名古屋大学(名大)は3月27日、「単層カーボンナノチューブ(SWCNT)薄膜透明電極を用いたペロブスカイト太陽電池」(CNT-PSC)の社会実装に向けた大面積・長期耐久性実証実験を、大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)本社にて2026年3月から約1年の予定で開始したと発表した。

  • CNT-PSCの模式図

    CNT-PSCの模式図。下部のITO透明電極と上部裏面のSWCNT薄膜透明電極により、両面受光・半透明構造が実現されている。(出所:名大プレスリリースPDF)

実証実験は、名大大学院 工学研究科の松尾豊教授(名大 未来社会創造機構 マテリアルイノベーション研究所兼務)、同・上岡直樹助教、同・大島久純特任教授らの研究チームとOsaka Metro、デンソーの3者によって開始された。

屋内外の光で発電! 発電効率と耐久性の両立を目指す

ペロブスカイト構造を有する有機無機ハイブリッド材料を発電層に用いたペロブスカイト太陽電池は、軽量かつ柔軟で、従来のシリコン太陽電池に匹敵する高い変換効率を実現可能だ。日本発の次世代太陽電池技術として期待される一方、少量ではあるものの有害な鉛を含む点に加え、金属電極の腐食や金属拡散による劣化が生じやすいなど、耐久性が課題となっている。

SWCNTは、炭素原子が六角形格子を形成して筒状になったナノ材料で、高い電気伝導性、機械的強度を兼ね備える。炭素原子のみで構成されるため化学的に安定しており、酸化や腐食を起こしにくいことも特徴である。直径1~2nm程度のSWCNTをネットワーク状に形成して薄膜化することで、高い導電性と光透過性を両立した透明電極を形成することができるという。

名大の松尾教授らはこの特性に着目し、同材料を用いた薄膜透明電極を開発。ペロブスカイト太陽電池の裏面電極として適用してきた。裏面電極とは、太陽電池の裏側に配置される電極のことで、発電層で発生した電流を収集する役割を担う重要なコンポーネントだ。通常は金属や炭素材料などが使用され、安定性や電気伝導性、コスト優位性のすべてが求められる。

CNT-PSCはこれまで、段階的に実証研究が進められてきた。2024年12月から2025年10月にかけては、Osaka Metroが運営する「e METRO MOBILITY TOWN」において、CNT-OPVの10cm角の実験用セミモジュールを引退した地下鉄車両の窓部に設置し、約1年間の耐久性実証実験を実施。その後、このCNT-OPVはOsaka Metroに移設され、現在も長期延長試験が継続中だ。さらに2025年3月からは、名大内の「シアトルエスプレスカフェ」においては、CNT-PSCの10cm角セミモジュール1枚を用いた先行実証実験も行われている。

これらの実証実験では、屋内外の光が混在する実環境下において行われているが、CNT-PSCは安定した発電挙動を示しており、両面受光型・半透明ペロブスカイト太陽電池としての実用的な耐久性が確認された。これらの成果を踏まえ、今回の実証実験では、設置枚数を27枚まで大幅に増やし、10cm角セミモジュールによる1年間の長期・大面積評価を通じて、CNT-PSCの社会実装に向けた信頼性データの取得を目指したという。

  • 10cm角のCNT-PSCセミモジュールの外観

    10cm角のCNT-PSCセミモジュールの外観。屋外からの太陽光だけでなく、室内照明などの微弱な光環境からの発電可能な両面受光型太陽電池として機能する。(出所:名大プレスリリースPDF)

今回の実証実験で用いられているCNT-PSCは、下部透明電極にITO(酸化インジウムスズ)電極、上部裏面電極にSWCNT薄膜透明電極を採用した独自構造を持つ。半透明構造を有した両面受光型であるため。窓に設置した場合は屋外からの太陽光だけでなく、室内照明などの弱い光からも発電が可能だ。

またCNT-PSCは、金属電極型と比較して意匠性に優れ、SWCNT電極側から見ても電極が目立たず、背後の景色を視認できる。発電効率は金電極を用いたタイプに比べて若干低いものの、光の入射面を反転させても同等の発電性能を示すことが確認されている。

耐久性についても、SWCNTのπ電子共役構造によるラジカル種や活性酸素を消去する効果を発揮し、劣化抑制に寄与するという。加えて高い電子伝導性により、薄膜でも効率的な電荷輸送を実現。さらに、柔軟性に優れているため、フレキシブル基板や曲面への適用も期待されている。

今回のCNT-PSCでは、SWCNT電極が正孔捕集電極として用いており、名大で独自に設計・合成したフラーレン誘導体が正孔ドープ材料として適用することで、導電性と安定性が高められた。さらに、発電層のペロブスカイト材料は、名大が独自開発したオリジナル材料を採用し、高い光電変換特性と耐久性の両立が図られている。

SWCNT薄膜透明電極は、貴金属である金や銀を用いず、また原理的にはレアメタルであるインジウムを含むITO電極を代替えできる可能性もあるため、資源価格の高騰や経済安全保障の観点からも極めて有望な電極といえる。CNT-PSCは、耐久性の向上、軽量化、透光性、両面受光性を同時に実現し得るポテンシャルを秘めているとする。特に、室内光と屋外光の双方で発電可能な特性は、建築物の窓面や都市インフラへの調和、モビリティ分野など、従来の太陽電池では困難だった用途の展開を可能にするという。

研究チームは今回の取り組みにより、将来的には駅施設や車両、都市空間への太陽電池の設置可能性を検討するための基礎データの取得を目指すとしている。