旧フェイスブック社が「メタ」へと社名変更したことを端に発するメタバースブームは、メタバースの認知度を広めた一方で、間違った認識も広めた。

その要因は、ブームに乗っかる形で「われわれもメタバースだ」と名乗りだすプレイヤーが多かったことに尽きる。ゲーム、VR・AR、Web3、オンライン展示会、SNS……多種多様なジャンルのプロダクトが、一斉に「メタバース」を自称した。いわゆるポジショニングを目的とした動きである。

結果、「メタバース」は深刻な解釈不一致を引き起こす言葉となってしまった。そして、解釈不一致から生じる「間違ったメタバース」は、バズワード化にもつながった一時の流行が生み出したとも言えるのだ。

では、広まっていった「間違ったメタバース」には、どんなものがあるか。本稿では、よくある3つのメタバースへの誤解を挙げ、その実情を解説しつつ、誤解が生む機会損失とその回避策についてお伝えしたい。

よくあるメタバースの誤解を解く

誤解1:人がいない

まずは「人がいない」という誤解だ。これは半分正解だが、半分間違いである。なぜなら、世界中にさまざまなメタバースプラットフォームが存在するものの、まともにユーザーがいるものは『VRChat』『Roblox』『Fortnite』の3つしかないのが実情だからだ。

『Fortnite』は「GDC 2024」内のイベントにて、月次アクティブユーザーが1億人にも上ると紹介されている。『Roblox』は2024年の通期業績発表にて、通年の日次アクティブユーザーが8290万であると発表しており、ベンチャーキャピタリストのマシュー・ボール氏は「月次アクティブユーザーは3.8億人」と推計している。『VRChat』はユーザー数を公開していないが、Webサイトへのアクセス数などから、総ユーザー数は数千万人と推測される。

一国以上のユーザー数も観測されるプラットフォームもある以上、「メタバースには人がいない」ではなく、「人がいないメタバースプラットフォームがある」が、正確な現状と言える。メタバースで事業を行うとき、そこに多くの人がいることは大前提だ。よって、事業進出の際には、多くのユーザーがいるプラットフォームを選ぶのが最善だ。この認識を持っていれば、メタバースビジネスにおける初歩的な失敗は回避しやすくなる。

誤解2:流行していない

2つ目の誤解に「流行していないのでは?」がある。この見解は実情と明確に異なる。

とりわけ『VRChat』は、2024年に日本国内で爆発的にユーザーが増えた。きっかけとなったのは、著名な動画配信者が取り上げたことだ。特に、スタンミ氏による『VRChat』上での配信企画は、ダイジェスト動画がYouTube急上昇ランキング1位となり、再生数が600万超となるほどの人気となった。この動画を見たことで、『VRChat』に興味を持った新規ユーザーが数多く存在する。

こうしたムーブメントを外部からキャッチアップすることは難しい。同様の事象はゲーム業界にも当てはまる。ゲームを遊ぶ人の国内総人口は約5000万人、家庭用コンソール機を有するのは3000万人程度と言われているが、普段ゲームを遊ばない人にとって、その規模や熱量は想像しにくいだろう。

しかし、ゲーム業界の関連会社の規模が大きいことは、ビジネスの情報を追いかけていればご存知のはずだ。メタバース業界においても、このような情勢が新しい形で展開されている。

その熱量を示す材料として、ECサイト「BOOTH」が発表した「BOOTH 3Dモデルカテゴリ取引白書2025」がある。『VRChat』向け3Dアイテムのマーケットプレイスとして最も普及したこのECでは、2024年には58億円超の3Dモデル取扱高を記録したことが明かされている。

しかも低額出費のライト層だけでなく、10万円以上のヘビー層も均一に増加していることが読み取れる。このくらいの動きが見られるマーケットがすでに生まれている事実を、まずは知っていただくのがベターだろう。

誤解3:参入コストが高い。費用対効果が見込めない

次に、「参入コストが高い。費用対効果が見込めない」と思われがちであるということだ。

開発費はもちろん、Webサービスなどには常にサーバ維持費などの管理費用がつきものであるため、それ以上にリッチなことを要求しそうなメタバースの維持費となると、さらに高額なイメージがあるだろう。その出費に対する費用対効果を想像できず、参入に二の足を踏んでいる方は多いだろう。

