「オウンドメディア」という言葉が一般的になったのは、ここ10年ほどのことだろう。オウンドメディアは、企業が自ら製品やサービスについて情報発信する場として、あるいは普段あまり公開されることのない社内の様子や、そこで働く人々について紹介する場として主に活用されている。

オウンドメディアは2010年前後に最初のブームを迎えたが、それ以前にも近い形態で情報発信を行う企業は少なくなかった。もっとも、当時はオウンドメディアではなく企業ブログ、あるいは紙媒体で「広報誌」として発行されていた。オウンドメディアをどう定義するかにもよるが、企業が自らの言葉で情報発信するというコンセプトに立ち返るなら、オウンドメディアとは広報誌からの流れにあると言っていいだろう。

そんなオウンドメディアの歴史を体現していると言えるのが、島津製作所が運営する「ぶーめらん」だ。1999年に創刊、なんと現在で23年目を迎える老舗広報誌である。紙媒体からスタートし、現在は紙とWebの両方に記事を展開している。

一方で、対照的とも言えるのが、2020年にローンチされた島津製作所のもう1つのオウンドメディア「SHIMADZU TODAY」だ。サイト名の通り、島津製作所に関連するトピックスやニュースを伝えるオウンドメディアであり、肩の力の抜けた親しみやすい雰囲気が漂っている。

出自も漂う空気感も対照的な2つのオウンドメディア。ぶーめらんとSHIMADZU TODAYはどのようにして生まれ、現在に至ったのか。両メディアを運営する島津製作所はどんな想いを持っているのか。

ぶーめらん制作の主体となる島津製作所 人事部 東京グループ マネージャー 石川秀寿氏、主任 中田理恵氏、斎藤桃代氏、およびSHIMADZU TODAYに携わるコーポレート・コミュニケーション部の担当者の皆さまに話を聞いた。

創刊23年の老舗広報誌「ぶーめらん」

ぶーめらんは1999年、まだオウンドメディアという言葉すらなかった頃、島津製作所の顧客向け広報誌として創刊された。半年に一度、ぶーめらんが刊行されたら、営業担当者が同誌を持って顧客を訪問し、関係性を構築する。いわば、営業ツールとしての広報誌だったわけだ。そうした背景もあり、ぶーめらんという名称は、「お客さまにお渡しした後、お客さまの声が返ってくるように」という想いを込めて名付けられたのだという。

  • (左から)島津製作所 人事部 東京グループ 斎藤桃代氏、同グループマネージャー 石川秀寿氏、同グループ主任 中田理恵氏

ぶーめらんのWebサイトではバックナンバーをPDFで閲覧できるので、まずは誌面をご覧いただきたい。同誌では製品やサービスを不自然に宣伝することはしていない。あくまでも顧客や著名人など、登場人物が主役であり、読み物として成立することを第一に心掛けているという。

  • PDFはぶーめらんのサイトで無料公開されている

制作には島津製作所の広報宣伝部門から分社化して発足した島津アドコムが携わっているだけあり、雑誌にも負けていないクオリティの高さに驚かされる。これは、創刊当時、企画を立ち上げた担当者が、「広報誌であるからには読んでいただけるものでなければ意味がない。そのために店頭に並んでも恥ずかしくないクオリティと品位を備えた冊子にしよう」という想いを強く持っていたからだという。