こんにちは! 科学コミュニケーターの丸山です。

私がサイエンスコミュニケーターとして地球深部探査船「ちきゅう」に乗船した記録の3本目のブログとなります。

今回は、「ちきゅう」の中でも欠かせない存在「ラボを支える人と装置たち」をご紹介します。

 

「ちきゅう」の大きな役割のひとつが「コアサンプル」を採ることです。コアサンプルとは、海底の地面の中を円柱状にくりぬいて取り出した、地球の断面標本のこと。たとえば、ケーキをストローで刺して抜くと、中のクリームやスポンジの層がそのままとりだせて、見ることができますよね。コアサンプルもそれと同じように、地層を縦にまるごと取り出したサンプルです。地球の歴史や地震の記録、深部にいる生命など、さまざまな情報を知るための大切な手がかりになります。

コアサンプル

掘ったその場で分析!

「ちきゅう」には、採取したコアサンプルをすぐ分析できるように、船内にラボ(研究室)があります。ラボの中には、コアを観察したり成分を分析したりするためのさまざまな装置が並んでいます。ラボに並ぶ装置を動かし、研究者を支えているのが、ラボテクニシャンと呼ばれる専門スタッフです。

ラボの要・ラボテクニシャン

今回は、「ちきゅう」のラボを支える方の一人、ラボオフィサーの守屋 聡一(もりや そういち)さんにお話をうかがいました! 守屋さんに丁寧に教えていただいた装置を、みなさんにご紹介しますね。少し長いですが、「ちきゅう」のラボを探検する気持ちで読んでみてください。

ラボオフィサーの守屋さん。いつも明るく10人ほどいるラボテクニシャンのみなさんをまとめています。

CTスキャン

採取されたコアサンプルは、まず壊さずに分析する「非破壊分析」が行われます。その第一歩がCTスキャンです

CTスキャンと聞くと病院の検査を思い浮かべるのではないでしょうか。なんと「ちきゅう」には、医療用のCTスキャンがあります。科学掘削船でCTスキャンがあるのは、「ちきゅう」だけです。

「ちきゅう」のCTスキャン装置。人ではなくコアサンプルを測定する専用台があります。

X線を照射し、コアサンプルを輪切りにしたような画像を作ります。密度が高いところは白く、低いところは黒く見えます。この画像を見て、次にどんな作業をするか、どこで切るかを決めます。コアサンプルがまるで病院で「初めの診断」をされているようです。

コアサンプルのCT画像。真っ黒なところは空気です。

COMET(Core Measurement Track)

次も非破壊の分析です。その名もCore Measurement Track略してCOMET。この装置では、コアサンプルの地震波の伝わる速さ、磁気の強さなど、いろいろな性質を調べることができます。

COMET。COMETは、コアサンプルの様々な性質を測るセンサーを一直線に並べた装置です。これら全体をまとめてCOMETと呼びます。
COMETで測定できること
  • 地震波伝搬速度

地震によって放射される地震波には、最初に観測されるP波と、続いて観測されるS波があります。そのなかでもP波が伝搬する速度を測ります。コアサンプルにエネルギーを加えて、どんなスピードで反対側に伝わるかを調べます。コアサンプルに含まれる成分によってP波の伝わる速さが変わるので、地層の性質を知るてがかりになります。

  •  ガンマ線透過密度

放射線であるガンマ線を照射してコアサンプル密度を測ります。密度が高いところほどガンマ線が通り抜けにくく、低いところほど通り抜けやすいです。CTと同じような分析で、CTでは密度が画像で表現されますが、ガンマ線透過密度では正確な数値として測れます。

  • 電気伝導度

コアサンプルの電気の通しやすさを測る装置です。電気の流れやすさで、その中に電気を通す物質がどれほど含まれているかがわかります。

  • 帯磁率

コアサンプルの中が、どのくらい磁石の性質の性質を帯びているのかを測定します。この値は、なかに含まれる鉄やニッケルなどの量や比率、粒の大きさによって変化します。そのため、コアサンプルが海底に堆積したときの環境の変化を示すデータの一つとして扱われます。

  • 自然ガンマ線強度

コアサンプル中の堆積物に含まれる放射性物質から発せられる自然ガンマ線の強度を測定します。たとえば、カリウムという元素はガンマ線を出します。カリウムは地中だけでなく、私たちの体の中にも含まれている、ごく身近な元素です。地球上に存在するカリウムの多くは、地球が誕生したときに発生したものです。そのため、地層中のカリウムが放出するガンマ線を測り、カリウムの量を調べることで、その地層が地球誕生からどれくらい後につくられたものなのかを知る手がかりになります。

半裁機

円柱状に採取されたコアサンプルを縦半分に切り、半円柱(半月柱)の形にする装置です。切ったコアは、

・ワーキングハーフ(分析用)

・アーカイブハーフ(記録・保管用)

2つに分かれます。コアの硬さによって最適な切り方が異なるため、切断方法も工夫されています。やわらかいコアは、地層が乱れないように床と水平に切りワイヤーで切ります。これは多くの研究者や技術者が試行錯誤した結果、もっとも表面をきれいに保って切れる方法だからです。一方で、石など硬いものが入っているコアサンプルは、上からバンドソーという電動ノコギリで切ります。刃の先端には硬い人工ダイヤモンドが埋め込まれており、それでこすって切ります。このように、サンプルの状態に応じて切り方や道具を使い分けることで、貴重なコアサンプルを良い状態で研究できるように工夫がされているのですね。

