バズワードとして広まった「メタバース」ですが、言葉の波及とは対照的な現場の失速により、「オワコン」とささやかれることも増えてきました。しかし、米国のソーシャルVRプラットフォーム『VRChat』を中心に、確実に成長を続けているメタバースプラットフォームが存在することはあまり話題に上がっていません。

そこで、本連載ではメタバースが再注目されている背景、メタバースを導入するための手順やポイント、メタバースの未来について解説します。初回となる今回は、メタバースの現状をお伝えします。

メタバースが一時的な流行で終わったと見られる理由

2021年10月に、旧フェイスブックがメタに社名変更したのをきっかけに、メタバースは一時的な流行となり、バズワード化しました。しかし、メタバースはそれ以前から存在する概念でした。

そんなメタバースは、いまや「オワコン」と呼ばれるほど、失速していると見られています。その理由は、メタバースがバズワードになって以来、多くの事業者がゼロから自分たちのプラットフォームを作り出す、難易度の高い取り組みに挑み始めたためと思われます。

2025年現在、メタバースとして扱われ、成長しているプラットフォームはおおむね4つですが、その全てがバズワードと関係なく運営されています。成功しているメタバースは、そもそも「メタバースを作ろう」と思って作られたわけではなかったからです。

ゼロからのメタバースプラットフォーム構築は、ヒットゲームの開発と同じくらい難しいです。プロのゲーム会社が取り組んでも、ヒットさせられるかどうかわからないという世界である以上、そもそもゲーム会社ではないところが開発し、盛り上げていくのは至難の業です。10年かけてやっと芽が出るか……くらいの覚悟で取り組まなければ厳しいでしょう。

そしてなにより、メタバースは人が人を呼ぶ世界です。誰も観光に来ないような山奥にリゾート地を作って、「旅行しに来てください」「住んでください」と宣伝しても、人は来ません。東京や大阪など、すでに人が集まり文化が形成されているところに、人は訪れます。

こうした、作り手側の目線とユーザー側の目線のすれ違いが、メタバースを「オワコン」と呼んでしまう背景ではないかと考えられます。

そして、バズワード化した2〜3年前からメタバースに取り組み始めた企業では、方向性の違いが生じ始めています。当社は、メタバースがバズワードになる前から取り組んでいるプレイヤーとして、特に国内のマーケットを良くしていくために、自分たちの資源をさまざまな業界へインストールすることで、メタバース事業の立ち上げ・支援に取り組んでいます。

実際、直近では、「メタバースでなにかやってみたい」といったお問い合わせ以外にも、「メタバースをやってみたけど、実はうまくいってなくて……」といった、相談が増えています。

復権の理由・企業の論理とユーザーカルチャーの乖離

「メタバースの復権」は、正確に言えば「世論に対して復権した」ことを意味します。というのも、「オワコン」と語る人たちが指すメタバースプラットフォームは、ユーザーが定着せず、運営側の声だけが取り上げられるケースが多いのが実情だからです。しかし、バズワード化にかかわらず、成長してきたプラットフォームは今なお成長しています。

そして、近年は「実際にメタバースに住んでいるユーザー」がちゃんと可視化されています。それはなぜか。

例えば、『VRChat』にいる多くのユーザーは、「俺たちメタバースに住んでいるんだぜ!」と高らかに唱えることはありません。ただ純粋に、そこでの暮らしを楽しんでいます。よって、大きな声を発することはそもそも構造上起こりにくく、それゆえに注目を浴びにくかったのです。

こうした人々が、後述する2024年の動きによってしっかりと見えるようになったことが、再注目の大きな要因と言えるでしょう。

実際、サンリオが主催するメタバースイベント「SANRIO Virtual Festival」の来場者数は400万人を超えています。リアルのピューロランドの来場者数よりも多くの人が訪れていると言えば、その勢いが伝わるでしょうか。

また、クリエイターズマーケット「BOOTH」における2023年の3Dモデル取扱高は約31億円と報告されています。一つのプラットフォームだけでも、そこまでの流通規模が生まれるくらい成長しているのです。

