eスポーツ選手をトップアスリートと同じように科学的に支援する取り組みが始まっている。日本スポーツ振興センター(JSC)のハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)は「ESPORTS LAB」を開設し、脳波や視線、心拍などを計測しながら選手を支援。東京ゲームショウ2026では、HPSCの久木留毅氏とマウスコンピューターの軣秀樹社長が、eスポーツ選手のコンディショニングや科学的支援、PCメーカーとしての取り組みについて語った。

eスポーツ選手も「アスリート」、HPSCが科学的支援へ

2026年9月17~20日に開催された東京ゲームショウ2026に出展したマウスコンピューターは、「【eスポーツの未来を語る】G TUNE × ハイパフォーマンススポーツセンター」と題した講演を実施した。

登壇したのは、日本スポーツ振興センター(JSC)ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)長・国立スポーツ科学センター所長の久木留毅氏と、マウスコンピューター代表取締役社長の軣秀樹氏。eスポーツ選手をアスリートとして支援するHPSCの取り組みや、マウスコンピューターによるeスポーツ支援について語った。

冒頭、久木留氏がハイパフォーマンススポーツセンターの役割を紹介。オリンピックやパラリンピックといったトップアスリートにおけるハイパフォーマンス領域では、ハイスペック環境とテクノロジーの活用が不可欠となっている。

  • 日本スポーツ振興センターハイパフォーマンススポーツセンター長・国立スポーツ科学センター所長 久木留毅氏

    日本スポーツ振興センターハイパフォーマンススポーツセンター長・国立スポーツ科学センター所長 久木留毅氏

アスリートを中心に周辺環境としてフィジカルや栄養、トレーニング、睡眠などのトータルコンディションを引き上げることが重要だ。この知見を地域に展開して社会還元しようとしているが、さらにeスポーツの領域にも広げるという。

HPSCではアスリートの支援や研究を行っており、新たにeスポーツを対象とした「HPSC ESPORTS LAB」を設置した。現在、学術誌やガイドブックによって研究成果の社会還元が行われているが、eスポーツに関しても同様の取り組みを開始。すでにeスポーツアスリートを対象としたトータルコンディショニングガイドブックの計画が進んでいる。

  • HPSCの研究成果は学術雑誌やガイドブック、書籍、ガイドブック等で公開される

    HPSCの研究成果は学術雑誌やガイドブック、書籍、ガイドブック等で公開される

久木留氏は、HPSCによるトップアスリート支援の成果についても紹介した。2001年に国立スポーツ科学センターが開設し、2016年にハイパフォーマンススポーツセンターが設置されたが、グラフを見ると特に冬季大会でのメダル数が右肩上がりに伸びているのがわかる。

  • オリンピックにおけるメダル数が低迷していたが、2001年に国立スポーツ科学センターが開所。他の取り組みもあるのだろうがメダル獲得数は増加している

    オリンピックにおけるメダル数が低迷していたが、2001年に国立スポーツ科学センターが開所。他の取り組みもあるのだろうがメダル獲得数は増加している

支援にはVRも活用。一例として2026ミラノ大会に向けた取り組みとしてコースデータをもとにシミュレーターを作製。部屋にいながらにして滑る感覚を養える。

AIも活用している。例えば車いすラグビーでは、選手の位置やプレー情報の分析をAIで自動化。人手では2週間かかっていた分析をリアルタイムで行い、その場で戦術分析が可能になったという。

ESPORTS LABは現在アジア大会のアスリートと共に支援中。日本eスポーツ協会との連携も2024年からスタートしている。

  • 2026年7月31日に発表された「HPSC ESPORTS LAB」。eスポーツ選手もアスリートとして支援する体制を整えた

    2026年7月31日に発表された「HPSC ESPORTS LAB」。eスポーツ選手もアスリートとして支援する体制を整えた

  • ESPORTS LAB開設前には二回のトライアル合宿を実施。脳波の測定やアイトラッキングなど、通常のプロスポーツチームでは使えない機器も使用している

    ESPORTS LAB開設前には二回のトライアル合宿を実施。脳波の測定やアイトラッキングなど、通常のプロスポーツチームでは使えない機器も使用している

ラボでは、プレイ中の脳波や視線を計測するなど、デジタル機器を活用した研究を進めている。また、普段はオンラインで一人でプレイする選手も、ラボでは選手同士でコミュニケーションを取りながらトレーニングできるという。