半裁機。コアサンプルは長さが1.4 mずつに分割されてくるので、それが入るように大きな装置になっています。

半円柱状に切られたコアは、机にずらっと並べられます。ワーキングハーフからは研究者によりサンプリングが行われます。研究者はこのサンプルが欲しい! というところに旗を立てます。

準備されている旗たち。CTやCOMETの結果を見たり、現物を見て判断して欲しいサンプルに旗を立てていきます。

アーカイブハーフは、研究者が目視で色や模様を記録するコア記載に使われます。色は共通の基準が定められており、「土色帳」という色見本を使って表現を統一します。これにより、誰が見ても同じ色をとして比較できるようになります。

コアサンプルの表面は時間がたつと、酸化してだんだん色が変わっていくため、速やかに採取直後の状態を残すことが重要です。そのため、観察してスケッチをしたり、高画質な写真を撮ったりすることで、採取したての状態を記録として残します。守屋さんいわく、コアサンプルは “生もの”なんだそう。変化してしまう前に、素早く記録を残すのが大事なのですね。

土色帳。ページごとに少しずつ色が変わる見本帳なので、前のページと次のページが同じ色に見える……などと私は思いました。色サンプルをコアサンプルの横に並べて見比べながら色を記録する研究者もいます。

超電導磁力計

帯磁率測定と同じように、コアサンプルが記録している昔の地球の磁場を測ります。帯磁率測定と異なるのは、3軸の磁気を測れること。これは地質科学において重要な意味をもちます。

地球は全体が大きな磁石のような存在で、現在は北極がN極、南極がS極になっています。しかし、地球の長い歴史の中では、この磁極が何度も逆転してきました。

コアサンプルに含まれる磁性物質は、その時代の地球の磁極の向きを記録しています。磁極の逆転の起こった年代は化石など様々な方法で特定されているため、コアサンプルの磁場を調べることで、コアの年代を推定することができます。

 さて、コアサンプルに記録された磁場を測定しようとすると、地球の現在の磁場や電気製品の発する磁場の影響が邪魔になります。そのため、超伝導磁力計は外からの磁場が入らないようになっている磁気シールドルームに設置されています。この部屋の壁は磁気を帯びやすいニッケルや鉄の合金でできていて、外部の磁場の影響を全て吸収しています。コアサンプルに残された微細な磁場を測定するために、部屋の中には磁場を発する電気製品も持ち込んではいけません。

古地磁気を測る装置。ヘリウムガスを使って-270℃まで冷やして測ります。

ガスクロマトグラフィ

ひとつの気体や液体に含まれる成分を成分ごとに分離する手法をクロマトグラフィといい、気体に含まれる成分を分離するのをガスクロマトグラフィといいます。コアサンプルの中に含まれるメタン、エタン、プロパンなどの炭化水素のガスがどれくらい含まれているのかを調べます。掘削してガスが出てくると、船内にガスが溜まってしまい、火事につながる危険があります。そのため、採取したコアサンプルに含まれるガスの量を調べることは、安全管理上とても重要です。ガスクロマトグラフィは、採取したコアにどれくらいガスが含まれているかを計測し、危険な兆候がないかを確認する役割も担っています。

ガスクロマトグラフィの装置。

天秤

ちきゅうでは、サンプルの質量を測るために2つの天秤を使っています。というのも、船は常に揺れているため、重さが安定せず、地上のようにピタッと一定の値が出ないからです。揺れによって見かけの重さが上下してしまい、そのままでは正確な質量がわかりません。

そこでまず、重さがはっきりわかっている分銅を使って天秤を調整します。異なる重さの分銅を組み合わせて測り、そのとき天秤がどのように反応するかを集め、基準となるグラフをつくります。

サンプルを測るときは、その揺れを含んだデータをこのグラフに当てはめることで、本来の質量を推定します。地上ならば一つの天秤や体重計に乗るだけでいいのに、船の上だと質量を測るだけでも一苦労ですね。

二つ並んだ天秤

床のねじ穴

ラボの床を見るとねじ穴がたくさん開いていることに気づきました。45 cm間隔で穴が開いています。これは机や装置を固定するためのねじ穴だと教えていただきました。部屋の端っこならば壁に固定しますが、部屋の真ん中にある机などは床に固定します。実は「ちきゅう」のラボは机や装置の場所を変えることができるのです。毎回違う航海の目的に応じて最適な配置にしています。航海ごとに違う研究者が乗り、違う作業をするので、毎回模様替えをしているのですね。大学や研究所のラボでは模様替えを頻繁にすることはないので、これも「ちきゅう」ならではです。

ラボの床に空いている穴

ラボで行われている分析一つひとつは、地球の歴史や地震の記録、深部の生命の探索など、さまざまな研究の“基礎”をつくっています。その正確さを支えているのが、装置を知り尽くし、その場に応じて適切に実験装置を操作するラボテクニシャンのみなさんです。

ここで得られたデータがどんな研究につながっていくのか、ますます楽しみになりました。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!



Author
執筆: 丸山 遥香(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に関わり、来館者へ展示解説や情報発信、対話活動を行う。ノーベル物理学賞イベントの担当、地球深部探査船「ちきゅう」の乗船サイエンスコミュニケーターとしての活動を行った。

【プロフィル】
なんとなく進んだ大学の物理学科で物理の面白さに目覚め、原子物理学を専門に博士号(工学)を取得。その後ポスドク研究員として量子センサの研究に従事。科学の楽しさを多くの人に広めたい、科学にまつわる意思決定の手助けをしたいと思い、未来館へ。科学や技術との付き合い方を一緒に考えたいです。

【分野・キーワード】
物理学、原子物理学、量子