中小企業30社が3カ月間で業務改善に挑戦
サイボウズは10月14日、埼玉県内の中小企業を対象としたDX支援プログラム「売上・利益向上DX実践キャンプ」の成果共有会を開催した。同プログラムは、中小企業がkintoneを活用して自ら業務改善に取り組み、売上や利益、生産性の向上につなげることを目指すもの。今年の7月にスタートし、約3カ月間にわたって30社がDXに取り組んできた。
成果共有会では、優れた取り組みを実践した参加者や企業を表彰するとともに、実際に業務改善を進めた企業が成果を発表した。工程管理表の作成時間を60分から5分に短縮した砂型鋳造の企業や、車両・重機の管理をデジタル化し、年間168万円のレンタル費用削減を見込む造園・土木企業など、中小企業ならではの工夫と成果が紹介された。
「売上・利益向上DX実践キャンプ」は、サイボウズが2026年5月11日に発表した地域密着型のDX支援施策だ。第一弾として埼玉県内の中小企業を対象に実施されている。
同プログラムの特徴は、単にITツールを導入するのではなく、企業が自ら業務課題を発見し、改善に取り組むことで、その成果を売上や利益、生産性の向上につなげることを目指している点にある。 参加企業には、サイボウズのノーコードツール「kintone」のスタンダードコースを、AI機能を含めて最大100ユーザー分、最大6カ月間無償で提供。さらに、研修やワークショップ、DX先進企業による講演、サイボウズ社員による個別伴走支援を組み合わせ、ITに詳しい人材がいない企業でも業務改善を進められる環境を用意した。
7月2日には、さいたま市大宮区でキックオフイベントを開催。埼玉県内の中小企業30社が参加し、サイボウズからも26人の社員が支援に携わった。
プログラムは大きく前半と後半に分かれている。前半の約3カ月間では、参加企業が自社の業務から改善対象を一つ選び、kintoneを使って実際に改善することで、「自分たちでも会社を変えられる」という成功体験を得ることを目指した。
後半では、その経験を踏まえて全社的な活用やAIによるデータ活用を進め、売上・利益・生産性の向上につながる計画の策定・実行に取り組む。
キックオフでは、プロジェクトリーダーを務めるサイボウズ 事業戦略本部の蒲原大輔氏が、AI活用の前提として社内データの一元化が重要であると説明。業務プロセスやコミュニケーションをkintoneに集約し、蓄積されたデータを活用することが、企業の競争力向上につながると訴えた。
その後、7月には業務アプリを作成するワークショップを実施し、8~9月にはAI活用に関する勉強会も用意された。
10月14日の成果共有会では、参加企業が約3カ月間の取り組みを振り返り、業務改善の成果だけでなく、苦労した点や、それをどのように乗り越えたのかについても共有した。
DX成果を表彰、山本工機と八廣園が受賞
成果共有会では、表彰式が行われた。チームワーク賞は、社内へのDXの浸透・定着に向けたアプローチに、斬新さや創意工夫が見られた企業を表彰するもの。この賞は山本工機の古川靖乃氏が受賞した。
インパクト賞は、業務改善効果の大きい取り組みを実現した企業を表彰する賞で、八廣園の北澤雅寅氏が受賞した。
授賞式の後には、山本工機と八廣園の2社が登壇し、kintoneを活用した業務改善の取り組みを紹介した。
山本工機、工程管理表の作成時間を60分から5分に短縮
チームワーク賞を受賞した山本工機は、埼玉県八潮市に拠点を置き、真鍮鋳物、砲金鋳物、アルミ鋳物の砂型鋳造から切削加工、組立、検査までを社内で一貫して手掛ける企業だ。
従業員16人のうち9人をベトナム人の技能実習生と特定技能外国人が占めている。同社が改善対象に選んだのは、受注一覧と生産管理業務だった。
従来利用していた生産管理システムでは、作業実績は確認できるものの、生産予定を確認することができなかった。そのため、システムに入力した受注データをExcelに取り込み、受注一覧の作成や工程管理を行っていた。