一方、「Webメタバースやモバイルメタバースは、ライト層がたくさん集まる」といった声も散見されますが、そもそも「メタバースのライト層」は現時点では存在しているとは言えません。

現在、一定以上のユーザーが滞在する、活況あるプラットフォームは『VRChat』(ユーザー数非公開:数千万人)、『Fortnite』(ユーザー数5億人)、『Roblox』(ユーザー数3.8億人)、『ZEPETO』(ユーザー数4.6億人)に絞られますが、いずれもWeb経由のアクセスに利便性を感じているユーザーは、ほぼいないことが分かっています。

むしろ、ゲーム機やPC、VRヘッドセットなどからアクセスするユーザーのほうが、滞在時間が長く、利用頻度も多いのです。

もちろん、メタバースをあまりやったことない人たちを呼び込むことはこれからも重要ですが、実は「すでにやっている人たち」がしっかり増えているので、その人たちに合わせていく方が、ムーブメントやカルチャーを生み出せるはずです。目を向ける先を変えてみることは、かなり大事です。

メタバースの住人の実態とは?

先ほど挙げた「PCやVRヘッドセットからアクセスするユーザーの方が滞在時間が長く、利用頻度も多い」ことを示すデータとして、弊社が運営しているメディア「メタカル最前線」で実施したユーザーアンケートの結果を紹介します。

まず、利用プラットフォームは『VRChat』が圧倒的に多いです。そして、週3回以上ログインする人は60%、週7回、つまり毎日ログインしている人も20%ほどいます。それぐらい、メタバースには「人が住んでいる」のです。

他の企業が実施した有効数字の近いアンケートでも、結果は大体同じくらいで、大丸松坂屋百貨店の調査では週7回の利用者は30%にも上ります。異なるセグメントで集計しても近似値を得られているので、おそらく確度の高い数字でしょう。

  • メタカルの第2回アンケート:利用者のログイン頻度や利用メタバース①

    メタカルの第2回アンケート:利用者のログイン頻度や利用メタバース①

  • メタカルの第2回アンケート:利用者のログイン頻度や利用メタバース②

    メタカルの第2回アンケート:利用者のログイン頻度や利用メタバース②

年齢層を見ると、20代〜30代の方がとても多いのが特徴です。また、メタバース関連の出費では、年間10万円以上使っている人が23%、大体4人に1人はいる計算となります。

これだけメタバースの世界にお金が流れているのに、そこに対して何も対策を打たないのは機会損失が大きく、それゆえ筆者は大きな可能性を感じています。

  • アクセス時刻のグラフ

    アクセス時刻のグラフ

一方で、彼らがメタバースへアクセスする時間は昼間ではなく、仕事や学校の終わった夜間帯がとても多いです。このため、コミュニティ向けの施策も同様に夜間帯を中心に当てていく前提で動かないといけないため、企業としてはやりづらいと思います。

投資効果としては、やはりコマース領域に一定の勝ち筋が見出せます。例えば、メタバースユーザーは滞在時間が一定以上になると、そこで過ごすためのアバターや、アバターに着せる服を買うようになります。

このアバターやアバター用の衣服は、初期の制作コストは発生するものの、一つのデータが多数購入されるため、初期コストを回収したあとは、理論上は無限に利益が増えていきます。弊社においては、早いものだと発売から半日ほどで初期制作コストを回収した製品が存在します。面白いことに、季節などに関係なく物が売れ続けていくのも特徴です

また、即座に投資効果が出なくても、熱量の高いエンゲージメントの種をまきやすいのも、メタバース事業の特色です。公式ワールドなどを制作することで、メタバース上にコミュニティを作ることができ、X(Twitter)やInstagram、TikTokのような新しいチャンネルとして機能させることも可能です。

今、メタバースに注目すべき理由

今後のメタバースの市場動向を予測すると、まず2025年はよい年になると思います。「形だけのメタバース」が、収益を得られなくなって市場から一掃され、ようやく「人がいるプラットフォームでどのように価値競争をしていく」ことが展開できるフェーズに突入していくためです。

