アイシンは3月25日、同社の「ものづくりDX」に関する取り組みについての説明会を開催。同社が進める製造領域のデジタルトランスフォーメーション(DX)の全体像と、その中核となる取り組み状況についての紹介を行った。
属人化を乗り越えるためのDX
アイシンがものづくりDXに取り組む背景には、製造現場が抱える構造的な課題がある。従来のものづくりは、技術者や技能員の経験や勘、いわゆる「暗黙知」に大きく依存してきた部分が大きい。その結果、工程や作業方法が属人化し、個々人によって同じ作業であってもやり方にばらつきがあったり、データの不整合が生じたり、その結果、ミスや遅延などが発生しても、その原因の調査と解決に時間がかかるといった問題が生じていた。
同社はこうした課題に対し、単なるツール導入ではなく、「製品ライフサイクル管理プロセス全体の再設計」が不可欠だと判断し、暗黙知を言語化することで標準化し、それをデータとして蓄積することで、仕組みとして回るプロセスへの変革を目指してきたという。
DXを支える中核基盤「CPIF」
同社がものづくりDXの中核として据えているのが、生産現場から収集したデータをサイバー空間に蓄積・再現。そのデータにシミュレーションや分析を加えた結果を生産現場に反映することをコンセプトとする「Cyber Physical Information Factory(CPIF)」。
CPIFは、工場内のヒト・モノ・設備のログや生産データをIoTで収集し、サイバー空間上に工場を再現しようというもので、現実の生産ラインとデジタル空間を双方向につなぐことで、事前検証や改善サイクルを高度化していくことを目指している。主にIoTでデータを収集する「収集層」、データを蓄える「蓄積層」、目的に応じてデータを抽出し、加工・分析を行う「活用層」から成る情報基盤として構成され、情報を一元化することで、従来は分断されがちだった各システム間の連携を可能にする。情報の再利用性が高まり、新たな目的への活用も容易になる点が特徴だといえる。
独自BOPによる工程設計情報の一元管理を推進
CPIFを支える基盤の1つが、独自開発の「ものづくり情報データベース(ものづくり情報DB)」(独自BOP)となる。BOP(Bill of Process)は、製品や部品がどの工程・設備・条件で生産されるかを定義する工程表であり、ものづくり情報DBは、工程マスタDBや設備DB、組立情報DBなど標準化された構造で蓄積される各種DBを構築し、それを技術の棚として活用することで、部門や拠点を越えた情報共有を可能とし、属人化の解消や暗黙知のデジタル資産化するのと同時に、設計品質の向上などにもつなげることを可能とするものだという。
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「ものづくり情報データベース(ものづくり情報DB)」(独自BOP)のイメージ。さまざまなデータベースを標準化された構造で蓄積。部門や拠点を越えて、そこにアクセスする形で技術の棚として活用することで、設計品質の向上などを図ることができるようになる
仮想空間での事前検証と生産準備の高度化
ものづくりDXのもう1つの柱が、製造設備や生産ラインのデジタルモデルを仮想空間で再現し、実際の設備やラインと同様の動作やロジックを実際の製造前にシミュレーション上で検証を行う「バーチャルコミッショニング/シミュレーション」の活用となる。
いわゆるデジタルツインの活用であり、例えばパワートレイン用eAxleユニットの機種追加生産準備をデジタル上で実施したところ、従来は6か月かかっていたものを3か月へと半減させることができたとするほか、生産技術者1人あたりの労働生産性は3倍に向上したともする。
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バーチャルコミッショニング/シミュレーションの例。実世界での稼働の前に仮想空間で設備を稼働させることで、課題の洗い出しを先行して行うことができ、従来は6か月かかっていた準備期間を3か月に短縮することができたとする
管理監督業務の変革と今後の展望
さらに、CPIFを活用した生産情報の可視化やペーパーレス化などといった工場の管理監督者の働き方改革も推進しており、ヒト、モノ、情報をリアルタイムで相互につなげた生産管理業務の効率化も推進しているという。
同社は、ものづくりDXについて、「完成形」ではなく、進化し続ける取り組みと位置付けている。今後は、ライン全体をバーチャル空間でつなぎ、設備間のインターロックの信号タイミングばらつきなども含めた検証や、実際の設備などからリアルタイムでデータを受け取り、デジタルで再現するデジタルシャドーへと発展させていき、デジタルツイン工程解析ツールへの進化を目指すとしている。さらなる将来では、デジタルによって人の力を最大化するものづくりに向けて、AIエージェントの活用により、人とAIが協調して生産準備やライン改善を行う世界の実現を目指すともしており、人が主役であり続けるアイシンのものづくりを次世代へと継承・進化させていくことを目指すとしている。


CPIFの今後の方向性。デジタルツインをライン全体に拡張して、設備の稼働バラつきまで含めた検証や、現実の設備の稼働データをリアルタイムでバーチャル上に反映したりすることで解析の向上などを図っていくとしている
参考文献
現実世界と仮想世界を融合 DXで実現する、新しいものづくり(アイシン/AI Think)
DXで変わる生産、変わる人材(アイシン/AI Think)
工場をまるごとバーチャル化する「Factory View」って、なんだ?(アイシン/AI Think)