しかし、この方法では工程計画を作成する際に重複作業が多く発生していた。また、同一製品でも納期が異なる作業指示書を取り違え、後の納期の製品を先に生産してしまったり、加工内容が異なる製品を作ってしまったりすることもあったという。
さらに、生産計画を事前に確認できないため、現場の準備が直前になり、加工機が停止するケースもあった。工程管理者が不在の場合には生産が滞ることもあり、業務の属人化が課題となっていた。
そこで同社は、kintoneを活用して業務の属人化を解消し、工程管理業務を2人以上が担当できる体制を構築することと、工程管理表の作成時間を20%以上削減することを目標に掲げた。
開発したのは、生産管理システムから出力したCSVデータを取り込み、受注情報や生産予定を確認できるアプリだ。受注一覧表を基盤として、関連するアプリをひも付ける構成とした。
7月2日に開発を開始し、7月26日にはアプリが完成。その後、一部の従業員に利用してもらい、操作性を確認しながら改修を重ね、8月下旬から本格的な利用を開始した。
その結果、工程管理表の作成時間は従来の60分から5分へと大幅に短縮された。また、工程管理業務の担当者も1人から2人に増え、特定の管理者が不在でも業務を進められる体制が整った。
受注状況や生産予定が可視化されたことで、作業指示書の取り違えも防止できるようになり、現場の手待ち時間の解消にもつながったという。
「Excelを全面禁止」にしてkintoneの利用を促進
山本工機の取り組みで特徴的だったのは、kintoneの利用を定着させるため、従来使用していたExcelを全面的に禁止したことだ。
古川氏は、その理由について次のように説明した。
「弊社は16人の会社で、そのうち9人がベトナム人の技能実習生や特定技能外国人です。新しいシステムと従来のシステムを同時に使いながら運用することは難しいため、これまでも一方をなくして新しい仕組みに切り替える方法を取ってきました。今回もExcelを全面禁止にすることで、kintoneに触れてもらい、成功体験につなげたいと考えました」
また、外国人従業員でも使いやすいように、画面には必要な情報だけを表示し、製造番号から情報を検索できる仕組みを整えた。
操作性についても、現場からの意見を反映した。例えば、製造番号を調べてから検索することが負担になるという声を受け、必要な情報を簡単に取得できるように改修。なるべく2回程度のクリックで入力を完了できる設計を心掛けたという。
古川氏は、実際に使い始めた従業員から、Excelより時間がかかる作業や、新たに増えた作業について報告があったことも紹介した。
「そうした声を受けてアプリを改善すると、現場からも、さらにkintoneに取り入れてみようという動きが生まれました。改善活動が次の改善につながっていったのです」
今回の取り組みを通じて、現場の作業が遅れる原因は、必ずしも製造工程そのものにあるのではなく、管理者側の作業や情報共有の不足にもあることが明らかになったという。
今後は、画面表示や入力方法をさらに改善するとともに、口頭や手書きのメモで行っている情報共有についてもデジタル化を進める考えだ。
八廣園は車両・重機の所在を可視化し、年間168万円のコスト削減を見込む
インパクト賞を受賞した八廣園は、埼玉県川口市を拠点に、造園工事や土木工事を中心に事業を展開する企業だ。従業員は42人で、kintoneの利用対象者は閲覧者を含めて約60人となっている。同社が取り組んだのは、複数の現場に点在する車両・重機の所在管理だ。 北澤雅寅氏は、取り組みの目的について、次のように語った。
「単に車両や重機を予約するアプリを作りたかったわけではありません。『持っているのに借りる』をなくすこと、誰でも使える入り口を用意すること、そして現場の入力を経営に使えるデータへ変えることが目的です」
従来、同社では車両・重機を使用したい従業員が、LINE WORKS上で使用する旨を連絡する方法で管理していた。しかし、利用状況を一元的に管理する仕組みがなく、誰が、どの現場で、いつまで使用するのかを正確に把握することが難しかった。 その結果、社内に利用可能な重機があるにもかかわらず、外部からレンタルしてしまうこともあったという。
