ゲームは不登校の原因なのか、それとも学校に通うきっかけになるのか。ルネサンス高校グループは2018年にeスポーツコースを開設し、競技活動を通じた生徒の成長を支援してきた。
東京ゲームショウ2026のマウスコンピューターブースでは、「ルネサンス高校が証明したeスポーツ教育の力」と題した講演が行われた。登壇したのは、ブロードメディア 代表取締役社長の橋本太郎氏、同社 教育サービス本部の武安克典氏と加藤大智氏、マウスコンピューター 取締役 法人営業本部 本部長の金子覚氏。本稿では、講演からeスポーツを活用した教育の取り組みと、それを支えるゲーミングPCの導入・運用について紹介する。
不登校経験者にも学びの選択肢を、ルネサンス高校がeスポーツコースを開設した理由
ルネサンス高校グループは、「学校のあり方にも多様性が必要」という理念のもと、2006年に株式会社立の通信制高校としてルネサンス高等学校を開校した。開校当初の生徒はわずか2人だったが、2011年にルネサンス豊田高等学校、2014年にルネサンス大阪高等学校を開校し、現在は3校合わせて約1万人の生徒が在籍している。
ブロードメディアの橋本氏によると、同グループが重視してきたのは、従来の学校教育になじめない生徒にも多様な学びの選択肢を用意することだ。その取り組みの一環として、2018年にルネサンス大阪高等学校でeスポーツコースを開設した。
eスポーツコース開設のきっかけは、当時、同校に在籍していた加藤氏から「ゲーミングPCを4台買ってほしい」という提案を受けたことだったという。
開設にあたっては、指導スタッフの確保に加え、授業で使用するゲームタイトルの著作権許諾が課題となった。運営会社のブロードメディアは映像コンテンツ事業を手掛けており、著作権管理に関する知見を持っていたものの、ゲームメーカーからの許諾取得には多くの時間を要したという。
現在、eスポーツコースは全国7拠点に展開し、800人を超える生徒が在籍している。通信制高校の単位取得に必要な科目とは別に設けられた通学オプションコースで、週2回の通学を基本としている。
授業は1日4時間で、そのうち3時間を生徒が選択したゲームタイトルの練習に充てる。残る1時間には、プログラミングや英会話、臨床心理士によるメンタルトレーニングなどを取り入れている。
また、教育手法として「OODAループ学習」を採用している。OODAは、Observe(観察)、Orient(状況判断)、Decide(意思決定)、Act(行動)の頭文字を取ったもので、状況を把握し、判断して行動するまでのプロセスを繰り返す考え方だ。瞬時の判断が求められるeスポーツの特性を生かし、生徒の主体性や適応力を育てることを目指している。
こうした教育が、生徒の進路や学校生活に影響を与えた例もある。
同校の卒業生である武安氏は、高校時代にeスポーツコースでプログラミングを学んだことで視野が広がり、大学で情報系の分野に進学するきっかけになったと振り返った。
一方、加藤氏は、勉強そのものが嫌いだったわけではないものの、全員が同じ内容を同じペースで学ぶ学校教育になじめず、不登校になった経験を持つ。通信制高校という選択肢に加え、eスポーツに取り組めることが進学の後押しになったという。
入学当初は大会で思うような結果を残せなかったが、練習を重ねるうちに成績も向上した。また、フランスで開催された「Japan Expo」では、学校のブーススタッフとして参加し、現地の学生やプロ選手と交流する機会も得た。
eスポーツを入り口に、プログラミングなどの新たな分野への関心や、学校外での交流につながっていることも、同コースの特徴といえる。
高校からeスポーツを始めても全国大会で優勝、競技力だけではない教育の成果
ルネサンス高校グループのeスポーツコースは、全国大会でも実績を残している。高校生を対象としたeスポーツ大会「STAGE:0」では、2025年にVALORANT部門とフォートナイト ゼロビルド部門で優勝。2026年のVALORANT部門では、優勝、準優勝、3位を同校のチームが占め、表彰台を独占した。
橋本氏によると、こうした実績から、同校には競技経験が豊富な生徒が集まっていると思われがちだという。しかし、実際には高校入学後に競技タイトルを始める生徒がほとんどで、入学時点での競技力よりも、その後の成長を重視している。
その成長を支えているのが、上級生や卒業生による指導だ。同校では、卒業後に大学へ進学したOBがコーチとして後輩の育成に関わることが伝統になっているという。
