福井発の超小型衛星「FUSION-1」が、エッジコンピューティング技術を活用して軌道上での自律観測実験に成功したことを、地元の福井大学と総合繊維メーカーのセーレンが発表。地上から操作しなくても、衛星自身が判断して観測計画を組み立てて実行できることが分かり、同大学では「衛星運用の高度自律化に向けた重要な一歩」としている。
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FUSION-1の外観。地球観測カメラとして、動画カメラ(NanCam)、中分解能カメラ(MRCam)、可視近赤外のハイパースペクトルカメラ(M-HypCam)、広域動画カメラ(WanCam)の計4台を搭載している 出所:福井大学ニュースリリース
この研究では、福井大学と福井テレビジョンが共同開発したAIベースの関心地域抽出ソフトウェアと、アークエッジ・スペースが開発したIoT低電力通信機を組み合わせ、軌道上の衛星へ観測位置をアップロードする仕組みを構築。地上側アンテナの自動追尾機能を活用して観測データを受信するといった、地上側の運用負担を最小化する自律観測フローも確立した。
今回の成果は大学・企業・地域機関が連携した超小型衛星技術の実践的な実証事例であり、福井大学は今後も関係機関と協力しながら、衛星システムの高度化と利用拡大に向けた研究開発を推進していくとのこと。
FUSION-1は、福井県内における衛星開発から運用・利活用までを一体的に進める「FUSIONプロジェクト」の一環で開発された人工衛星。同プロジェクトはセーレンが実施主体となり、福井大学 産学官連携本部の青柳賢英准教授、福井工業大学、福井テレビが連携して衛星開発に携わった。
衛星本体は、東京大学や福井大学、セーレンらが先に共同開発し、軌道上実証実績もある3Uキューブサット「TRICOM 標準衛星バスシステム」がベースになっており、福井大学とセーレンが共同開発したエッジコンピューティングモジュールも搭載しているのが大きな特徴だ。
同衛星は2025年1月15日、米SpaceXのFalcon 9ロケット(T-12)によって約500kmの軌道高度へ打ち上げられ、その後軌道上で、衛星に搭載した4台の地球観測カメラが正常に動作することを確認。現在は、衛星運用技術とデータ処理技術の習得を目的とした地球観測ミッションを続けている。
今回の研究成果は、大きくわけてふたつ挙げられる。
ひとつは、衛星自身が判断して観測計画を組み立てる仕組みを開発したことだ。
電力などの時系列データを基に、衛星上で短期的な将来状態を予測し、観測計画の動的再構成を行うというもので、これによって地上の運用管制局オペレータによるリアルタイム操作がなくても、衛星が自律判断して観測を継続できることを宇宙空間で確認した。さらに、オンボードでの画像処理や画質評価を行う機能もエッジコンピューティングモジュールに統合したことで、効率的に画像取得できたとのこと。
衛星の状態予測では、衛星内部で取得される発生電力やバッテリ電圧などの時系列データを用いて、軌道上で数時間から数日先の電力状態を予測するアルゴリズムを構築。統計的時系列解析モデルのSARIMA(季節自己回帰和分移動平均モデル)を予測手法として適用したという。
もうひとつは、地上側の運用負担を最小化した自律観測フローを実証したことだ。
福井大学と福井テレビが共同開発した、“AIベースの関心地域抽出ソフトウェア”によって、地上で観測位置情報を算出し、それをアークエッジ・スペースが開発したIoT低電力通信機を用いて、衛星へアップロードする仕組みを構築。観測データの受信には、福井工業大あわら宇宙センターの3.9mアンテナに装備されている自動追尾機能を活用する。
地上側のソフトウェアは、ニュース記事などのテキスト情報をLLM(大規模言語モデル)で解析し、災害や社会的関心事象に関連する地域を抽出するというもの。記事内容から観測対象となる地名や位置情報を自動的に推定し、衛星が観測すべき緯度・経度情報として出力して、IoT低電力通信機を通じて衛星へ送信する仕組みとなっている。
今回の実証実験では、上述の技術を用いて「ニュース解析による観測地点選定」、「低電力通信による情報伝達」、 「衛星上での将来状態予測」、 「自律判断およびオンボード処理」を一体化した自律観測システムを構築し、軌道上でその動作を確認することに成功した。
福井大学では、「衛星運用の高度自律化に向けた重要な技術基盤」となる、衛星搭載エッジコンピューティングによる将来状態予測と自律判断技術の信頼性、実用性を軌道上で確認。将来的には多くの衛星による協調観測や、災害対応などへの展開が期待され、人工衛星へのエッジAI技術の実装を加速する基盤技術にもなる、と説明している。
7月10日、日本(福井周辺)。
— FUSIONプロジェクト|FUSION-1 (@FUSIONpFUSION1) August 2, 2025
地元福井の撮影に成功しました!
FUSIONプロジェクトは福井県内の企業、大学が主体となって共同で取り組んでいます。(◎セーレン株式会社、福井テレビジョン放送株式会社、国立大学法人福井大学、学校法人金井学園福井工業大学)#宇宙から見た地球 #福井 pic.twitter.com/8559FX5iMO
近年、急速に普及しているキューブサットなどの超小型衛星には、開発期間の短縮やコスト低減といったメリットがある。地球観測や通信、科学実証など多様な用途に活用され、大学や企業、地域主体による宇宙利用の裾野を拡げることにも寄与している。
しかし超小型衛星は電力や通信容量などのリソースが限られ、より効率的な運用が求められるため、地上の運用管制局が逐次指示を出す運用方式では、効率性や即応性の面で課題がある。
特に地球観測ミッションでは、災害や突発的事象への迅速な対応、複数衛星による協調観測、限られた電力の最適配分など、高度な運用判断が必要とされる。しかし多くの超小型衛星では、観測計画や電力管理を地上側で決定する運用方式が中心。衛星が軌道上で将来状態を予測し、自律判断する仕組みは十分に確立されていないという。
福井大学では、衛星数の増加やコンステレーション化が進むなかでは、運用を地上に依存する従来方式から、衛星自身で判断する「自律型運用」への転換が欠かせないと指摘している。
FUSION-1では今後、将来状態予測アルゴリズムの高度化や対象パラメータの拡張を進め、より複雑な運用条件下でも安定して自律判断が可能なシステム構築をめざす。将来的には、複数の衛星による協調観測や、災害対応への展開が期待され、人工衛星へのエッジAI技術の実装を加速する基盤技術にもなるとしている。



