
土居丈朗・慶應義塾大学経済学部教授
高市政権の政策を見ると、反対の少ない成長戦略は今後加速していくものと思われる。そのことは株価にも反映している。
ただ、「食品消費税ゼロ」、つまり消費税減税については、選挙をもって信認を得たと捉えるべきではないと考えている。実際、同じく消費税減税を掲げた中道改革連合は支持を得られなかった。この要望は、これまで続いた消費税にこだわる姿勢に対するアンチテーゼなのだろう。
物価高対策には逆行するものだと考える。需要が喚起されるため、物価は上昇する方向に向かうだろう。2年間限定ということだが、2028年7月には参議院議員選挙を控える中、本当に戻せるのか。
しかも、仮に8%の税率を一気にゼロにすると、税込み価格は7%ほど下がるが、元に戻すということは7%ほど物価が上がるということになる。今の物価上昇率ですら耐え切れない人がいる中で、その上昇に耐えられるのかというと疑問だ。
高市政権は「責任ある積極財政」を掲げているが、当初予算は国債発行額が30兆円を下回る形でまとめ、公債依存度は25%を割る水準まで下げている。その意味では財政健全化に一定程度配慮したものになっている。これを維持するのであれば、高市政権の予算を評価したい。
秋にまた大型補正を組む可能性はあるが、高市政権は補正予算に頼らず、当初予算で財政運営をしていく方針も掲げており、大型補正を組めばその方針を否定するものになるため、首相の姿勢が試される。
併せて、予算編成のあり方を複数年度とすることも検討されているが、これは1つの考え方。次の選挙は28年という状況で、3年先を見渡した中で、予算を財源とセットで、各政策分野で組んでいく。これによって予見可能性は非常に高まる。
財政をルーズにするために複数年度にするのではないということが重要。複数年で収支を締めることが根本的な目的だということは忘れてはいけない。
積極財政で日本の財政の持続性を危ぶむ見方は市場にあり、1つ間違えれば道を踏み外してしまう可能性はあるので、極めて注意深く取り組む必要がある。例えば政権内から「国債はいくらでも増発できる」、「60年償還ルールを変えよう」といった発言を一言してしまうと、日本政府は国債を真面目に返済する気がないと連想させてしまい、国債の売り材料になる。その意味でも、これまで以上に発言等には慎重さが求められる。
消費税減税は社会保障との関係で言えばこれまでの議論の蓄積を台無しにしてしまうことになる。自民党、官庁、財界、労働界には大筋で「社会保障と税の一体改革」への共通認識がある。消費税を軸に社会保障財源を調達し、必要な改革をやり、現役世代の社会保険料負担を軽減する方策を考えることが大事。決して「奇策」はない。寄り道をせずに「給付付き税額控除」の制度設計を急ぐべき時だ。
