ブリヂストンの「パンクしないタイヤ」戦略、宇宙探査車まで広がる用途開発

カートでの実証は国内初の事例

 

「『AirFree』は2008年から開発を続け、第3世代まで進化。パートナーとの実証を通じて社会実装を目指している」─こう話すのは、ブリヂストン新モビリティ事業部門長の太田正樹氏。 

 2026年3月5日、ブリヂストンは東京都杉並区と、カート型車両「グリーンスローモビリティ」に同社が開発している次世代タイヤ「AirFree」を装着した実証実験を開始した。 

 この「AirFree」は、通常のタイヤと違って、空気の代わりに側面のスポークで荷重を支えている。そのためパンクをせず、「移動を止めない」という大きな特徴を持つ。 

 また、スポーク部分が樹脂のためリサイクルが可能で、路面に接するゴム部分の貼り替え(リトレッド)することができ、資源の効率的な活用、脱炭素、サーキュラーエコノミー(循環経済)にも貢献できる。 

 ブリヂストンと杉並区は26年2月に「AirFree」とグリーンスローモビリティに関する連携協定を結んでいた。「AirFreeの提供価値は、小型、低速、低炭素なグリーンスローモビリティとの親和性が非常に高い」(太田氏)として、今回の公道実証実験に至った。 

 杉並区は21年にグリーンスローモビリティの試乗を開始、24年に本格運行を開始した。荻窪駅西口から出発し、大田黒公園、荻外荘公園といった多くの人が訪れるスポットなど2.5キロを走行する。電気で走行することから環境に優しいことがメリットとされる。 

 杉並区都市整備部交通企画担当課長の石森健氏は「運行から1年が経過し、想定を上回る利用となっているが、利用を伸ばしていくために、利便性の向上を図っていかなければならない」と話す。 

 区として、今回の実証実験では、リサイクル可能な素材で資源の有効活用や廃棄物削減に寄与すること、パンクしないことで運行の継続性が高まること、青いホイールにより視認性が向上し、安全運行の確保につながるといった効果を期待して、実証実験への協力を決めたという。 

 ブリヂストンは25年11月に富山市で全国で初めて、バスタイプのグリーンスローモビリティでの公道実証実験を実施した経験を持つ。今回は全国初のカートタイプでの実証であることに加え、都市部ならではの走行環境、密な運行スケジュール、多くの利用者という形で、負荷のかかる状況での実証となる。 

 なぜ、「パンクしないタイヤ」が求められているのか?それは、パンクや空気圧の低下で車両が動けなくなるという事態は、地域交通などの運行で大きな課題の一つ。特に、高齢化や人手不足が進んでいる地域では、日々の点検やメンテナンスに割ける人的資源も限られており、運行の安定性を確保する上でも解決が求められている。 

 そのため、今回の実証ではタイヤの性能だけでなく、実際に運行する杉並区、運行事業者のオペレーション、メンテナンスがどれだけ効率化されたかといったことの検証も行う。 

 ブリヂストンは26年、つまり今年、この「AirFree」を社会実装するという計画をすでに公表している。その意味で、今進行中の実証実験は、非常に重要な意味を持つ。 

「社会実装については、今実証実験の提携を進めている皆さんと提供価値を確認させていただき、メリットを確認させていただいて、グリーンスローモビリティを皮切りに拡大していきたい」と太田氏。 

 さらにその先は、グリーンスローモビリティにとどまらず、さらに広くビジネスモデルを探求すると同時に技術を磨き、事業として大きくすることを目指す。すでに、空気を必要としないという特徴を生かして、このAirFreeのコンセプトをベースに、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とトヨタ自動車などが共同で開発を進めている有人月面探査車用のタイヤ開発も担っている。 

 それ以外にも身近なところでは、ルートの決まった地域の配送車両や工場内の無人搬送車、観光地の低速モビリティといった活用が見通されている。 

 本格的な社会実装に向けてクリアすべきは、まずは技術面。ブリヂストン探索事業AirFree開発推進部長の岩淵芳典氏は「今回はグリーンスローモビリティということで20キロ未満での走行だが、並行して進めている開発では公道での最高速度60キロで走ることができるステージまで来ており、さらにもっと速く、重くという方向で技術開発をしている」と話す。 

 コスト面も、従来のタイヤよりも高いため、これをどう乗り越えるかも課題。ただ、AirFreeはパンクをしないため、長期間の使用が可能になる。「長く、繰り返し、ずっと使っていただくことがコンセプト。長く使っていただくことによるコスト削減という視点も入れて、ビジネスモデルと併せて取り組んでいく」(岩淵氏) 

 このビジネスモデルの構築は重要。仏ミシュランもパンクしないタイヤを開発し、市場に投入した経験を持つが、使った後のメンテナンス体制などの「仕組み」が構築できずに浸透させられなかったという経緯がある。 

 その意味で、タイヤの技術開発だけでなく、その価値を認める事業者などといかに連携していくかが、今後の課題となる。