群馬大学(群大)と海洋研究開発機構(JAMSTEC)は3月31日、水産加工で生じる副産物であるカニ殻を活用することで、海洋生分解性プラスチックの一種である「ポリ((3-ヒドロキシブタン酸-co-3-ヒドロキシ吉草酸))」(PHBV)表面への微生物の初期付着を抑制し、さらにPHBV分解に関わる酵素「exPhaZ」をコードする遺伝子の発現も初期段階で低下することで、PHBVの海水中での分解速度を調節できること、つまりPHBVの分解を遅延させて材料の実使用寿命を延長できる可能性があることを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、群大大学院 食健康科学研究科/群大 食健康科学教育研究センターの粕谷健一教授、同・鈴木美和講師、同・Soulenthone Phouvilay助教、同・橘熊野教授、群大大学院 理工学府の津久井創大学院生(研究当時)、JAMSTEC 超先鋭研究開発部門の石井俊一主任研究員、同・鹿島裕之准研究員、同・石谷佳之特任研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、高分子の劣化と安定性を扱う学術誌「Polymer Degradation and Stability」に掲載された。
そこで研究チームは今回、カニ殻が海洋中でPHBV表面に形成される微生物群集(プラスティスフィア)に影響を与え、結果として分解速度を調節できる可能性を考察。海洋で生分解しやすいPHBVを対象に、その分解制御メカニズムの検証を行ったという。
カニ殻はキチン、タンパク質、無機物から構成され、強固な構造を持つ一方で、高い海洋生分解性を示す身近なバイオマス資源だ。今回の研究では、PHBVフィルムを海水タンク内に設置し、カニ殻と直接接触させた条件と、同じタンク内に置きながら直接は触れさせない条件とで比較が行われた。その結果、いずれの条件においても、カニ殻がない場合と比較すると、PHBVの分解は明らかに抑制されることが判明した。
重量減少の測定では、カニ殻と共存させたPHBVは、1~4週間の重量減少量がPHBV単独の場合の8~20%にとどまり、8週間後でも52%だった。また、PHBV表面に形成されるバイオフィルム量も、PHBV単独の19~61%まで低下することが確認されている。
電子顕微鏡による観察では、通常のPHBVでは浸漬1週間後から表面に穴や侵食構造が現れたが、カニ殻共存条件では4週間までは大きな変化が見られず、表面劣化の進行が遅れていることが確かめられたとする。さらに、カニ殻がPHBVに直接触れていなくても初期分解が抑えられたことから、この効果は単なる物理的な遮蔽ではなく、カニ殻由来の化学的・生物学的作用によるものであることが推察された。
また、16S rRNA遺伝子解析、メタゲノム解析、メタトランスクリプトーム解析の結果、通常のPHBV単独の表面ではOceanospirillumやBowmanellaが優勢だったのに対し、カニ殻共存条件ではMarinobacterなど、別の微生物群が優勢となることも突き止められた。さらに、PHBV分解に関与すると考えられる酵素であるexPhaZ遺伝子の発現は、カニ殻共存条件の初期段階で抑制されていることが判明。これは、カニ殻由来のキチンやタンパク質が微生物にとって利用しやすい栄養源となり、微生物がPHBVを優先的に分解しなくなったためと考えられるという。
今回の成果は、水産副産物を利用して海洋生分解性プラスチックの寿命を設計するという、新たな材料設計の可能性を示すものである。将来的には、海洋用途のプラスチック製品において、「必要な期間は性能を維持し、その後に分解する」という機能設計への応用が期待されるとしている。