そして、一昔前のOMO(Online Merges with Offline:オンライン マージズ ウィズ オフライン)のような考え方で、「メタバースからオフライン」への送客事例も増えていくでしょう。実際、最近は「バーチャルマーケット」などのメタバース系イベントのリアルイベントが開催され、そこにたくさんの人が訪れています。

横須賀市のメタバースプロジェクト「メタバースヨコスカ」でも、ドブ板通り商店街を再現したワールド「DOBUITA & MIKASA WORLD」の訪問者が横須賀市へ訪れるケースが生まれています。メタバース上でのトラクションとコミュニティ形成は、その意味でも重要です。

さらに、「BOOTH」は単独で約31億円もの取扱高を記録している以上、世界中の他のECでの売上も合算すれば、メタバース関連製品の消費金額は相当な量になるはずです。もちろん、「BOOTH」上での取扱高もさらに増えることでしょう。コマースやアパレルとの合流により、その流れはさらに顕著になるはずです。

こうして、メタバース上のコミュニティやトラクションを起点に、リアルでの売上や送客が向上する事例が増えていけば、企業がメタバースをやらない理由がなくなってくるはずです。そして、すでに水面下でそうした動きを見せている企業も確認しているため、3〜5年以内にメタバースに取り組む企業が増えると予想されます。

メタバース市場で競争優位性をとるためのポイント

こうした市場展開の中で競争優位性を得るためには、プラットフォーム上でのトラクションとコミュニティ形成をしっかり行うことが、何よりも大事です。自分たちのコミュニティやユーザーのエンゲージメントがあれば、例えばその後にオフラインイベントや、新製品の販売などを展開した際、送客につなげやすくなります。どのような事業であっても「ユーザーと一緒に盛り上げていく」ことは優位性につながるので、まずはここに注力しましょう。

そして、人がいないメタバースでの事業は避けましょう。弊社も先ほど挙げた『VRChat』『Fortnite』『Roblox』『ZEPETO』について検証しましたが、有効なプラットフォームと太鼓判を押せます

2025年は特に『VRChat』がホットなプラットフォームとなるはずです。2024年、『VRChat』は著名なストリーマー(配信者)のスタンミさんが「VRChatを純粋に友達といっしょに楽しむ」様子を発信し、YouTube上でオールジャンルの急上昇1位になるほどスマッシュヒットしたことで、一気にユーザーが増えました。

『VRChat』は基本アクセスが無料であるうえ、もともとスタンミさんのファンはゲーミングPCでゲームを遊ぶ傾向が高いため、本人たちが思っていた以上に「VRChatが簡単に行ける世界」であったことが、ユーザーが急増した大きな要因と思われます。

そして、「メタカル最前線」をはじめとするメディアの存在により、ハウツーへのアクセスも容易となったことで、スタンミさんがきっかけで流入してきたユーザーはかなりの数が定着しています。メディアのトラフィックも8月ごろから前月比9倍ほどになり、成長を続けています。

2024年に参加したホットな新規ユーザー、それ以前から定着しているユーザーも、コミュニティ運営や自己表現、他社との交流など、一定以上の熱量を持って日々アクセスし、住んでいることが、『VRChat』の大きな特色です。この点にはすごく可能性を感じますし、個人的にもおもしろいと感じるところです。

ぜひ、2025年メタバースで何かしたい。取り組んでみたけどうまくいっていない現状を変えたい担当者の皆さん、お話ししましょう!

著者 株式会社V 代表取締役 藤原光汰

AIレシピ提案アプリを開発するスタートアップを共同創業。その後、株式会社バンクに入社。即時買取アプリ「CASH」と後払い旅行サービス「TRAVEL Now」の立ち上଄を担当したのち独立。2019年に株式会社Vを創業後、複数のコンシューマー向ଃサービスを開発。人気ゲームタイトルでアジア最大ユーザー数のコミュニティを運営。