストレンジャー氏はこの場所を、中国の商用固体ロケット『快舟11号』のものとした※2

  • 酒泉衛星発射センターの2021年11月18日の衛星画像(Pleiades(C)CNES 2022 Distribution Airbus DS via Sentinel-hub)

    酒泉衛星発射センターの2021年11月18日の衛星画像(Pleiades(C)CNES 2022 Distribution Airbus DS via Sentinel-hub)

この情報にはほどなく、別の中国宇宙開発ウォッチャーのTwitterアカウントが、煙道など射点の設備が見当たらないことから「該当の場所は快舟11号の射点ではなく組み立て試験施設」と訂正が入った。SpaceNews.comは、固体ロケットモーターの試験施設との見解を示している。

  • 快舟十一号の試験施設とみられる場所の2021年10月7日の画像(左)と同年10月17日の画像(右)。2021年10月7日から10月17日の間に様子が変化し、10月17日の画像で黒い破片が飛び散っているのが確認できる(C)European Union,contains modified Copemicus Sentinel data 2022,processed with EO Browser

    快舟十一号の試験施設とみられる場所の2021年10月7日の画像(上)と同年10月17日の画像(下)。2021年10月7日から10月17日の間に様子が変化し、10月17日の画像で黒い破片が飛び散っているのが確認できる(C)European Union,contains modified Copemicus Sentinel data 2022,processed with EO Browser

Sentinel-2の画像で同地点を見てみると、2021年10月7日から17日の間に該当地点の様子が変化し、黒い飛散物で汚れていることがわかる。飛散物は2022年6月ごろまであまり清掃された様子がなく、ロケット開発活動が継続されていないとも受け取れる。

快舟11号は、中国航天科工集団が開発した商用固体燃料ロケット。高度700kmの太陽同期軌道に1000kgの搭載能力を持ち、小型・超小型衛星の打ち上げを行う目標だった。

2020年7月に初打ち上げを行ったものの失敗し、2021年中に2度目の打ち上げを行うとされていた。しかしその後、2022年4月に中国での宇宙開発関係のシンポジウムだという画像を添えたツイート※3が投稿され、快舟11号の下に「退役」の文字があった。

一度の打ち上げ失敗と、開発中の事故とみられる事象で新型ロケット開発が中止になるとすれば、ある意味で中国のロケット開発のスピードをうかがわせる。失敗が続いたロケットにはこだわらないのかもしれない。一方で、開発対象を切り替えたのでは、と思われる節もある。

ストレンジャー氏は6月20日、内モンゴル自治区の酒泉衛星発射センターでロケットの打ち上げ準備と見られる画像をツイートした※4

  • 酒泉衛星発射センターでロケットの打ち上げ準備と見られる画像。

    酒泉衛星発射センターでのロケットの打ち上げ準備と見られる画像(Pleiades(C)CNES 2022 Distribution Airbus DS via Sentinel-hub)

エアバス提供の画像では、射点にロケットのような物体が設置されたようだ。酒泉衛星発射センターでは、2022年中に新型固体ロケット「力箭一号(Zhongke-1A/ZK-1A)」が初の打ち上げを予定している。2021年11月に打ち上げ支援システムの試験が行われ、今年3月にも初飛行との情報もあったがまだ行われていない。3カ月ほど遅れてはいるものの、射点の様子からして間もなくではないか、というものだ。

そもそも、この場所がなぜ力箭一号の射点といえるのか?

該当の場所は酒泉衛星発射センターの主要施設で神舟宇宙船の打ち上げなどを行う第四十三号射点から南に17kmほと離れた砂漠の真ん中だ。手軽に高解像度衛星画像を利用できるGoogle Earthで見てもこの場所にはまだ何もない。ところが、Sentinel-2の画像をさかのぼって見てみると、1年ほど前から何もなかった場所に突如としてロケット関連施設が新設されている。

  • 力箭一号の射点とみられる場所が建造されていく様子。2021年5月ごろから工事が続いている。

    力箭一号の射点とみられる場所が建造されていく様子。2021年5月ごろから工事が続いている(Copernicus,Sentinel-hub)

中国宇宙開発ウォッチャーの5月22日のツイート画像によれば、酒泉衛星発射センターには第一三〇号射点(力箭一号の射点)が新設されたとの情報がある。5月後半までに射点は完成し、稼働を開始したと考えても矛盾がないようだ。

力箭一号は、快舟シリーズと同じ中国航天科工集団が開発した個体ロケット。全4段で高度700kmの太陽同期軌道に1300kgの打ち上げ能力を持つ。直径は2.2mと共通で、射点は同じ酒泉衛星発射センターの第四十三号射点から南西に17kmほど、快舟十一号と力箭一号の射点は4kmほどしか離れていない。力箭一号のランチャーは快舟十一号のものをアップグレードしたという情報もある。

こうした要素を重ね合わせると、開発が難航した快舟十一号に代わって力箭一号の計画が進行中なのではないかという可能性が見えてくる。射点の衛星画像だけですべてが読み解ける訳ではないが、画像を核に情報を重ね合わせることができる。

テキサス州から打ち上げ加速へ、スペースXが自社射場の環境影響評価をクリア

2022年6月13日、アメリカ連邦航空局(FAA)はスペースXがテキサス州で利用申請していた自社射場、通称「スターベース」の環境影響評価の審査が完了したと発表した。

  • スターベースの2022年6月4日の衛星画像

    スターベースの2022年6月4日の衛星画像(Pleiades(C)CNES 2022 Distribution Airbus DS via Sentinel-hub)

スターベースは、開発中のスペースXの大型ロケット「スターシップ」の打ち上げを行う場所だ。メキシコ湾に面したスターベースは、湿地の野生動物保護区に近く、ノーザン・アプロマード・ファルコン(オナガハヤブサの仲間)やオセロット、タイマイなどが生息する環境への影響が懸念されていた。

2021年秋に提出されたスペースXの射場計画の審査には9カ月近くを要し、75カ所にのぼる変更を行う指示の上でついに射点としての利用が認められた。変更点には、スペースX側が申し出た燃料メタンの精製施設の廃止などが含まれ、「燃料の純度を高めなくても飛行できるようにした」といったロケット側の改良もうかがえる。

スペースXは現在利用しているフロリダ州のケープ・カナベラル空軍基地の射点に加え、自社の射場を持つことで開発を加速することができる。イーロン・マスクCEOは7月にもスターシップの起動飛行試験を行うとしており、スペースXアカウントが33基のラプターエンジンを搭載したStarship Super Heavyが射点へ移動中の写真を公開した。

射点(Orbital Launch Pad)はスターベースの海岸に近い東端にある。FAA提出書類にはスターベースの見取り図が含まれており、現在の「パッドA」に加えて今後はやや南側に「パッドB」が新設される予定だ。6月9日のプレアデス衛星画像には、まだ空のマウントとインテグレーションタワーが写っているだけだが、いずれはここに日常的にスターシップ・スーパーヘビーの姿が見られると期待される。

ここまで、イラン、中国、アメリカと世界の3つの射場や気になる動きをVHR衛星画像で見てみた。後半記事では、画像購入の手順を詳説するとともに、対象地点を絞り込んで本当に欲しい部分だけをピンポイントで購入するための「下ごしらえ」についても紹介する。

文中注釈

※2:https://twitter.com/Harry__Stranger/status/1535071686529548288
※3:https://twitter.com/CNSpaceflight/status/1517875144751861761
※4:https://twitter.com/Harry__Stranger/status/1538657760442650625