そこで同社は、車両・重機の利用状況を誰でも確認できるようにし、不要なレンタルを防ぐことを目指した。
7月20日にアプリの開発を開始し、8月20日から一部利用者による試用を開始。現場の声を参考に改修を進め、9月10日に本番運用へ移行した。
導入後は、分散していた情報をkintoneに集約し、現場の従業員が自ら車両・重機の利用状況を確認できるようになった。また、外部からレンタルする前に社内設備の空き状況を確認する業務フローを構築したことで、年間168万円の不要なレンタル費用を削減できる見込みだという。
「社員をシステムに合わせるのではなく、システムを社員に合わせる」
八廣園がアプリ開発で重視したのは、現場の誰もが迷わず利用できる操作性だった。
北澤氏は次のように説明する。
「kintoneの価値は、バラバラの業務を一つのデータにつなげられることだと考えています。そのためには現場の人が使えることが大事です。会社にはスマートフォンが得意な人も苦手な人もいます。新しいシステムに抵抗を感じる人もいます。だから入り口を一つにしませんでした」
具体的には、重機の写真から選択する方法、スケジュールから入力する方法、車両・重機に貼り付けたQRコードをスマートフォンで読み取る方法の3つを用意した。
「社員をシステムに合わせるのではなく、システムを社員に合わせることを意識しました。機能の多さより、現場で迷わない動線を作りました。事務所に戻ってから思い出して入力するのではなく、その場で操作できるようにしました」
また、設備管理番号を共通キーとして、車両・重機のマスターデータと予約・利用履歴をひも付け、設備ごとの利用状況を追跡できるようにした。管理者はダッシュボードで全体の稼働状況を確認できるため、従来のように電話やLINE WORKSの履歴をさかのぼって確認する必要がなくなった。
北澤氏は、アプリの開発を通じて得た気付きについて、次のように振り返った。
「使う人の意見を聞いて直すことも運用の一部だと考えています。アプリを作る前に業務の流れを決めることが重要です。誰が、いつ、何を入力し、その情報を誰が、何の判断に使うのかを先に決める必要がありました。そして、アプリはシンプルであることが一番大事だという結論になりました」
現場のデータを経営判断に活用、次のステップへ
八廣園では今後、車両・重機の利用履歴を経営判断に活用していく方針だ。
具体的には、遊休設備や稼働率の低い設備を可視化し、設備の利用率向上を目指す。また、社内設備の空き状況とレンタル状況を比較することで、不要なレンタル費用のさらなる削減につなげる。
さらに、車検や点検、修理、利用履歴などの情報を組み合わせ、設備の予防保全にも発展させる考えだ。将来的には、稼働率や修理費、リース費用などのデータをもとに、設備の保有、更新、売却、購入、リースといった判断を行える仕組みを構築していく。
北澤氏は、今後の展望を次のように語った。
「現場で入力された情報を会社の判断に使えるデータへ育てていきます。今回の取り組みで、車両や重機の管理は『人の記憶』から『会社のデータ』へ変わり始めました。これからは、そのデータを経営判断に使えるものへ育てていきます」
現場の声を反映した改善がDX成功のカギに
今回の成果共有会で紹介された2社の取り組みには、共通点がある。それは、デジタル化そのものを目的とするのではなく、現場が抱える具体的な課題を出発点としていることだ。 山本工機は、工程管理業務の属人化と情報共有の不足を解消し、作業時間の大幅な短縮を実現した。一方、八廣園は、車両・重機の利用情報を集約することで、不要なコストの削減につなげた。
また、両社とも、アプリを作って終わりにするのではなく、現場の声を聞きながら改修を繰り返し、従業員が使いやすい仕組みを構築し、アプリの利用促進を図っていた点が特徴的だ。
中小企業のDXでは、大規模なシステム投資や専門的なIT人材の確保が難しい場合もある。しかし、今回の事例は、身近な業務課題を一つずつ改善し、その成功体験を積み重ねることが、全社的なDXへの第一歩となることを示している。