ところが実際のところ、参入コストは驚くほど高いものではない。まず、既存のプラットフォームを利用する場合、維持費は一切かからないケースが多い。例えば『VRChat』であれば、ワールド(仮想空間)を公開すれば、いわゆる維持費用は発生しない(※商用利用時に別途相談や費用が必要な場合はある)。

また、費用対効果についても、適切な戦略さえ立てれば問題ない効果が得られる。弊社の事例を取り上げると、まず数百万円前半で開発した『VRChat』向けのワールドは、半年で20万以上の通算訪問数を記録した。現在も訪問数はコンスタントに伸びており、特別な施策を行わずとも継続的に成長する場を生み出すことに成功している。

メタバースにおけるワールドなどの空間コンテンツは、ハレの日とケの日のうち、イベントごとのハレの日しか訪れないユーザーが多い。そして、イベントだけしか人が来ないワールドは、プラットフォームのポテンシャルよりも先に、空間の設計ミスを疑うべきである。イベントごとがないケの日にも訪れるような再現性を担保できれば、「人が来ない」といった悩みは無縁だ。

また、弊社開発のアバター・3D衣装モデルの中には、原価コストを発売後半日で回収、2週間で原価コストの5倍の利益を生み出し、現在も売れ続けているヒット商品が生まれている。特に、アバター向けの3D衣装モデルは、シーズン単位でしか売れないことが多いリアルの衣服とは異なり、長期間、季節を気にせずに売ることができる。そして実態はデジタルデータではないため、在庫を大きく抱えることもない。維持費はほぼかからないのだ。

このように、初期開発費用はもちろん、維持にかかるコストも大きくないため、メタバース事業においてはミニマム100万円程度のコストで、ユーザートラクションやアイテム販売売上など、必要な分の費用対効果は見出しやすい。適切な戦略さえ立てれば、右肩上がりの成長も見込みやすいものだ。

正しい理解と戦略が、理想的なメタバース参入につながる

メタバースを巡るこうした誤解は、不幸なリスクを生む原因になる。最も懸念されるのは、メタバースに興味を持ち、予算もかけたのに、思ったよりも成果が出せなかったことで「メタバースってダメだよね」と思い込んでしまうことだ。

メタバース事業において失敗した理由のほとんどはプラットフォームの知識不足に尽きる。正確なプラットフォーム特性の理解と、適切な戦略設定さえあれば、上記の通り一定の費用対効果を見出だせるのである。

メタバースに向けてなにかを作ったものの、売上を出せない、人を集められないことで、その先の事業目的につながらないことはとても不幸だ。ゆえに、弊社では「お金をかけてこれだけの成果が出た」と立証することを強く志向している。

では、メタバースを正しく理解するにはどうしたらいいだろうか。第一に心がけていただきたいのは、信頼できる情報ソースの確保だ。

「そこに実際に暮らしているユーザー」の動きを把握する上でおススメしたいのがWebメディアだ。

弊社はWebメディア「メタカル最前線」を運営しているが、それ以外にも、「バーチャルライフマガジン」、「Mogura VR News/MoguLive」、「PANORA」、「リアルサウンドテック」あたりが、メタバース動向に詳しいメディアだ。

まずはこれらのメディアをチェックし、メタバースに対する正確で信頼できる情報に触れてみてほしい。そこから、御社が本当に取り組むべきメタバース施策が、自ずと見えてくるはずだ。

著者 株式会社V 代表取締役 藤原光汰

AIレシピ提案アプリを開発するスタートアップを共同創業。その後、株式会社バンクに入社。即時買取アプリ「CASH」と後払い旅行サービス「TRAVEL Now」の立ち上଄を担当したのち独立。2019年に株式会社Vを創業後、複数のコンシューマー向ଃサービスを開発。人気ゲームタイトルでアジア最大ユーザー数のコミュニティを運営。