橋本氏は、大会で優勝する生徒だけでなく、中学生や後輩を教える立場に成長した生徒こそ、学校が誇るべき存在だと強調した。競技を通じて身に付けた知識や経験を他者に伝えることも、eスポーツ教育の重要な成果と捉えている。
指導者の選定でも、競技力だけを基準にはしていない。武安氏は、相手が何を理解できていないのかを考え、生徒一人一人の習熟度に合わせて教えられる能力を重視していると説明した。
また、全国に複数の拠点があることも、競技力向上につながっている。加藤氏によると、キャンパス間では授業時間や自由時間を利用して練習試合が行われており、大会が近づくと互いをライバルとして意識し、切磋琢磨する環境が生まれるという。
一方、橋本氏がeスポーツ教育で重視しているのは、競技で好成績を収める生徒を育てることだけではない。
同氏によると、ルネサンス高校グループは開校以来、3万2000人以上の卒業生を送り出してきた。そのうち7~8割は、不登校の経験があるか、学校に通うことが難しかった生徒だという。
橋本氏は、従来の学校教育では学び方の選択肢が十分に用意されていないと指摘する。学校に通えなくなった生徒が、学ぶ意欲そのものを失っているとは限らない。自分の関心に合った学びの場があれば、再び学校に足を運ぶきっかけになるという考えだ。
ゲームと不登校の関係についても、一般的な見方とは異なる認識を示した。ゲームに没頭したから学校に行かなくなったのではなく、学校に行かなくなった結果、ゲームに多くの時間を費やすようになった生徒もいるという。
こうした生徒にとって、eスポーツコースは単なる居場所ではない。好きなゲームに取り組み、仲間と競い合い、技術を高めるという目的があるからこそ、自ら学校に通う動機になる。
橋本氏は、上位25%の優秀な層だけでなく、残る75%の生徒の可能性を引き出すことが重要だと強調した。ゲームをきっかけに学びへの意欲を取り戻し、従来の学校教育では十分に能力を発揮できなかった生徒の成長を後押しすることが、同校の目指す教育の姿だという。
eスポーツ教育を支えるゲーミングPC、G TUNEを249台導入した理由
eスポーツ教育を継続的に実施するうえでは、授業内容だけでなく、競技に適したPC環境の整備も欠かせない。
武安氏は、eスポーツではPCの性能や安定性が競技環境を左右するため、ハイスペックなゲーミングPCが必要になると説明した。ルネサンス高校グループでは、こうした教育環境を支える機材として、マウスコンピューターのゲーミングPCブランド「G TUNE」を採用している。
同校グループが2023~2026年度に導入したマウスコンピューターの機材は、ゲーミングPC249台、モニター115台の計364台に上る。採用拠点は10拠点で、年度ごとの教育環境の整備に合わせて導入を進めてきた。
武安氏によると、G TUNEを採用している理由は、安定した品質に加え、使い勝手の良さや教職員が機材の扱いに習熟していることだという。学校現場では、単に高性能なPCを導入するだけでなく、教職員が継続的に管理・運用できることも重要になる。
こうした学校側の説明を受け、マウスコンピューターの金子氏は、同社の法人向けサポート体制を紹介した。
同社は西日本エリアの修理対応を迅速化するため、2024年に広島県に修理拠点を設置。学校や法人顧客に対しては、専門スタッフによる電話サポートに加え、PC本体や周辺機器の不具合を診断する体制を整えているという。
また、学校へのPC導入にあたっては、年度ごとの予算や機材更新の計画に合わせ、営業担当者が学校側と打ち合わせを重ねている。授業で使用するPCの故障や不具合による影響を抑え、安定した学習環境を維持することが求められるためだ。
マウスコンピューターは、学校へのPC導入に加え、高校生eスポーツ大会「STAGE:0」への協賛も行っている。大会では決勝戦などで使用する機材の無償貸し出しや、優勝校へのゲーミングPC提供などを通じて、高校生の競技活動を支援している。
一方、ルネサンス高校グループは今後、eスポーツコースの全国展開をさらに進める方針だ。橋本氏は、全国各地で同様の教育を受けられる環境を目指す一方、教育の質を維持するためには、指導者の確保や機材の整備、カリキュラムの充実を慎重に進める必要があると説明した。
eスポーツを学びの入り口とする取り組みを広げるには、教育内容の充実だけでなく、それを支える人材やPC環境の整備も重要になる。
余談だが、今年のマウスコンピューターのブースは面積が大きく、ビジネスディと一般公開日で展示物を変更する小技も見せていた。さらにキャンペーンガールも投入しており、大手ゲームベンダーに劣らない華やかさも出していたのが印象的だった。








