NTTは3月27日、無線環境に設置することで電波の伝搬を制御する、世界最薄の液晶層を有する「透過型メタサーフェスデバイス」を実現し、透過電波の方向や集光位置の可変制御に成功したと発表した。
同成果は、NTT 先端技術総合研究所によるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のエンジニアリングを扱う学術誌「Communications Engineering」に掲載された。
窓ガラスへの適用で無線サービスエリア拡大にも期待
2030年代の実用化が想定される第6世代移動通信システム(6G)は、AIや自動運転などの自律デバイス、ものがネットワーク化されるIoT社会を裏側で支えるインフラとして期待されている。その超高速無線通信の実現に向け、広帯域を利用可能なFR3帯(7GHz~24GHz)やサブテラヘルツ帯(100GHz~300GHz)の電波利用が議論されている。
しかし、一般的に周波数が高くなるほど電波は直進性が強まり、遮蔽物の影響を受けやすくなる。特に、屋外から屋内への伝搬は窓などに限られるため、電波の届かない不感地帯が形成されやすい点が課題だ。そこで、薄型の面状デバイスであるメタサーフェスを用い、電波を必要な場所に誘導する「RIS(再構成可能なインテリジェントな反射面)技術」への期待が高まっている。窓ガラスに設置したデバイスにより屋内の電波環境を改善する手法は、すでに有効性が実証されている。
メタサーフェスによる動的な制御法としては、半導体材料や機械的な機構と組み合わせる手法などがある。中でも液晶を用いた方式は、ディスプレイ用途で大面積製造技術が成熟している点で極めて有望だとされる。そこで今回の研究では、液晶方式の課題を克服し、高周波数体でも動作する新しい透過型デバイスの開発に取り組んだという。
従来の液晶メタサーフェス構造は波長に応じて必要な液晶厚みが変わるため、光と比べて波長の長い電波帯では厚い液晶層が必要となり、大面積での製造が困難という課題があった。さらに、液晶は厚膜化に伴い応答速度が低下する性質があるため、デバイスの動作速度も制約されていた。
こうした中、NTTは基地局から電波が直接届かない場所に対し、空間に設置した大面積デバイスにより移動端末を追従する技術の確立に向け、液晶方式による新たな「透過型メタサーフェスデバイス」の研究開発を進めてきた。このデバイスは、液晶への電圧印加により透過電波の方向を電子的に変更できる点が特徴だ。今回の研究では、FR3帯やサブテラヘルツ帯といった高周波帯においても、極めて薄い液晶層で動作するメタサーフェス構造の実現が目指された。
従来の構造は2層の共振器で液晶層を挟むため、薄型化すると「磁気的な共振の閉じ込め効果」によって共振特性が劣化する課題があった。そこで、液晶分子の配向変化による制御を最大化するため、電気的な共振を用いることで、液晶層に局所電界が集中する新たな共振器構造が創出された。これにより、液晶厚みを周波数と独立して設計することが可能となり、FR3帯からサブテラヘルツ帯までの各周波数帯で世界最薄の液晶層が実現された。
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透過型液晶メタサーフェスにおける電波の周波数と液晶厚の関係。従来は、液晶厚が波長の0.02%であったのに対し、今回は0.002%以下と、従来の10分の1以下の薄型化が達成された。(出所:NTT Webサイト)
また、制御配線を含めた構造を1種類の導電材料で構成しようとすると、二次元的に張り巡らされた配線が高周波と共振器の結合を阻害する問題があった。そこで今回は、メタサーフェスを導電率の異なる2種類の導電材料で構成する手法が採用された。これにより、二次元配線を用いても高周波信号が共振器構造のみと結合し、透過電波の二次元制御が可能となるというわけである。さらに、配線を含めて回転対称構造に設計できるため、垂直・水平の両直線偏波への対応も実現された。
これら2点の技術により、透過型メタサーフェスの液晶層として、従来の10分の1以下となる世界最薄の3.5μmが達成された。この構造を用い、サブテラヘルツ帯(115GHz)において透過型液晶メタサーフェスが試作された。
試作デバイスに対し、サブテラヘルツ帯の電波を入射し、目的とする伝搬に応じた制御信号を入力して透過波の信号強度が評価された。その結果、透過波の方向および集光位置の可変制御を設計通りに実現できることが確認された。また今回の構造は、素子間隔を波長の8分の1以下に抑えられており、従来のアレーアンテナでは困難だった複雑なビーム形状の形成も可能になったとしている。
今回はサブテラヘルツ帯で試作されたが、液晶厚みを周波数設計から切り離した構造であるため、例えば10GHz帯(FR3帯)においても同様に3.5μmの厚さで設計・製造が可能だという。将来的には、可視光に対して透明なデバイスとして作製し、景観を損なわずに窓ガラスなどへ設置して電波を自在に制御することが期待されるとした。
今回の技術は、遮蔽物の影響を受けやすいエリアへ電波を届けることで、基地局の追加設置に比べ、低コスト・低消費電力で6Gエリアを形成できる可能性がある。今後は、実環境・実システムを通した応用検討を進めると共に、さらなる高機能化や高性能化、ユースケースの拡大を目指すとしている。