「eスポーツの初年度という気持ち」マウスコンピューター社長が語る支援

続いて、マウスコンピューター 代表取締役社長の軣秀樹氏が、同社のeスポーツ支援について説明した。

  • マウスコンピューター 代表取締役社長 軣秀樹氏

    マウスコンピューター 代表取締役社長 軣秀樹氏

軣氏はHPSC ESPORTS LABの開設について、「eスポーツ選手がアスリートの仲間入りができて感動した」とコメント。オリンピック・パラリンピック選手がトレーニングする施設にeスポーツが加わったことを受け、「eスポーツの初年度という気持ち」と語った。

さらに、ラボで得られた研究成果をハードウェアメーカーとして発信することで、eスポーツの発展にも貢献できるとの考えを示した。

マウスコンピューターはeスポーツに対する取り組みとして、初心者向けから上位帯まで幅広い製品ラインアップを装備し、大会やイベントにも積極的に支援している。また、教育分野においてサークル、学部化の動きに協力し、自治体とも連携。さらに競技施設への整備支援、プロチームの支援やコラボモデルと6領域で行っている。

  • マウスコンピューターにおけるeスポーツに対する取り組み。製品開発から、スポンサードまで6分野で行っている

    マウスコンピューターにおけるeスポーツに対する取り組み。製品開発から、スポンサードまで6分野で行っている

具体的には高校向け大会「STAGE:0」への機材提供スポンサーや今年3月に行われたASIA esports EXPO 2026における機材提供を挙げた。このような大会での利用に耐える品質を確保し、アジア大会ではトラブルなく運用できたという。 軣氏は、ゲーミングPCだけでなく、ディスプレイやタブレット、ワークステーションなど幅広い製品でeスポーツを支援できる点も強調した。

  • 高校生が日本一を競う大会「STAGE:0 2026」に協賛

    高校生が日本一を競う大会「STAGE:0 2026」に協賛

  • 愛知で開催されたASIA esports EXPO 2026に機材協賛を行い、ノントラブルで大会を終えたという

    愛知で開催されたASIA esports EXPO 2026に機材協賛を行い、ノントラブルで大会を終えたという

HPSC ESPORTS LABにもG TUNEの機材を提供している。軣氏は「過度に光らない落ち着いたデザインが競技に集中する場に合う」と説明した。

久木留氏は、eスポーツでも基本的なコンディショニングが重要だと指摘する。体重の2%に相当する水分が失われてもパフォーマンスに影響するほか、プレイ前の軽い運動による血流の促進、適切な栄養補給、休憩、十分な睡眠などが良好なパフォーマンスにつながるという。

こうした知見について、今後も科学的根拠に基づく情報発信を進め、安心・安全にeスポーツを楽しめる環境づくりにつなげていく考えだ。

ESPORTS LABに参加した栗原悠輝選手、アジア競技大会で金メダル

9月23日から愛知・名古屋で開催された「第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)」では、eスポーツが正式競技として実施された。講演後の9月26日の「ぷよぷよeスポーツ」では、東京ヴェルディ所属の栗原悠輝選手が韓国の選手を10-2で下し、金メダルを獲得した。栗原選手はアジア大会史上最年少の金メダリストとなった。

7月31日に行われた「HPSC ESPORTS LAB」の発表会には栗原選手も参加し、視線計測や心拍計測、体表面温度測定など、最新機器を備えた練習環境のデモンストレーションを行っていたという[JESU-news:https://jesu.or.jp/contents/news/news-260804/]。

栗原選手もHPSC ESPORTS LABに参加した選手の一人だ。トップレベルのeスポーツ選手が、視線や心拍などのデータを活用しながら競技に取り組む環境は整いつつある。eスポーツ選手を「アスリート」として科学的に支援する動きが、今後どのように広がっていくのか注目される。