ランサムウェアや情報漏えい、不正アクセスによるシステム停止など、国内では大規模なサイバー攻撃が相次いでいる。企業や自治体への被害が広がる中、サイバーセキュリティの重要性はこれまで以上に高まっている。AIにより、どのように脅威の動向が変化しているのか。Google Cloudは10月20日に「Security Summit’26」を開催した。Google Threat Intelligence グループ/チーフアナリストのジョン・ハルトキスト氏による「AIを悪用する脅威、その実態から見えてくるものとは?」をテーマにした講演を紹介する。
AIによって拡大するサイバー攻撃の規模
まず、ハルトキスト氏は「新しい技術の登場で従来の技術とはオペレーションが異なることから、攻撃が活発化している。そして、AIを用いて手法も常に改善している」との認識を示した。
同氏はAIによってもたらされた変化として「規模」「スピード」「高度化」の3点を挙げている。規模については攻撃者の活動量と被害の影響範囲が劇的に拡大し、攻撃者はエージェント型AIやLLM(大規模言語モデル)から150種類以上のセキュリティツール、複数のAIエージェントを自律的に呼び出し制御できるオープンソースのMCPサーバ「Hexstrike AI」などで攻撃サイクル全体を自動化し、世界規模で活動を拡大している。
また、自律的なオーケストレーションへの移行により、最小限の介入でかつてない頻度で甚大な被害をもたらす攻撃が可能になっている。ハルトキスト氏は「結果として、セキュリティチームは対応に追われ、システムへの継続的な探索により脆弱性や設定ミスがすぐさま悪用されることに加え、シグネチャベースの検知を容易にバイパスできるようになっている」と指摘する。
中国の国家支援型脅威アクターによるHexstrike AIやメモリシステムを用いた日本企業への攻撃や、従来は高コストだったマルウェア開発の自動化、北朝鮮におけるAI活用事例など、AIによる攻撃規模の拡大はとどまることを知らない状況にあるという。
AIが攻撃サイクルを加速、脆弱性悪用は数日単位へ
次にスピードに関して。ハルトキスト氏は「不正アクセスや脆弱性悪用の展開が加速し、エージェント型AIは侵入の全プロセスを加速させており、人間によるセキュリティ対策がもはや限界を迎えている」との見解だ。
これまでの「1分で検知、10分で調査、60分で修正」という業界標準が通用しないことに加え、パッチリリースから更新プログラムのインストールまでの間は攻撃者にとって侵入の格好のチャンスになっている。また、ランサムウェア攻撃を行う犯罪者は効率性の面からこうした手法を好んで用いている。
すでに攻撃者は、パッチが適用されていない標的に対して既知の脆弱性を悪用し、大きな利益を得ているという。同氏によると、脆弱性の発見からPoC(概念実証)、そして本格的な悪用へと至る一連の動きは、重大な脆弱性に対して24~72時間と定められている既存のパッチ適用SLA(Service Level Agreement)を完全に無効化するとの見方を示している。
さらに、同氏は「スピードは攻撃者にとってアドバンテージにもなれば、その逆もある。これまでは検知されないために時間をかけて侵害し、侵害が成功したら長期間潜伏していた。しかし、ネットワークを素早く横断したい攻撃者は、侵害したら被害者に侵入を宣言するようになっている。そのため、今後は攻撃者がAIを利用してネットワークを迅速に横断しながら、ランサムウェアなどを仕掛けるということが増えるだろう」と話す。
一例として、クラウド環境への初期侵入後、AI駆動の開発ループとマルチエージェントフレームワークを組み合わせることで、大規模なスキャンや認証情報の窃取を自動化したケースを紹介。従来であれば数週間から数カ月を要した一連の作業が、6時間以内に完了したという。AIは攻撃のスピードだけでなく、その内容自体も変えつつある。
生成AIが生む新たな脅威、日本企業も標的に
最後にハルトキスト氏は高度化について説明した。攻撃者がAIを活用して既存能力を大幅に向上させるとともに、侵入のライフサイクル全体で活動を活発化し、新規参入も加速している。
脆弱性の探索にはコードの脆弱性検出能力が優れているAIモデルを活用し、コンテンツを捏造する能力の向上はソーシャルエンジニアリング攻撃を拡大する大きな武器になっている。さらに、AIモデルが侵入活動の専門的なアドバイスを提供しているという。
脆弱性の探索は、Google自身でも2024年にLLMベースの自律型AI脆弱性探索エージェントである「Big Sleep」がSQLiteに悪用可能なバグを発見している。その後、同社は犯罪目的の攻撃者がAIを悪用して主要ソフトウェアの欠陥を発見したことを報告している。
また、生成AIの進化はソーシャルエンジニアリング攻撃の高度化にもつながっているという。テキストや画像だけでなく、音声や動画を利用したディープフェイクが現実的な脅威となりつつあるほか、自動偵察による標的の情報収集や、多段階のスピアフィッシング攻撃を効率的に展開できるようになっている。
同氏は生成AIの進化によって音声や動画を利用したディープフェイク、自動偵察によるソーシャルエンジニアリング、多段階型のスピアフィッシングなど、従来より高度で巧妙な攻撃が可能になっていると警鐘を鳴らしている。
さらに、ハルトキスト氏は日本がこれまで以上に攻撃対象として狙われやすくなっている点に懸念を示した。同氏は「これまで日本の組織がサイバー攻撃から守られていたのは言語のバリアがあったからだ。日本人でなければ日本語を理解できず、自然な口調で話すこともできなかったが、AIによって解決されてしまった。それが最近の日本におけるサイバー攻撃が拡大している要因だ」と指摘している。
専門的なアドバイスの提供においては、攻撃者はMicrosoft Outlook向けプラグインの署名と、すべてのコンピュータへのサイレント展開やWindowsイベントログにリモートアクセスするためのコード生成などの支援にGeminiを活用しようと試みているという。
ハルトキスト氏は、AIは防御側だけでなく攻撃者側にも大きな変化をもたらしていると指摘する。従来は高度な技術や多くの人的リソースを必要とした攻撃も、生成AIやエージェント型AIによって低コストかつ短時間で実行できるようになりつつある。
特に日本企業については、生成AIによって言語の壁が取り払われたことで、海外の攻撃者にとって狙いやすい標的になっている。一方で、AIは防御の強化にも活用できる技術だ。攻撃の規模、スピード、高度化が進む中、企業には従来型の対策だけでなく、AIを前提としたセキュリティ運用への転換が求められている。






